第40話

「あいつはもう行ったか・・・」


勇士の呟きは一人だけの部屋の中で溶けて消える。僅かに彼は寂しそうな表情をしていた。短い間ではあったが時間を共有した人がいなくなるのは、流石の勇士でも思うところがあるのだろう。


「結局、魔法と魔力操作を教える約束は果たせず仕舞いか・・・。もし、今のあいつがSランク以上の敵と戦ったら確実に負けるな」


勇士はその事が少しだけ気掛かりだった。事実、ジャンヌの実力は良くてSランク下位の魔物と相討ちになる程度である。その事を考えれば彼女に修行をつけれなかったのが悔やまれる。


(手助け・・・・いいや、俺はもう二度と英雄にならない。ましてや、俺は一時的とは言え神敵魔王だったんだからな)


勇士は神々に恐れられていた前世過去に思いを馳せながらジャンヌの事を考えていた。一度は、手助けをするかと迷ったがすぐに頭を振ってその考えを否定する。


「ジャンヌ・ダルクか、名前とどんな事をしたか位しか知らないな。調べてみるか」


ふとジャンヌの過去に興味が湧いた勇士は、自分のスマホをポケットから取り出して彼女の名前を検索する。


「おっ、あった。百年戦争末期に活躍したのか。神からの信託を受け取ることができるって、かなり優秀な聖女だな」


最初のうちは文章を読み進めるだけだったが、徐々に表情が険しくなっていく。

最後の方にあったジャンヌの死因が気に食わなかったのだ。


「―――― 異端審問の判決により火刑に処されて死亡だと・・・?」


スマホを握り潰さんばかりの力が勇士の手に籠められる。だが同時にある疑問が浮上した。


(待てよ?あいつは予知夢に近い天啓受け取ることができたはずだ。なのに何故捕まった・・・?その気になれば逃亡して安全な所に逃げること位、容易にできる能力だぞ?)


そう、神から予知夢に近い天啓を受け取ることができたジャンヌをただの人間が捕まえるのは、数が多くても困難を極める。ましてや、彼女は救国の英雄だ。匿ってくれる場所は少なからずあっただろう。

さらに、いくら自分を信仰する宗教の人間であろうと、神託を遂行した彼女を捕まえて異端審問にかけようとするものなら、神から神罰を受けることになる。


「・・・・まさか!?」


そして、それらの推測から勇士はある可能性に行き着いた。それは ――――


「―――― ジャンヌは自ら異端審問を受けることを選んだ?異端審問から逃げることで自分の信仰心を疑われたくなかったのか・・・?いや、どうせ疑われるのなら自分の信仰心を貫き通して一矢報いたかったのか?」


そこまで考えた所で勇士は苦笑した。

ジャンヌの言っていた言葉は強ち間違いではないなと思ったからである。


「俺よりもずっと英雄にふさわしいなあいつは。俺の力があいつにあれば・・・」


ジャンヌと自分を比べて、人間としてのできの違いに自嘲していると、巨大な気配が町に近づいていることを感じて素早くその気配なの動きを確認する。


「・・・・・っ!?」


その気配が町に入った途端、その方角から爆発音が響き渡る。

咄嗟に窓の外を見ると、町の一画から火の手が上がっているのが見えた。

その気配を完全に捉えた勇士は戦慄した。


「・・・SSランク」


この時、勇士の頭に真っ先に浮かんだのはジャンヌのことだった。彼女では絶対に敵わない相手だ。しかし、彼女は無謀だと分かっていても戦うだろう。

英雄として少しでも多くの人を逃がすために・・・・・。


「ジャンヌ!!くそっ!」


勇士は即座に家を飛び出す。目指すのは山の中、あの黒い刀がある場所だ。

神々の考え通り、彼はジャンヌという英雄の存在により再び表舞台に立つことになった。



――――――――――――――――――――


魔物の強さの説明をしていなかったのでここで説明したいと思います。

あとで「第1話」に加えておきます。

SSS~Sランクまでは魔物の例を挙げます。

魔物の強さは強い方から、


SSSランク・・・神話級、詳しく言えば神話に登場する神々と互角に戦えるレベル。

例)ヨルムンガンド、テュポーンなど。

SSランク・・・神獣級

例)バハムート、リヴァイアサンなど。

Sランク・・・英雄級

例)ファフニール、酒呑童子など。

Aランク・・・準英雄級

Bランク・・・超人級

Cランク・・・達人級

Dランク・・・兵士級

Eランク・・・素人級


こんな感じになっています。

例に挙げた魔物の強さの順番などに疑問がありましたら、質問をしてください。

その他の誤字脱字や意見、質問、感想等ありましたら、コメントして貰えると嬉しいです。

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