第34話

「お前ら、やっちまえ!」

「オラー!これでも喰らえ!!」


勝敗が決まりきっている戦いが始まった。

違和感を感じていた一部の男たちも味方の数を見て、空元気だと判断したらしい。

数の差だけではなく、彼らは手に金属バットや鉄パイプなどの思い思いの武器を持っているのに対して、勇士が何も武器を持っておらず、素手だと言う事もそう判断した一因だろう。

鉄パイプを手に持った六人の男たちが叫びながら勇士に突撃してくるが、勇士は降り下ろされた鉄パイプを全て回避して彼らにカウンターを決めていく。そのカウンターは避けられる事なく、彼らの体に突き刺さってゆく。


「ぐぁ・・・」

「痛い、痛い、痛い!」

「あっ、脚に力が入らねぇ!」

「ぐぇ、おえぇ」

「腕が、俺の腕がぁぁ!」


ある者は気絶し、またある者は全身を駆け巡る激痛に叫び声を上げ続ける。他にも、脚や腕を骨折している者、吐きそうになっている者がいた。

一瞬で五人もの仲間が戦闘不能になる光景を目の前にして、明きからに男たちの動きが鈍る。


「怯むな!相手は一人だぞ!数はこっちが多いんだ、囲んで一斉に攻撃すれば多勢に無勢、何とでもなる!」

「数に頼った所でお前たちごときが俺に勝てる訳がないだろ。相手と自分たちの力量の差ぐらい戦う前に悟れよ」


男たちのリーダーが何とか数の差を説いて逃げ出す事を考えていた男たちを踏み止まらせる。だが、指揮を最初と同じレベルに戻す事は出来なかったようだ。


(あいつらのリーダー、意外と指揮官として有能だな崩れかけていた指揮を、何とか逃げ出さないレベルまで押し上げたぞ。まあ、逃げ出した所で逃がさないし、逃げられないけどな)


リーダーの手腕を勇士は敵ながら天晴れ、と高く評価しつつ、そう考えを巡らす。

既にこの公園を中心にした一帯は結界で覆ってあり、逃げ出す事は不可能だった。


「てめえがいくら強かろうと、囲んでしまえば何も出来ねぇだろ」

「よくも仲間を!」

「ぶっ殺してやる!」


リーダーは得意顔で自分の策(策と言って良いのかと思うほど単純だが)を説明する。

勇士は何もしなかったためにあっという間に円形に囲まれてしまう。口々に四方八方から罵倒の言葉を浴びせられるが、勇士は冷静にこの状況を分析する。


(囲むとかいってたけど、円が広すぎるだろ。どうせ俺に攻撃出来る人数は少なくなるのに、ここまで広いと自分の間合いに入る所まで近付いたら、仲間同士で場所の譲り合いが起きそうだな)


実際、勇士が分析したように円を縮めてぶつかりそうになった所はぎこちない動きで前後に別れ、場所を譲る。そのせいで勇士としては退屈な時間を過ごす事となる。


「おらっ、死ね!!」

「やっと来たか、少しぐらい連携の練習をしとけよ」

「勇士さん!!」


男たちの武器の間合いに勇士が入り、四方八方から金属バットや鉄パイプが降り下ろされる。それを見ていたジャンヌが悲鳴の代わりに勇士の名前を叫んだ。


「えっ?」

「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ」


だが、勇士目掛けて降り下ろされた金属バットや鉄パイプはボロボロになっているにも関わらず、勇士には傷一つなかった。


「あれだけの攻撃を受けて無傷・・・?何か、何処かでみたような気が・・・・」


その事実がジャンヌの記憶の一部を刺激し、ある光景をフラッシュバックしかけるが、ジャンヌは記憶に靄がかかったような感覚を覚え、思い出す事が出来なかった。


「ひっ、無理だ。こんな怪物倒せる訳がない」

「落ち着けお前ら、まだ俺たちにはリーダーの奥の手があるだろうが!逃げ出した奴は後でリンチにされると思え!」


どうやら、逃げ出そうとした者たちにとって、この不良の集団は恐ろしいものだったらしく、冷静なこの集団の幹部だと思われる男に一喝され、逃げ出そうとするのを止める。


「奥の手か、まともなのが出てくるだろうな?」


勇士は分かっていた事だが、相手と自分の力量の差が大きすぎて、敵としてすら認識するのも怪しくなってきた事にうんざりしていた。

その余裕のある態度が気に食わなかったのだろう、リーダーや一部の男たち(おそらく幹部)の額に青筋が浮かび上がっていた。


「てめえが強いのはよく分かったがよ、これ以上舐めた態度取ってると痛い目見るぞ?」

「ご忠告どうも。だがな、それはこっちの台詞だ。中途半端な事をするつもりなら、大人しくやられてろ」


リーダーは勇士を脅したつもりだったのだろうが、勇士は終始油断などはしていなかったので、中途半端な攻撃をするなら、勇士にダメージを与える事が出来ない。そのため、男たちが無駄な労力を使わないように気を使っているのだが、これも男たちの怒りを買う事になる。


「いいか、てめえ。俺たちのリーダーは魔法を使えるんだよ。しかも中級魔法までつかえるんだぞ!」


どうだ、と言わんばかりに男たちの中の一人が胸を張ってそう言った。

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