第23話

「ええ、聞いた事はあるわよ。その話がどうかしたの?」


ヘラの疑問はもっともだ。人間の男の事を聞いたにも関わらず、神々に恐れられている伝説の英雄である『神域の英雄』の話が出てくるのか、と言った疑問が頭の中に浮かび上がるのは仕方ない。


「まあ、有名な話だから聞いた事はあるだろうな。無かったら、そこから説明しなければならなかった」


ヘラの返答を聞き、ゼウスは安堵しながらそう言った。大方、面倒な説明をしなくてすんだ、と思ったのだろう。

ゼウスは安堵して緩んでいた表情を再び引き締めると、その話が関わってくる理由はな、と前置きをして本題に入った。


「このオルレアンの乙女と一緒にいる男がかの『』だ。かなり省いて説明するとこんな所だな」

「えっ!?ちょ、ちょっと待って、話に着いて行けないわ、どういう事なの!?」


ゼウスが説明を省き過ぎたお陰で、ヘラは話に着いて行けずに混乱し始めた。

ヘラの様子に、そういう事だ、と答える訳にもいかず、ゼウスはもう少しだけ詳しく説明する事にした。


「この映像に映っている男は、かつて一部の傲慢な神々を滅ぼした『神域の英雄』の転生した姿だ」


その説明も十分とは言えず、ヘラはまだ納得していない様子で口を開く。


「で、でも、『神域の英雄』が滅ぼした一部の傲慢な神々って、の事でしょ?」

「ああ、そうだ。それも、儂らの祖父の時代で大きな勢力を誇っていた神話の神々だ。

奴等が滅んだお陰で今の神話の神々が台頭したと言って良い。『神域の英雄』とは名ばかりの神越者、それが奴だ。『神域の英雄』と呼ばれた理由は奴が初めて神の域に達した人類だったからだ」


ヘラの発言にゼウスが肯定の意を示し、補足して説明する。

そう、かつて勇士が滅ぼした一部の傲慢な神々がほんの数柱だったら、彼は『神域の英雄』として名を上げる事はあっても、直ぐに神々の大軍によって殺され、恐れられている事は無かっただろう。

しかし、それが出来ないからこそ勇士は『神域の英雄』として恐れられたのだ。

残った神話の神々が束になっても敵わない怪物、それが、勇士への、『神域の英雄』への神々の評価だった。

『神域の英雄』が自害したと言う情報が広がった時、どれ程の神々が安堵したことか。

それほどの存在が転生して『地球』で生きていると言うのだ、確実に今回、天界で起きた事件よりも問題視されるべきものだった。

何せ、戦っても勝てる可能性がある敵と、敵対はしていないが万に一つも勝てる可能性がない怪物である、どちらも脅威比べてどちらの方が脅威かと言えば、明らかに後者だろう。敵対はしていないと言う事は味方でもないと言う事だ、それだけでも警戒するべき存在だ。

そんな怪物のことをまるで他人事のように話すゼウスをヘラは驚いた様子で見ていた。


「何でそんなに冷静なの?今回の事件を起こした相手は勝てるだろうけど、『神域の英雄』には万に一つも勝てないのよ?」


疑問を口にするヘラにゼウスは悲しそうな表情をして理由を、ゼウスが勇士と会って感じたことを語り出した。


「ヘラ、お前にはよく分からないかもしれないが、奴は英雄としては。何事もなければ、奴は二度と他者のために力を振るう事はしないだろう。それに、今の全ての神々が集まって万に一つも勝てる可能性がないのは、奴が周りへの被害を考えずに戦った場合のみだ。奴はそんな戦い方はしないだろう。敵対したとしても勝機が無い訳ではない」

「・・・・・」


ヘラは何も言わなかった、それはゼウスが話ながら悔しそうに拳を握りしめていたからだろう。ゼウスは更に話を続けた。


「それほどの者だからこそ、儂は奴に英雄としての心を取り戻して欲しいのだ。傲慢な者たちのせいであのまま二度目の生涯を終えさせるには惜しい男だ」

「敵対して相手側に与する可能性はないの?」


話が一区切り付いたと思ったのだろう、ヘラがやっと口を開き、不安そうにゼウスに質問した。

それに対して、ゼウスは安心させるように微笑みながら答える。


「安心しろ、ヘラ。奴には確固たる善悪の基準がある。明らかに悪である相手側に与することは、それこそ万に一つもない。それどころか、相手側と対立するかも知れないぞ」

「どうしてそう思うの?」


ここでゼウスはこの話をしている中で初めて表情を崩し、楽しそうに意地の悪い笑みを浮かべた。


「奴は英雄としては死んでいるが、戦士としては死んでいない。自分の大切なものに危害を加えらそうになったら戦うだろうな。

しかも、相手側にいるのは怪物や邪神位だ、いつかは必ず奴と敵対する。つまり、相手側は勝手に墓穴を掘ってくれると言う訳だ」

「・・・顔が悪い顔になってるわよ」


ヘラがゼウスが意地の悪い笑みを浮かべていることを指摘すると、更に楽しそうに笑みを浮かべる。


「いや何、儂を手こずらせた者たちが奴と敵対して返り討ちに会うことを創造すると、笑いが止まらなくてな。むっ、そんなことより、次は服屋に行くようだな。しっかり、ジャンヌちゃんの着替えを目にやk・・・グフゥッ!!」

「あなた、覚悟は良いですね?」


先程までの真面目な雰囲気は何処へやら、ゼウスのスケベ心丸出しの発言にヘラの雷が落ちた。

ヘラはゼウスの座っている椅子を引き、彼の正面に立つと、彼の溝内に拳を叩き込んだ。

拳をを叩き込まれたゼウスは顔を青くしながら悶絶していた。

そんなゼウスにヘラは優しい笑顔を向けると、表情を変えずに処刑を宣告した。

ゼウスの顔がひきつり、屈強な身体は生まれたての小鹿のように震え始めた。

ゼウスが止めようとするが、既に時遅し、ヘラの拳が振り上げられ、男の象徴に向けて振り下ろされた。


「まっ待て!ぐあああぁぁぁ~~~~!!」


ゼウスの悲鳴は他の神話の神々にも聞こえたと言う。そして、その瞬間、『地球』の男性のほとんどが股間に謎の悪寒が走ったのを感じた。

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