03 決勝の敵
すっかり行きつけになってしまったカフェ『iii』。魔導兵士寮のすぐ近くにあるカフェモカの美味しいこの店は、私達魔導武道大会チーム『18』の行きつけになっていた。作戦会議と題して、いつもここの同じ席に集まる。かれこれ初回、準決勝の会議を含め3回目で実際3日連続のティータイムな訳になった。
「さて、決勝の相手だけど」
テーブルの中心に資料と映像データの入ったモニターを乱雑に置く。チーム名『クゥシに攻撃しないで隊』と、明らかにリーダーに攻撃して欲しいのか、して欲しくないのか何とも言えないチーム名。
詳しい解説をリップが話し始める。
「リーダーはクゥシくんで、スミカとツヅミとのチーム。戦術は実際見た感じ、個人個人で動いて1人1人を場外に飛ばしていく戦術みたい。でも3人にこれと言って切り札となる魔術はないのよね」
リップは大きくため息をついた。掴み処のないチームに対してなのか、それほど強くないクゥシに対してなのかは分からないが、そういうもどかしい気持ちなのはくみ取れる。
「クゥシは天才と言うだけあって様々な種類の魔法を扱えるけど、とこか威力不足。スミカも水魔法を得意としているけど、威力にむらがあり過ぎて基本弱い。ツヅミに関しては魔法は回復魔法しか使ってない」
「この子たち、個人戦は全員初戦敗退組なのよね」
エピカは映像を見ながらボソッと呟く。
初戦敗退メンバーだから映像データは準決勝の物しかない。情報が少なすぎる。
「敗戦したチームからの情報は?」
「運で負けたとか、手応えはあるのに中々倒れないとか、気づくと押し出されていたとか、何とも言えない感じ」
エピカの説明に思わずため息が出る。いったい何をどうやって勝ち進んできたのよ。
しばらく考え込む中、リップは閃いたのか口を開く。
「賄賂っていう可能性は?」
「ないわね」
「ないない」
2人同時の否定で笑いがこみ上げる。
「年間分給料のボーナスを超すような賄賂なんてある?」
「えー、結婚してくれるとか」
リップは自分で言って少し照れている。
「それはあなただけよ」
「分かった!」
突然のエピカの大声に少し驚く。
「何が分かったのよ」
「これ見てよ」
エピカが差し出して来たのはクゥシ組の準決勝の開始の映像。
「私これを見て、なんか戦闘開始までの雑談が長いなーなんて思って見てたのよ」
確かにルール上で入り口の橋が上がりきった時点で戦闘開始なのに、この映像の準決勝はクゥシと敵のリーダーが雑談を交わし、6人仲良くコミュニケーションを取っている様に見えていた。
「ほら彼女!一緒に笑ってるようで、橋上がると同時に口を小さく動かし始めてる」
指したのは回復役のツヅミだった。確かに言われてみれば口が動いている。これは間違いなく詠唱魔法を唱えている。
「なるほどね。このクゥシの巧みな話術は時間稼ぎと言う訳だったのね」
きっとかなり強力な詠唱魔法なのだろう。ツヅミのタイプからして、能力強化系と言った所かしら。
「種が分かればこっちのものね。作戦はこう!開始と同時にリップとエピカは、ツヅミの詠唱の邪魔をしに行くのよ」
「分かったわ。ニオは?」
リップの返しに私は自身の笑みを浮かべる。
「速攻でクゥシを倒すわ。5秒で片付けてやるわ!」
こうして私たちは自信に満ち溢れながら、明日の決勝へと英気を養うのだった。
大会当日。私は大粒の雨音で目が覚めた。
「雨、か」
もちろん大会は雨でも実行する。武闘会場は外のコロシアだけど、どんな悪天候でも魔導の世界ではそういう戦う舞台として設定されるのだ。
私は火系の魔術を得意とするので、出来れば雨だけは避けたかった。しかしこの雨は昨日の天気予報からしてもあり得る天気だった。
私は朝食を取り、身だしなみを整える。準決勝でもかなりの観戦者、そして記者達の姿が見えた。決勝は毎年見ている通り全国放送になるだろう。
お気に入りの髪飾り、お気に入りの服、勝負下着。服が濡れるのは嫌だけど、速攻で片付ければ問題ない。
準備を終わらせた頃に、部屋に呼び出しのインターフォンが鳴る。迎えに来たのはリップ。2人で今度はエピカを迎えて3人で会場へ臨む。
「ニオー行くよー」
「はーい!」
玄関を開けると可愛らしいスカートのワンピースのリップの姿。
「気合入ってるわね」
「もちろん!それに天候も私たちに味方してきたみたいよ」
そう言われ外を見ると、先ほどまで大雨が降っていたのが嘘みたいに雲の切れ間から日差しが出始めて、なんとも幻想的だった。
「これなら雨具もいらないわね」
「ニオの家に傘置いて行ってもいい?」
「いいわよ。さて、行くわよ!」
何だか流れが良くなってきた中、私達は別棟のエピカを拾って闘技場へと向かうのだった。
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