第3話

 翌朝、またダンは物が落ちる音で目覚めた。昨日落ちた絵だ。拾ってみるとゴミが付いている。絵の髪を撫でてそれを取り、綺麗にしてやる。風が吹いていた。ダンはゾクリとする。ふと窓の方に目を向けると、窓枠の下にある床に、同じ手紙が落ちていた。見られている以上、読まないわけにはいかない。ダンは手紙の封を切る。

《昨日は楽しそうでしたね。何か、いいことがありましたか? 貴方の嬉しそうな顔を見ることができて、私も大変嬉しく思います。いつでも、貴方の幸運を願っています。それでは》

 なんということだ。声を漏らしそうになって、口を閉ざした。一体どこから、この手紙の主は見ているのか。窓から顔を出すと、ユーがいた。

 彼女は下着姿で、たばこを吸っている。黒い下着が包む白い肌を見てしまった。ユーもその視線に気がついたのか、ダンと目を合わせる。しかし、それで嫌な顔をする ことはなく、慌てて隠れることもない。ただほんの少しカーテンを引っ張って、申し訳程度に体を隠して、手で挨拶してきた。顔は笑っている。

 もしかしたら、この手紙はユーが送ってきたものではないのか、ダンはそう仮定した。手紙を見つけた日、家に来たのはユーだったし、昨日も今日も窓を開けていた。窓は向かい合わせではないが、アパートメントの間隔は狭いから、お互いに十分に手に取れる距離だ。考え始めると、それが真実に思えてきた。

 彼女はどうやら、手紙のほうが上手くコミュニケーションを取れるらしい。ならば、それに対する返事を書こうと、ダンは思い立ち、部屋を引っ掻き回した。確か古いタイプのレターセットを買ったはずだと、思い出したからだ。十数分後にようやくそれを取り出して、サラサラとペンを滑らせた。

《お手紙、ありがとうございます。私も、貴女からこのような手紙をいただけて嬉しいです。また手紙ください。待っています》

 それだけ手短に書くと、三つ折にする。封筒もあったはずだが、どうやら切らしてしまったらしい。封をするための蝋も買おう。ダンは窓から顔を出し、隣のユーに話しかける。

「これから、買い物に行かないか?」

「いいね」

 ユーは快く返事をした。カーテンを翻し、白い腕を袖に通すのが見えた。ダンもすぐに支度し、外へと向かう。先にユーが出ていて、階段で煙草をふかしながら待っていた。行こうとダンがいうと、ユーは煙草を彼に与え、指を絡めて手を繋いだ。

「どこ、行くのさ」

「雑貨屋。封筒とシーリングワックスを買いに行くんだ。あと、便箋もね」

「そう」

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