04 倒せるはずの敵

 大会会場、コロシアムの前の廊下の待機場所。目の前の扉の先には天井が吹き抜けたコロシアムがある。

「ルールは時間無制限、リーダーノックアウト方式、それでは各選手の入場です!」

 大きな歓声と共に、目の前の大扉がゆっくりと押し開けられる。扉が開くと共に凄まじい大歓声が耳に入って来る。私はこの大会2度目となる大歓声は、個人戦の決勝戦よりも凄まじさを感じた。

「いくわよ!」

 私は大きく深呼吸をして、光と歓声の方へ進む。リップとエピカは私の後方をついて来る。

「さて!やはり優勝はニオ率いる超火力パーティが勝つのか!チーム『18』!」

 ワッと大歓声が広がる。モニターには私たち3人の姿が映し出され、リップはご機嫌に手を振りまいている。

 私達はゆっくりと歩み、そして中央付近の各持ち場に待機する。

 間もなくして、私達とは反対側の扉が開く。

「さて!こちらも注目!個人戦初戦敗退組が、まさかまさかの決勝戦!推薦入団した謎多きクゥシを含むチーム『クゥシに攻撃しないで隊』!」

 呼ばれるチーム名に、こっちが恥ずかしく感じてしまう。

 向こうは満更でもない様子で、堂々と3人が歩いて会場に入って来る。フォーメーションはリーダーが後方の基本的な守備型陣形のようだった。

 大歓声の中、試合が始まるカウントダウン、つまりは出入り口と今立つ中央を繋ぐ橋が上がり始めた。

 私は2人の士気を上げるため声をかける。

「エピカ!リップ!作戦通り行くわよ!」

「分かったわ!」

「りょーかい!」

 2人は構えを見せ、戦闘態勢に入る。

「ニオ先輩!開会式以来じゃないですか。相変わらず調子いいみたいですね。手加減してくださいよ」

 向こうも作戦なのか、当たり前のように話しかけて来た。

「生憎だけど、ゆっくり構っていられる時間は……ない!」

 橋が音を上げて上がりきると同時に、私は爆発術で全力でクゥシの至近距離に近づきにかかる。

「いや、無理無理無理無理」

 想定外の行動だったのか、クゥシは手を仰ぎ後方へと下がっていく。

 小癪にも小さな守備魔法の壁を数枚張ってきた。そんなもの私の魔法の前では紙切れ同然な訳だけども。

 そしてクゥシのすぐ目の前までたどり着く。私は右手に強大な炎魔法を纏わせ、クゥシへ目がけ右手を大きく振りかぶった。

「これで終わりよ!」

 壮絶な爆発音と爆風。手ごたえを感じた。確実に場外の壁まで吹き飛ばしてやった。全治2週間ぐらい、相当本気で殴った。

「先輩、いきなり終わらせようとするなんて酷いじゃないですか」

 その声に驚き振り返ると、不敵に微笑むクゥシの姿があった。しかし彼はかなりの手負いの様で、右手は肩から完全に機能していないようで、腕が垂れ下がっている。

「どうやって回避したのかしら?まあ、その状態なら試合後に見舞い時に聞きに行くわ」

 強気に声掛けするが、正直想定より魔力を使って内心焦っている。後、回避動作が全く見えなかった点も不愉快で不気味だ。

「そうしてください。でも先輩の宣言した5秒は耐えましたよ」

「それだけは褒めてあげるわ」

「よし。準備できたか」

 クゥシの言葉に、詠唱魔法の疑いがある敵のツヅミの方を見る。ツヅミはリップとエピカの猛攻に圧されてアタフタしている。潰れるのは時間の問題と見た。

「よそ見している暇はないですよ先輩!、2、、56、8!」

「2568?」

 そうクゥシが数字を口にした瞬間だった。

「うわっ!」

 コロシアム全体が突然、突風を襲ったのだ。しかもただの突風ではない。

「いやあああん!」

 叫び声をあげたのは先程まで善戦していたリップだった。それに叫び声は彼女1人だけのものではない。この試合の観客者を含む、相当な数の人が叫んだ。私も実際声を上げた。声を上げた人の共通点。それは皆がスカートを着ていたという事。

 突然襲い始めた突風は、上昇気流の上に向く強い風だったのだ。

「あなた何を!」

 私の問に何も答えず不敵に微笑むクゥシ。私はスカートを抑える事しか出ない。

 全国放送で恥さらしもいいところ。リップは完全に服を抑え込んで動けない。エピカも前を抑えて戦闘に奮闘しているが、まるで力が籠っていない。下級のスミカ相手に互角か若干負けてる。

「ツヅミは?」

 見当たらなかった彼女の姿はコロシアム中央にあった。彼女は魔法陣の中心で詠唱している。

 彼女を止めないと、私達が負けてしまう。

「させませんよ。って言ってももう時間切れですけどね」

 クゥシ組の3人が中央に集まる。先程まで詠唱していたツヅミが左手を高く上げ、左足を踏み込み音を鳴らす。すぐに今度はスミカが左足右足と1回ずつステップを踏み、左手を上げる。今度はクゥシが地団駄を踏むように数回足を踏み鳴らし、左手を上げた。

「何よ、あれ……」

 クゥシ、スミカ、ツヅミの頭上上空。水の塊かと思えば突然燃え始め、火柱を高く高く伸ばし、そしてその火柱は3つに別れて空中で曲がり地上へと向かってきた。その動きはまるで宙を漂う伝説上の火竜に見えた。

 とてつもない高威力の複合魔術。こんなのまともに受けたらひとたまりもない。

「2人ともガードして!」

 私が声を発した直後に轟音と爆風が私を襲った。

 私は守護術をかける余裕がなかった。しかし私は不思議と無傷。咄嗟に魔法が発動するほど守護術を得意とはしていない。

 爆風の土煙から視界が一変して見えるようになった。爆風のせいか先程までの下から突き上げる風は無くなっている。リップもエピカも無傷で呆然としている。魔法は直前で失敗した?

「よっしゃ!出来た!過去最高魔力!」

 何か中央で騒ぐクゥシ組の3人。3人の姿はどこか風貌が変わった気がする。例えるなら少し燃えている感じ?なのか赤く火照っているようにも見える。

 私達チームも目線を合わせて3人が集まる。

「もう、最悪よ!全部脱げかけたわよ!まんまとやられたわ!」

 リップは声を荒げる。まだ動揺を隠せない様子だ。

「そんな事より、さっきの魔法……」

「あの3人を見る限り、エンチャント系だと思う」

 エピカがそう呟く。

 その言葉にクゥシが反応し、こちらに指をさして来た。

「正解!やっぱり君は見る目がある」

 そう嬉しそうに話し始めるクゥシ。

「このエンチャントは攻守上昇はもちろん、各属性の耐性強化にその他様々な能力向上が期待されるんだ。もう君たちに勝ち目はない」

 鼻を衝く言い。相当自信があるらしい。

「ふん!言ってくれるわね。リップ!エピカ!さっきのお返し、やってやるわよ!」

「もちろんよ!」

「協力するわ」

 私は前方に火の魔力、火の玉を掲げる。それにリップとエピカも火の玉を作り、合わせる。火は炎、業火、百熱へと変わり、おどろおどろしい黒赤色の大きな塊へと変化していく。

「受けきれるものなら受けてみなさい!」

 私達の合成魔法はクゥシ達目がけて放たれた。そして火柱が立つほどの爆発。確実に命中したはず、なのに。

「何で平然としてるのよ」

「僕たちに魔術も物理も通用しない。それに合成魔法ってのはこうするんだ」

 その言葉と共に現れたのは、複数の大竜の群れ。その身体は白く、冷気を纏いこちらを睨みつけてくる。あの大きさの竜なら、私達なんか一飲みだろう。

 絶望的な状況。恐怖に足が竦むなんて感覚は初めてだった。

「じゃあ、終わりにするよ」

 巨竜の群れは大空を飛び回り、嵐のような風が起きる。そして猛烈な風が私達3人を地面から引き剥がし、場外へと拭き飛ばす。

 私は場外の壁に突き飛ばされ、竜が嘲笑うかのように空を舞う姿を最後に意識を失うのだった。

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