第26話
「いざ尋常に勝負!ぬぅん!!」
勇士と武蔵は暫くの間、動かずににらみ合い、お互いの出方を伺っていた。
先手を取ったのは武蔵だった。試合開始の合図を言うのと同時に丸太のように太い腕を力任せに横に振り抜く、勇士はそれを屈んで避けると、飛び上がりながらアッパーカットで反撃する。武蔵の顎にアッパーカットが直撃するが、彼は平然としていた。
「ちっ!相変わらず無駄にタフだな」
「そう言うが貴様とて、我輩にこの程度でダメージが通ると思っていないであろう」
「まあ、なっと!」
勇士は武蔵のタフさに愚痴を漏らすが、対する武蔵は当然だと言わんばかりの表情をしている。軽口を叩きつつ、勇士は武蔵の体を蹴って距離を取る。再び彼らはにらみ合い、硬直した。
先程まで武蔵は笑っていたにも関わらず、いや、今も笑っているが獰猛な笑みに変わっている、急に戦いを挑み、戦い始めた事にジャンヌだけではなく、頭を抱えていた店員たちも唖然としている。
だが、状況が更に悪化している事に気付いた店員たちは、再び頭を抱える者、慌て始める者、と様々な反応を見せる。
すると、店員の中の一人がジャンヌの方へゆっくりと近付いてきた。その顔には申し訳なさが滲み出ていた。
「ええっと、うちの店長がすみません」
「いえ、こちらこそ、ご迷惑をおかけしてすみません」
その店員はある程度まで近付くと、ジャンヌに頭を下げて謝罪した。
これに対してジャンヌも店員に謝罪をしたため、完全に問題児の保護者同士の会話になっていた。
「こんな事が前にもあったのですか?」
「ええ、流石に決闘みたいな事にはなりませんでしたけど、言い争いはこの前もやっていましたよ。・・・ああ、何で
店員が勇士と武蔵が言い争いを始めた時の反応からジャンヌが質問をする。
店員はジャンヌの質問に答えた後、何やらぼそぼそと独り言を言って溜め息をついた。
「そういえば、あの人は彼氏さんですか?」
「な、ななな何を言うんですか!?ち、違います。友人です!」
店員が思い出したように顔を上げ、質問してくる。その内容にジャンヌは顔を真っ赤にしながら否定した。
その答えに店員が意外そうな顔をした。
「そうですか。意外ですね、お似合いだと思ったんですが」
「お、お似合い!?」
店員の何気ない一言に、ジャンヌは顔を更に真っ赤にした。頭から湯気が立ち上る幻影が見える程まで赤面したジャンヌは、暫くの間脳が機能を停止してしまった。
「あっ、また始めるみたいですよ」
店員の言葉にジャンヌは何とか再起動を果たし、勇士と武蔵の方へ視線を向ける。
その時、二人はゆっくりと間合いを詰めて、互いに隙ができるのを待っていた。
「おい、お前の店の店員が慌ててるぞ」
「む?確かに慌てているな。ふむ、おそらく、店やこの建物に被害が出るのを恐れているのであろう」
「なるほどな、一理ある」
武蔵は店員たちが慌てている理由を予想するが、戦闘狂なだけあって、店や建物に被害が出る事を考え付いているのに、そもそもの原因となるこの戦いを止める事は考え付かなかったようだ。
そして、勇士も勇士である、本来は武蔵の間違った予想を指摘し、正さなければならないのに、指摘するどころか納得してしまっている。
「と言う事で周りに魔法をかけておいてくれないか?どうも魔法は苦手であるのだ」
「了解だ。『
周りの強化も終わり、二人の憂いもなくなった。更に、この騒ぎに徐々に野次馬が集まり始め、応援まで始めてしまった。
最早、彼ら二人の戦いを止めるものは何もなかった。
「良い出来だ。改めて、行くぞ!」
「おう、かかって来い!」
今度は二人同時に動き出した。
勇士は武蔵が突き出した拳を横に流し、懐に潜り込もうとするが、既に武蔵の脚が迫っていた。それを紙一重で回避し、一旦、距離を取ってから全身のバネを使って跳躍する。
そこから全体重を乗せた踵落としを繰り出した。武蔵はその一撃を腕をクロスして防ぐと、勇士の足を掴み、勇士を床に叩き付けた。
「ぐっ!なろう!」
勇士は受け身を取って衝撃を逃がし、足を手で掴んでいる方の武蔵の腕を降り下ろした肘と自分の膝で挟もうとする。
それに気付いた武蔵が素早く手を離し、腕を引っ込める。
「ぬぅん!!」
「はあっ!!」
その後も防ぎ、防がれ、避け、避けられの一進一退の攻防が繰り広げられる。
その場で行われている超人同士の高速戦闘に、ジャンヌや店員たち、周囲の野次馬たちは固唾を飲んだ。二人の闘気に当てられて息もできないような時間が続く。
「っ!?なんの、これしき!!」
「ぐあっ!」
勇士の上段蹴りが武蔵の側頭部に命中し、武蔵はふらつきそうになるが何とか踏み止まり、勇士の溝内目掛けて拳を突き出す。
勇士が咄嗟に体を捻ったため、溝内から逸れて勇士の下腹部に武蔵の拳が突き刺さった。
お互いにふらつき、片膝を床に付ける。既に二人共息が上がってる。だが、彼らの闘気は一向に衰えない。彼らの瞳には刃物のような光が宿っており、この状態でも隙を僅かに見せれば、たちまち襲い掛かられるだろう。
再び戦闘を再開しようとした瞬間 ―――
「この騒ぎは、何かしらん?」
――― その声により、一気に場が凍り付いた。
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