第39話
「はぁ、どうしてあんなに怒ってしまったのでしょうか・・・?」
ジャンヌは独り道路を歩いていた。彼女の口からは独り言がもれるが、それに答える声はない。
(ミカエル様から話を聞いた時も憤りを覚えましたが、あそこまで激しくはなかったのに・・・・)
彼女は転生する前の事を思い出しながら自分の感情が分からずに悩んでいた。
あの時、彼女の頭の片隅で理性が『目的を見失わないで!』と叫んでいたが、ジャンヌは心の奥底から沸き上がる怒りと言う名の激情と、彼女自身でも分からないもう一つの感情によってその声はかき消されてしまった。
その結果がこの現状だ。
ジャンヌは泊まる宿、拠点を失い。本来の目的だった勇士の説得も彼の逆鱗に触れまって、彼の怒りを買った。
その事実はジャンヌを落ちませるには充分だろう。
「完全に目的を果たせない状況になってしまいました・・・。これでは私に期待して送り出してくれたミカエル様に顔向けが出来ません。それに勇士さんをあんなに怒らせてしまいました・・・・・恩を仇で返すとはこの事ですね」
恩を仇で返した事を再認識して、ジャンヌはさらに落ち込んだ。それもそうだろう、恩を仇で返すとは裏切りに等しい。その行為を真面目な彼女が許せるはずがなかった。
それをやむを得ないとは言え、行ってしまったのだ。彼女は自身が許せない状態になっていた。
「私は・・・・・」
「あっ、お兄ちゃんと一緒にいたお姉ちゃんだ!」
ジャンヌが何か言いかけた時、聞き覚えのある声が聞こえたので彼女はそちらに目を向ける。
「あれ?お姉ちゃん独りだけ?お兄ちゃんは?」
どうやらジャンヌは悩みながら歩いているうちに、公園の前を通っていたらしい。それを見つけた男の子が声をかけたのだろう。
彼は駆け寄って来るなり、ジャンヌが独りだけなのを見て不思議そうに首をかしげて、彼女に質問した。
「・・・今は一人なんです。それよりも、あなたはどうして公園に一人でいるのですか?もうじき日が暮れますよ。お母さんが心配しているはずです」
ジャンヌは勇士の事を聞かれて一瞬顔を強張らせるが、すぐに元の表情になり、別の話をして話題を逸らした。
「うん、分かってるんだけど・・・・でも、お兄ちゃんみたいになるには、まず、走って体力をつけないとってお兄ちゃんが言ってたから・・・・もう少しだけ走ってたい」
「勇士さんが?」
話を逸らすための話題で予想外な人物の名前が出てきたので、ジャンヌは驚いた。
「うん!お兄ちゃんに助けて貰った後にね、お兄ちゃんにどうやったら、お兄ちゃんみたいになれるの?って聞いたら教えてくれたんだよ!」
明るい元気な声でそう男の子は答えた。
きっと自分を助けてくれた勇士は彼の中では
(あなたは英雄なんてやらないと言っていましたが、あなたはまだ英雄だったようですね。・・・最低でもこの子の中では)
男の子が勇士に憧れている事に気付いたジャンヌは少しだけ嬉しくなった。勇士がまだ英雄である証拠を見つけたような気がしてからだった。
「・・・・そうですか。良かったですね。でも、遅くまでいたら駄目ですよ?」
「はーい!」
ジャンヌの言葉に元気良く返事をした男の子の姿を、彼女は微笑ましそうに見る。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんと喧嘩してもしっかりと仲直りしなきゃダメだよ?」
その場から立ち去ろうとした時に、不意討ちで放たれた言葉にジャンヌはドキリとした。
(子供はそういう所に鋭いですね)
「勿論ですよ」
「じゃあね、バイバイ!」
ジャンヌはこちらに手を振る男の子に内心苦笑いを浮かべていた。
「さて、これからどうしましょうか?」
男の子と話した事で少し心に余裕が生まれたジャンヌは目下の問題の解決案と今後の行動について考えを巡らす。
「まず、泊まれる場所か雨風を凌げる・・・いいえ、雨だけでも凌げる場所を探さないといけませんね。まあ、泊まれる場所についてはほとんど望みがありませんが・・・」
そう言ってジャンヌは雨だけでも凌げる場所を探し始めた。
だが、今ジャンヌがいる場所は住宅街であり、彼女が探している場所は簡単には見つかりそうもなかった。別に橋の下など、そう言う場所がない訳ではないが、この町の地理に疎い彼女にそういった所が分かる道理はない。
そうこうしているうちに、日は完全に暮れた。
「あの子はしっかりと家に帰ったのでしょうか?」
ふと、そんな事を思ったジャンヌが空を見上げた次の瞬間、町に爆発音が響き渡り、町の一画から火の手が上がった。
『オオオオオオオオォォォォ!!』
その炎に照らされて巨大な影が町に姿を現し、咆哮を轟かす。
「あれは!?」
ジャンヌはその咆哮に聞き覚えがあった。
それは昨日の朝、ジャンヌが死闘を繰り広げた魔物だった。
――――その影は厄災と言う確かな形を持って町を蹂躙した。
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