第20話
「ここだな。とりあえず、家具を大方決めるぞ」
勇士たちはショッピングセンター内の家具などを取り扱う店に来ていた。
まず始めに、ベッドから決めようとしたのだが、ここで問題が発生する。
「ベッド!?明らかに高級そうなものではないですか!!私は布団で結構ですので、大丈夫です!」
「いや、俺にとってはそんなに高くないから落ち着け。さすがに布団のままってのも、俺が困るんだが・・・あれ、来客用だしな」
原因は、ベッドのコーナーで、勇士がジャンヌにまあまあ高いベッドの中から、気に入ったものを選ぶように勧め、その値段を見たジャンヌが要らない、と遠慮し、対して勇士は選ばせようとしていた。
その結果、現在のように選ぶ、選ばないの論戦に発展していた。
この論戦は大分大きな声で行われているため、周りから注目を集めているのだが、本人たちは気付いていないようだった。
いや、勇士は気配で気付いているだろうが、彼にとってはどうでもいいことなのだろう。
気の毒なのはジャンヌの方だろう、気付かない内に周りから注目を集めているのだ、気付けば恥ずかしさで赤面するに違いない。
いや、既に気付いて顔を赤く赤面させてながら、ジャンヌは落ち着かない様子で周囲をチラチラ見ていた。
「あ、あの、とりあえず、場所を変えませんか?」
「どうしてだ?」
「周りから注目を集めているからです!」
「おいおい、引っ張るなよ」
周囲からの視線に我慢出来なかったのだろう、ジャンヌは勇士の腕を掴み引っ張りベッドのコーナーから離れた。
「ここまで来れば大丈夫ですね」
「何のためにあそこから離れたんだよ?」
この店はそこそこ広かったらしく、ソファーのコーナーまで来ると人はあまりいなかった。
周囲からの視線がなくなった事にジャンヌは安堵したが、勇士はどうしてジャンヌが自分をここまで引っ張って来たのか、分からないようだった。
そして、ジャンヌは勇士の言葉を聞いて呆れていた。
「周囲に人が集まっていた事に気付いていなかったのですか?」
「ジャンヌが気付く前に気配で分かってたが、別に気にする事もないだろうと思ってたんだが、違ったのか?」
「・・・・・」
ジャンヌが気付く前に気付いていた事をあっさり言った勇士に、ジャンヌは鋭い視線で睨み付けた。大方、気付いていたのなら、早く教えて欲しかった、と言った意味を籠めているだろうが、勇士にそれを察する能力は皆無と言っても良いほど無かった。
「はぁ、貴方にあってから溜め息をつく回数が増えているような気がします」
「おい、本人の前で言うなよ。失礼だとは思わないのか?」
「失礼も何も、紛れもない事実ですから」
「ぐっ」
ジャンヌが疲れたように溜め息をつき、事実を口にしたが、勇士はそれに納得しなかったようで、ジャンヌを睨み、文句を言った。
だが、その文句はジャンヌによって一刀両断された。最早、反論の余地など無く、勇士は言葉を詰まらせた。
奇しくも、この店に来るまでの会話の立場と逆転していた。仕返しが出来てすっきりしているのか、ジャンヌの表情は晴れやかで勝ち誇っているように見えた。対して勇士は不満があるのだろう、悔しそうな表情をしていた。他人から見ても、どちらが勝者で、どちらが敗者なのか分かり易かった。
「・・・何か敗けたような気がする」
「私は少しすっきりしたような気がします」
そんな下らない会話をしていたが、勇士は話が脱線していることに気付き、話を戻すために口を開いた。
「それで話を戻すが、ベッドの件だが値段は気にしないで良いって言ったよな?」
「そう言われてもこれ以上勇士さんのお世話になる訳にはいきません」
勇士はジャンヌを説得しようとするが、彼女の意識は固く、なかなか首を縦に振りそうになかった。
「私は布団で十分です」
「いや、何度も言うがあれは来客用なんだが・・・」
「うぐっ、で、では、ベッドではなく布団を買って下さい」
いや、そうでもなかったようだ。僅かな間に堅牢な砦はボロボロになったようだった。
「布団でも高いものは高いぞ。それを仕舞う押し入れのスペースが必要だし、一々畳んで仕舞ったりしなきゃいけないんだぞ。俺からしてはベッドの方が都合が良いんだ」
「これ以上は私の我儘になってしまいますね。分かりました」
そして、勇士が自分の都合を持ち出したため、ジャンヌの大義名分は無くなり、漸く彼女は首を縦に振りベッドを買う事を了承したのだった。
「はぁ、漸く了承したか、説得するのが面倒くさかった」
「本人の前でそれを言いますか?」
「いや、紛れもない事実だからな」
「・・・・意趣返しですか?」
「さぁ、どうだろうな」
ジャンヌが了承した瞬間、勇士が溜め息と共に本音を漏らし、勇士はジャンヌから文句を言われた。だが、勇士は意趣返しにジャンヌが先程言ったことをほぼ同じ言葉を使って返す。
その事をジャンヌが聞くと勇士は肩をすくめてはぐらかした。
「さて、と言うことで遠慮は要らないぞ」
「後悔しても知りませんよ」
「・・・ああ、たった今、言う言葉を間違ったことに後悔してる」
勇士の言葉を聞いてジャンヌの目が光ったのを見て、勇士はふと、言い直すことが出来ないか、と考えながら後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます