第31話
「武蔵さんをあのままにして、良かったんですか?」
「良いんだよ。俺たちが居ても、何も出来る事なんてないからな」
(正直、俺たちがいなくなった後に追い討ちをかけられていないかが、心配だが、何も出来ないのは確かだからな。あいつの精神力を信じよう)
勇士は一瞬、心の中に過った不安を見せないようにして答えつつ、武蔵の精神力を信じた。
決して、鈴と言う劇薬のような存在の地雷を踏み抜いた時の事を想像して、勇士が臆病風に吹かれた訳ではないと思いたい。
「で、何を買ったんだ?」
「ふふふ、秘密です。またお出かけする時に分かりますよ」
勇士は会計の時もジャンヌに財布を預けて離れた場所にいたので、結局、下着はともかくとして、ジャンヌがどんな服を買ったのか知らなかった。なので、ジャンヌにその内容の事を勇士が尋ねると、ジャンヌは笑いながら口に指を一本当てて、そう言った。
その仕草に少しだけ心臓の鼓動が早まったのは、勇士の大小ある秘密の一つになった。
「さりげなくお前の願望を混ぜるなよ・・・」
「バレてしまいましたか。私はこの時代の事を一つでも多く知りたいんです。だから、色々な所に連れて行ってください」
さりげなく、またお出かけしたい、と言う願望を混ぜた事がバレたジャンヌは、珍しく、と言うより初めて悪戯がバレた子供のような表情を勇士に見せた。
「ああ、気が向いたらな。それよりも、お前は怪物どもと戦うために転生したんだよな?」
「ええ、そうです」
「じゃあ、色々な所に行くのは気を付けた方が良いぞ。お前がここに転生した理由の英雄の二の舞にならないようにな」
勇士はジャンヌの願望に呆れながらも、しっかりと彼女に釘を刺す。自分のせいで更に日本に増援を送らなければならない状況になりでもしたら、勇士はゼウスに何を言われるか分かったものではない。まあ、責められるのは確実だが・・・。最悪の場合、その事を口実に戦いへの参加を要求される可能性もある。
「日本に居れば問題はありませんから。それに、怪物が別の場所に現れた時は、勇士さんに私をその地域まで案内してもらわないと、私は戦地にどうやって行けば良いのか、分かりませんから」
「・・・・まあ、考えとく」
ジャンヌが笑顔で語った今後の行動方針に、
表情を曇らせるが、それも一瞬の事でジャンヌが気付く前に元の表情に戻っていた。
だが、言葉の前に不自然な合間を作ってしまい、そこからジャンヌに疑問を持たれないように、話を逸らそうと思った時、勇士は前方から歩いてくる男の柄の悪い四人組に気付いた。
しかも、明らかにジャンヌの事をチラチラと見ている。勇士たちに絡んで来るのは間違いないだろう。勇士はジャンヌに小さな声で警告する。
「ジャンヌ、前から来る奴らが絡んで来るかもしれないが、極力無視してくれ」
「分かりました」
前から来る四人組に気付かれないようにそうやり取りした二人は、変わらない速度で歩き続ける。
「ねぇ、君。俺たちと遊ばない?」
「・・・・・」
案の定、ある程度近付いた所で男たちはジャンヌに声をかけてくるが、ジャンヌはこれを涼しげな顔で無視する。
「ねぇってば!」
だが、それで男たちが諦める訳もなく、男の一人がジャンヌの肩に手を伸ばす。ジャンヌがその男の手を弾こうとした時、その手はジャンヌが弾く前に、勇士によって弾かれた。
勇士の方を見たジャンヌは弾こうとした体制のまま、固まった。
何故なら、勇士の表情が武蔵と口論をしていた時とは比べ物にならない程、怒りに染まっていたからだ。
「汚い手でジャンヌに触るな、このクソ野郎が」
勇士は怒鳴りはしなかったが、その言葉の一言、一言に強烈な怒気を含んでいた。
だが、それすらも分からない男たちは愚かにもジャンヌの名前を知れて色めき立ち、怒らせてはならない相手を怒らせた事に気付かない。
「ジャンヌちゃんって言うんだ。外人さんかな?」
「そんな男といるより、俺たちと遊んだ方が絶対に良いぜ?」
「そうそう、その男は捨てて、こっち来いよ」
「楽しい事を色々教えてあげるよ」
男たちは口々にそう言うが、ジャンヌは迷惑そうな表情をするだけだった。
「ほら、こっちにk ――― ぐぇ!?」
全く動こうとしないジャンヌに痺れを切らしたのか、彼女に近付き、彼女の腕を掴もうとした一人が、勇士に殴り飛ばされた。
その男は仲間の所まで殴り飛ばされ、他の男たちの助けを借りて漸く立ち上がる。
「俺はジャンヌにお前らの汚い手で触るなと警告したはずだが?お前らの頭に付いている耳はただの飾りか?」
勇士はそう言いながら、強烈な怒気と殺気を放つ。今度は男たちも気付く事が出来たようで、完全に気圧されていた。
勇士の後ろにいるジャンヌでさえも、その溢れんばかりの殺気に戦慄する。
「この野郎!よくもやりやがったな!!」
自分が気圧されている事を叫ぶ事で紛らわして突撃してきた男に、勇士は回し蹴りを繰り出し、吹き飛ばす。
「ぐはっ!!」
「ひっ、ひいぃ!ば、化け物!!」
「あっ、ま、待てよ!置いてくな!」
「お、おい、先に行くな!!」
人が5m位、吹き飛ばされたのを見ていた男の仲間たちは情けない事に吹き飛ばされて気絶している男を置いて我先に逃げ出した。
「化け物、ねぇ・・・・」
勇士は男たちが逃げ去った後、そう小さく呟いた。
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