05 初めて負けた相手
闘技場の一角の部屋。そこは医務室。戦いに敗れ怪我を負った者が運ばれる場所だ。私とリップとエピカは3人川の字に3つのベッドで横になっていた。私が意識を取り戻す頃には2人とも目を覚ましていた。
医務室に取り付けられたモニターには、今まさに優勝したクゥシ組の3人が表彰を受けている放送がされている。
「あー、あとちょっとだったのに」
悔しそうにリップが呟く。
「確かに、あと1勝だったのよね」
あと1勝。数字にすれば簡単だけど、その1つへの道のりは想定以上に茨道だった。圧倒的魔力、緻密な作戦、何をとっても勝ち目がなかった。
「それにしてもあの3人の魔力、一体どこに?」
「その答えは、もうすぐ分かるかもよ」
エピカの言葉と目線に私達はモニターを見つめる。映像には試合の内容をもう一度と、再放送の表示があった。
モニターに映し出されたのは、私達の入場シーンから。という事は、私の最初の特攻から間抜けな吹上の風の所まで国中に晒される訳だ。そう思うと途端に恥ずかしく感じてくる。
しかし一番試合中で叫び声をあげて動けなくなっていたリップは、意外にも真面目にモニターを見つめていた。
「リップなら、見たくないから変えて!って言いそうだったけど」
「そりゃ恥ずかしいわよ!クゥシ君に見られてたなんてと思うと……。でも負けた試合は、失敗はしっかり見ないと次に進まないから」
「ふーん。リップも変わったわね」
リップの志に思わず感心している。いつもなら「次頑張ろう!次次!」なんて明るく振舞っている。いや、もしかしたら、そう言っている陰で今のように失敗を糧にしていたのかもしれない。
さて映像は私の特攻のシーン。私が特攻している間にも2人はツヅミに向かって魔術を放っていた。ツヅミも2人の攻撃に翻弄している。ここまでは作戦通り。そして私の放った全力の魔弾が炸裂して爆発する。爆発の威力で映像が大きく揺れて乱れている。
「かわされたわね」
交わし方は弧を描く様に私の周りを高速で移動していた。瞬間移動的な超能力ではなかった。
「さて」
問題の強風吹上のシーン。色々な感情を押込めて視聴しようと身構えたが……。
「ちょっと、全然見えないじゃない!」
リップが私達の気持ちを代弁してくれた。
モニターが映し出すのは灰色の砂嵐。それ以外何も見えない。テレビの故障かと最初は思った。しかし、リプレイというテロップは映し出されているので、これは撮影者側に何か問題があったみたいだ。
「駄目ね。ネット上に上がったどの映像も同じみたい」
エピカが呟く。それを聞いて私も調べ始めると面白い記事の見出しを見つける。
「『魔導武道会神試合、記録残らず』だって」
内容はタイトルの通り、どの取材班の映像も初期しか映っていないのと、大会の映像を持つ人を募集しているのと、優勝を祝うコメントがあるだけだった。
そしてモニターは、気づけば何事もなかったかのように優勝チームの表彰式を映し出していた。
「ねえ。いいこと思いついた」
リップが突然口にする。
「何よ、いい事って」
「ふっふーん、試合中何があったか一番わかる方法」
リップのにやつく顔つきから、その方法は相当自信があるらしい。
「そんなのクゥシに聞きに行くのが一番じゃないの?」
そうエピカが口にする。
「えぇ⁉ほんとに?」
「正解ー」
簡単に当てられて少し不服そうなリップ。
でもそう上手くいくのか少し不安に思える。
「でも話してくれないかもしれないわよ?」
「それはー……。作戦会議!」
リップの言葉に3人が中央ベッドに集まる。
そして何だかんだでクゥシの元へと向かう事が確定した。
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