第44話
「――っ、やった!」
魔石の位置に魔法が命中し、貫通した光景を見てジャンヌは歓喜の声を上げる。魔物は魔石を貫かれたからか、先程まで振り回していた腕も力無く垂れ下がっていた。
「ふぅ、何とかなりました」
その様子を確認したジャンヌは緊張の糸が切れ、脚から力が抜けてしまい、その場に座り込んだ。一息ついたところでもう一度魔物の様子を確認しようと顔を上げた時――――
「――――えっ?」
ジャンヌの視界を埋め尽くさんばかりの炎が目の前に迫っていた。
死んだふり、相手を油断させ必殺の一撃を与えるための策。奇しくも、それはジャンヌが魔物に使ったものだった。今までの行動から智能が低いと思われていた魔物の
(回避行動は間に合わない、防御用の結界を張る時間もない・・・)
あらゆる行動が手遅れだった。ジャンヌがその事を悟るのにそう時間はかからなかった。
迫る炎の熱を肌に感じながらジャンヌは瞼を閉じた。
幸いにも、炎に焼かれて死ぬのは経験済み、と自分に対する皮肉を思いながら炎に焼かれるその時を待った。
「・・・・・?」
だが、何時まで経っても身体が炎に焼かれる痛みが来ない。疑問に思い瞼を開けたジャンヌは驚愕に目を見開いた。
「よう、ジャンヌ。無事か?」
ジャンヌが見たものは、彼女を守るように炎を背に立っている黒いローブを着た勇士の姿だった。その顔には笑みを浮かべていた。
◆
「一応、俺の忠告には従ったみたいだな」
勇士は空高くまで伸びている光の柱見て、そう呟く。彼は今、町に侵出した魔物たちに襲われている人々を助けながら、燃え盛る町の一画を目指して爆走していた。
「ひっ」
「シャァァアアア」
「ハァッ!」
「グゲェ!?」
人を襲おうとしていた全身が鱗で覆われている、蜥蜴を二足歩行させたような魔物『
『何だかんだ言って主殿は人間を見捨てられないようじゃのう。全く、主殿は甘過ぎる』
「・・・・ほっとけ」
常夜が呆れた口調で勇士に話かけるが、勇士は不貞腐れたような表情をして投げ遣りな言葉を返した。
しかし、実際にあちこちで人々を助けているせいで目的地への到着が遅れているのも事実である。だから勇士は常夜に言い返す事が出来なかった。
「ほっと」
「グギャア!!」
勇士は道中で発見した。緑色の肌に子供ほどの身長で醜い容姿をしている『
『あ、主殿は儂で何という物を切るんじゃ!?ゴブリンなどと穢らわしい物を儂で切るんじゃないわ!!』
「喧しいな!別に返り血が付いた訳じゃないだろ!?それに魔力でコーティングしてるんだから直接触れてないはずだ!」
その抗議に対して勇士が怒鳴り返す。
『それでも嫌なものは嫌なのじゃ!主殿が素手でやればよかろう!』
「そんなの俺だって嫌だわ!」
『遂に本性を表しおったな!?』
常夜が子供の我が儘と同レベルの駄々をこねると、勇士も本音を漏らし、下らない言い合いが更にヒートアップする。
「シャアアア!!」
「『五月蝿い!』」
そんなタイミングの悪いところで勇士たちに遭遇した憐れな
勇士たちは下らない言い合いをしながらも人々を襲おうとしている魔物たちを駆逐していった。
途中から人を助けるためから八つ当たりするために目的が変わってしまっていたが、八つ当たりの被害にあったのは魔物だけなので問題はないだろう。
「む?勇士ではないか!どうしたのだ?」
「ん?武蔵か・・・派手にやってるな」
勇士に声をかけてきたのは返り血を身体の所々に付けて邪悪に笑う魔王・・・・ではなく、凶悪な笑みを顔に浮かべた服屋の店長、武蔵だった。
「それで、どうしてその様に言い争っているのだ?」
「ああ、こいつが魔力でコーティングされてるから直接触れてないのにゴブリンを切るなって言ってるんだよ」
『なんじゃと!?それなら、主殿だって拳を魔力でコーティングすれば良いじゃろうが!』
またギャーギャー言い争いを始めた二人?を尻目に、武蔵は心底不思議そうに口を開いた。
「ならば斬撃を飛ばすか、拳撃を飛ばせば良いだろうに・・・何か問題があるのか?」
「『・・・・・・・』」
「た、確かにな」
『う、うむ。何故、主殿と儂はそれを見落としていたのか・・・・』
勇士と常夜の共通認識において、馬鹿だという事になっている武蔵に正論を言われた彼らはショックを受けていたが、何とか立ち直り、武蔵の言葉に同意した。こうして、下らない事で始まった言い争いは終わった。
「そんな事より、お主らは早くあのデカブツを倒して来い。露払いは我輩がやっておこう」
武蔵にそう言われ、漸く本来の目的を思い出した勇士たちは慌ててその場から飛び去った。
「しまった!じゃあ、武蔵、悪いが頼んだぞ!」
『むう、本来の目的を忘れては本末転倒じゃの。儂とした事が情けない・・・』
「構わん、お主が再び戦場に立つならば我輩にとっても良いことだからな。・・・・・それに、大物はあのデカブツだけではないしな」
武蔵が最後の方に言った呟きは勇士たちには届かなかった。届いたとしても、目下、勇士にとって最も重要なのはジャンヌの安否なので気にしなかっただろう。
「いた!」
『ほう、あ奴か。ジャンヌとやらは』
勇士がジャンヌを発見したのは丁度彼女が座り込んだ時だった。
「あいつ、油断しすぎだ!」
『そうじゃな、作戦は良かったが詰めが甘かったのう』
魔力を見る事が出来る勇士たちには魔石が魔物の体内を移動するところが見えたのだ。そして、ジャンヌに向かって炎を放つところも見えていた。
「不味い!!『
勇士の身体能力をもってすれば、炎がジャンヌを包み込む前に彼女がいる建物に到着出来るだろう。だが、この騒ぎでボロボロになった建物が着地の衝撃に耐えきれずに倒壊してしまう恐れがあるので、勇士は転移魔法を使用した。
勇士はジャンヌの前に炎を背にする状態で転移した。そして、驚きで目を見開いたジャンヌに笑顔で声をかけた。
「よう、ジャンヌ。無事か?」
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