第42話

「邪魔です!」


ジャンヌは手に持った槍で魔物を凪ぎ払う。

魔物は防ぐ暇もなく両断され、魔石を残して消えていった。既に彼女は金色の鎧を身に付けていて、まるで敵地にいるかの如く精神を研ぎ澄ましていた。

ジャンヌの周囲の地面には魔石が散乱しており、彼女が魔物の集団と戦った事が分かる。どうやら先程の魔物が最後の一体だったようだ。

ジャンヌは他の魔物がいるかどうか辺りを注意深く見渡した。


「他の魔物はいないようですが、やはり酷い光景ですね」


魔物の姿はなかったが、ジャンヌの視界に映った周囲の光景は悲惨だった。

ほとんどの家などの建築物は破壊され、火の手が上がり無事な建物など皆無だ。道路には瓦礫があちこちに転がっている。更に時々爆発が起こり、悲鳴や泣き声、親を、子を捜す叫び声も聞こえてくる。魔物は我が物顔で崩壊した町の中を闊歩していた。最早、ジャンヌと勇士が出掛けた時の平和な光景の面影はない。


「早くあの魔物を倒さなければなりませんね」


ジャンヌはこの悲劇を引き起こし、未だに暴れまわっている巨大な魔物を見据えて、覚悟を決め、走り出す。


「今回は必ず勝ってみせます!」


一度は敗れた相手、しかもジャンヌは知らないが前回よりも強くなっている。ジャンヌの敗北は確実だが、その情報を彼女が知ったとしても選択は変わらないだろう。

それが、ジャンヌ・ダルクという英雄なのだから。


「ここからなら!」


ジャンヌは巨大な魔物が自分の魔法の射程圏内に入ったところで足を止める。魔法の詠唱を始めようとした時、ふと、勇士との会話を思い出した。


『――― あと、あの巨大な魔物に対して核、魔石が何処にあるのかも分からないのに一点だけを攻撃するような魔法を使ってたからな、戦闘経験が少ないだろうとも予想できた』

(そう言えば、勇士さんがそんな事を言ってましたね・・・。あれは助言のようなものでしたし、勇士さんは素直じゃないだけで面倒見が良いのかもしれませんね)

「ここは勇士さんの助言に従うのが賢明ですね」


素直じゃないが面倒見の良い勇士のことを想像して、思わずジャンヌの顔が綻ぶが、直ぐに表情を引き締めて魔法の詠唱を始める。


「神聖なる光よ、闇に潜みし邪悪に公平なる天罰を与えたまえ『断罪の光ジャッジメント・グリーム』」

「グオ?グオオオオォォォォ!?」


ジャンヌの詠唱が終わると、魔物の足元に巨大な魔方陣が現れた。魔方陣から光が発せられ、魔物を包み込む。光のせいで魔物の姿は確認出来ないが、光の中から聞こえる魔物の叫び声から魔法が効いている事が分かる。


「今のうちに移動をしなければ」


魔物に魔法が命中したところを見た後、直ぐに場所を移動する。かなり距離が離れているとは言え、あの規模の魔法に使用する魔力量は少なくはないので、魔法を使える上位の魔物が相手だと魔力の動きで居場所がバレてしまうのである。

そのため、光で相手の視界が塞がれているうちに場所を移す必要があったのだ。


「光よ『光弾ライトバレット』」


光が納まったタイミングを見計らってジャンヌは走りながら次の魔法を放つ。先程の魔法より規模も威力も劣るが連射性に優れた魔法で、発動するのにあまり集中力を必要としないため、走りながらでも問題なく発動できるものだ。相手に位置を捕捉されないために立ち止まりたくない今の状況にピッタリの魔法だった。


「グオオオオオ!!」


光が納まったタイミングで更なる攻撃を受けて、魔物はふらついてしまうが魔法の威力が低いことが幸いして態勢を立て直し、魔法で黒い棘を造り出す。それをジャンヌに向けて放つが、ほとんどは『光弾ライトバレット』とぶつかり相殺され、運良くぶつからなかった棘もジャンヌが走って移動しているため当たらない。そのことに苛立った魔物はその苛立ちを発散するために、腕を滅茶苦茶に振り回し始めた。


「なっ!?」


その行動はジャンヌからすれば、たまったものではない。魔物の腕によって破壊され、宙を舞った建物の瓦礫が頭上から降り注いで来るのである。魔物からの魔法は止まっているが、ジャンヌも瓦礫を避けるのに精一杯で魔物に向けて魔法を放つ余裕がない。


「グオオオオォォォォ!!」

「くっ!!」


ジャンヌが瓦礫を避けた直後に、魔物が雄叫びを上げながら途中にある建物を気にも留めず、ジャンヌに向かって一直線に走り、腕でジャンヌを薙ぎ払う。

ジャンヌは降り注いで来た瓦礫で視界が遮られていたため、気付いた時には既に魔物の腕が回避出来ないところまで迫っていた。辛うじて槍での防御は間に合ったが、想像以上の衝撃に万全の態勢ではなかったジャンヌは踏みとどまれず、吹き飛ばされてしまう。ここで漸くジャンヌは魔物が前回戦った時よりも強くなっていることに気付く。


(魔物の力や速さが前よりも上がっている!?)

「カハッ!!」


ジャンヌは半壊している家に突っ込み、土煙を上げる。その際に壁などに背中からぶつかった衝撃で一瞬、意識が飛びそうになってしまうのをこらえ、魔物の強さについて考えを巡らすが原因は分からなかった。


「でも、どうして・・・・?いえ、今はそんなことより勝つことを考えなければ」


どうやら魔物は土煙が治まるのを待つつもりらしく、追撃してくる気配がない。何故、魔物が急激に強くなったのかは気がかりだが、ジャンヌはその間に態勢を整え、魔物を倒すための策を考えることにした。



――――――――――――――――――――


更新が遅れてすみません。

定期試験が近いので暫く連載が滞ります。

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