第24話
「ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
(視線が消えたな。監視かと思ってたんだが、案外雑な仕事してるのか?それとも監視ではなく、ただの暇潰しとして見ていたのか?まあ、どちらにしても、鬱陶しい視線が消えてせいせいした)
勇士は何者かの視線が消えた事に眉を潜めるが、ジャンヌが問いかけてくると直ぐに表情を戻した。
もちろん、その視線の主はゼウスであり、ヘラがいるにも関わらずスケベ発言をしたため、ヘラのお仕置きを喰らっている。今のゼウスに水晶を通して勇士たちを観察する余裕はないだろう。これ故、視線が消えたのだった。
「どんなお店に行くのですか?」
「今から行く服屋は俺も行ったことがあるから、品揃えとかは保証できるぞ。俺はあまり行きたくないんだがな・・・・はぁ、さっきも言ったが良い店だと言う事は保証できる」
「?」
勇士はジャンヌに暗い顔をしながら、良い店だと言う事は保証できる、と言う事を強調した。
良い店に行くのに何故勇士が暗い顔をしているのか分からず、ジャンヌは首をかしげた。
一方、勇士の方は暗い顔のまま、店は良いんだよ、店は、と何やら呟いていた。
そんな事をしている内に目的の店に着いたのだが、勇士もジャンヌも店の前に立つ人物を見て足を止める。
「あ、あの、お店の前に凄く恐ろしい人がいるのですが・・・」
「何であいつが店の前にいるんだよ。店長だろ・・・」
ジャンヌがその人物を震える指で指し、勇士に質問する。心なしか、彼女の顔は青ざめて声は震えていように感じられた。
一方の勇士は呆れたように額に手を当て、溜め息をついていた。
その人物は一言で言うなら、凶悪だろう。
体長は2mを優に超えている。ゼウス以上の巨漢である。身体は筋肉が隆起し、まるで鎧のようだった。
頭は輝きが眩しい位見事なまでのスキンヘッドで、顔は厳つく、凶悪だった。
その顔からは常時他人を震え上がらせ、子供を泣かす又は失神させるほどの殺気が周囲に放たれていた。最早、顔面凶器と言って良い。
そのため、多くの人々はその服屋を大きく避けて通路を通っている。
「もしかしてあの人がこの店に来たくなかった理由ですか?何かに怒っているんでしょうか?」
「何言ってるんだ?あんなのに怯える訳がないだろう。そもそも、あいつはあれでも笑ってるぞ」
「えっ?」
よくよく見れば、その巨漢は確かに笑っている。だが、顔面凶器なだけはありその笑顔でさえ、凶悪なものになっていた。
どう見ても魔王が笑っているようにしか見えない。
「た、確かに笑っているみたいですけど・・・」
「魔王が笑っているようにしか見えないな。悲しい奴だ」
ジャンヌが言い淀んだが、その続きを勇士が平然と言った。言わぬが花とは正にこの事だろう。
ジャンヌが責めるような視線を勇士に向ける。
「そんな視線を向けるなよ。おっ、ここからが見所だぞ」
ジャンヌの視線に勇士が心外そうに眉を潜める。次の瞬間、急に機嫌が良くなった勇士を訝しげな表情で見たが、彼に言われた通りに再び店の前へ視線を向けた。
すると、何やら店の中から男の店員が出てきて巨漢と話し始めた。
巨漢からの殺気には慣れているのか、多少腰が引けてるが、しっかりと会話をする事が出来ている。
「店長!お願いですから店の中に戻ってください!お客さんが来なくなりますから!!」
「む、何を言っているのだ!我輩はここの店長だ!だからこそ、こうして笑顔で客を出迎えようとしているのだろうが!」
どうやら、あの顔面凶器の巨漢はあの店の店長だったらしい。
店から出てきた店員はその店長を客が来なくなるので、店の中に戻そうとしているようだ。
そして、最悪な事に店長の方は自分が自分の店の営業妨害をしていると言う自覚がない。
笑顔で客を出迎える事が良い事だと思ってるのだろう。それが普通の笑顔なら良いが、魔王の笑顔なら逆効果だ。客は寄り付かない。
出迎える事など夢のまた夢だ。
「いや、店長!それは逆効果ですから!人がこの店を避けてるのが分からないんですか!?」
「なんと!?そんなはずはない。きっと、またまた服を買う予定のない者たちが多いだけに違いない」
店員が指摘するが、店長は物凄くポジティブではなく、露骨な現実逃避をしていた。
「店長、現実逃避はやめましょう。さっ、早く店の中に戻りましょう」
「こ、こら、引っ張るでない。我輩はここから動かんぞ、絶対にだ!」
店員は無理矢理にでも店の中に戻そうと引っ張るが、巨漢なだけあってびくともしない。
店長は子供のように我が儘を言い、その場から動かされないように踏ん張っている。
「我が儘を言わないでください。おーい、誰か店長を運ぶのを手伝ってくれ!」
「お、お主ら、我輩を担ぎ上げるな!我輩が何をしたと言うのだ」
「「「「あんたのせいで客が来ないんだよ!!」」」」
我が儘を言う店長に店員は困ったように眉を潜め、呆れている。正しく大きな子供と言った所だろう。
一人では運べないと判断し、店員は助けを呼んだ。幸いな事に客が来ないので、暇をしていた店員は多かった。三人の店員が店から出てきて、計四人で店長を担ぎ上げる。
それに対して店長が文句を言うが、四人の店員から凄い剣幕で言い返され、動揺する。
「くっ、くはははははは。も、もう駄目だ。は、腹が痛い」
その様子を見ていた勇士が堪えきれない、と腹を抱えて笑いだした。
その笑い声を聞いて五人の視線が集まり、ジャンヌが怯むが、勇士まだ笑い続けていた。
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