第19話

「 ――――― だから、そういうことを安易にやらないで下さい!!」

「あーはい、はい。でも、ジャンヌが人の流れに流されるのが悪いんだろ?俺はお前を助けるためにやったんだぞ?」

「うぐっ、そ、それは・・・。で、でも!あんなに長くだ、抱き寄せている必要はなかったはずです!」


ジャンヌがなんとか立ち直った後、勇士はショッピングセンターの通路を歩きながら、彼女の小言を面倒くさそうに聞いていた。

いや、聞いていたという表現は間違っているだろう。

正確には、ジャンヌの小言を右から左に聞き流しており、全くと言って良いほど彼女の話を聞いていなかった。

そして、ジャンヌの小言が一段落したときを見計らい、勇士は反撃に出た。

だが、その内容が最悪だった。ジャンヌが人の濁流に呑まれ、押し流されたから助けたという事実を、恩着せがましく助けたことを強調したのである。

その反論に、ジャンヌは言葉をつまらせるが、直ぐに反論した。その時に抱き寄せてられた時のことを思い出したのか、ジャンヌの顔は少し赤くなっていた。


「お前がまた流される可能性を否定できるか?」

「うう、出来ません」


しかし、ジャンヌの必死の反論も勇士に一刀両断され、この論戦における敗北をジャンヌは認めるしかなかった。


「ま、年の功ってやつだな」

「年は私と変わらないでしょう」

(おっと、危ない。ん?俺と変わらない?)


勇士は自慢気にそう言うが、完全に失言をしていた。

勇士の失言をジャンヌは冗談だと受け取ったようで、ジト目で勇士の方を見ながらツッコミを入れてくる。

勇士は己の失言を反省していたが、ジャンヌのツッコミの中に気になる発言があったため、疑問に思い、首を傾げる。


「どうしたのですか?」

「いや、ジャンヌがさっき言ったことはどういうことだ?」

「さっき言ったこと?」


勇士が首を傾げたことが気になったのだろう、ジャンヌは勇士を不思議そうな表情で見て、質問してきた。

それに対して勇士は先程の失言を忘れさせたいのと、気になっているのもあって正直に質問をした。だが、ジャンヌには心当たりがないようで首を傾げた。


「ジャンヌが俺と年が変わらないって言ってただろ?」

「ああ、その事ですか。それはそのままの意味ですよ」

「そのまま?いやいや、お前の前世を含めれば確実に俺より年上だろ?」


そう、ジャンヌには前世があるのでどう頑張っても彼女が(勇士の前世を含めなければ)勇士と同い年だと言うのはあり得ないのである。

それもそのはず、ジャンヌが勇士と同じように転生したのであれば、勇士と同様に赤子から二度目の人生が始まる訳で、彼女は16歳頃、つまり肉体は勇士と同い年だ。

そこに前世の年齢、勇士と同じ16歳を加えれば約、勇士の倍ほど生きていることになる(勇士の前世を含めなければ)。


「勇士さん、普通は女の子にそんなことを言ったら、暴力を振るわれても何も言えませんよ」

「以後、気を付ける。で、そのままってどういうことだ?」


勇士の発言に対してジャンヌが再び怒りの炎を燃やしながら、小言を言うが、勇士は簡潔に回答し受け流した。


「・・・反省してませんよね?」

「そんなことはないぞ。海よりも深く反省してる」

「はぁ、わかりました。説明します」


明らかに反省していない勇士をジト目で見ながら、ジャンヌが一応確認すると、勇士は(嘘だと言うことがまるわかりだが)反省している、と答えた。

しかも、口にはしていないが、勇士の発言の後に続く言葉はおそらく『だから早く説明してくれ』と、言うものだろう。実際に勇士の目がそう言っている。

その様子にジャンヌは勇士を責めるのを諦め、彼女と勇士が同い年だと言う理由を話し始めた。


「まず、転生についてですが、これは主に二種類あります。一つ目は赤子として、転生するものです。これが最も一般的な転生ですが、二つ目はもうある程度成長している肉体に転生するものです」

「なるほどな。つまり、ジャンヌは二つ目の方で転生したのか?」

「はい、そうです。ちなみに、一つ目の転生は前世の記憶を持っていたとしても、魂の力が強すぎるなどの例外を除けば、容姿や性別は変わるそうです。私達、英雄の転生も例外に入ります」

「ん?」


ジャンヌの説明を聞いて、勇士の疑問は氷解していくが、ここで新たな疑問が出てきた。


(ジャンヌの説明だと一つ目の方法でも転生出来たんだよな?よくよく考えてみたら、天界は地上に比べて極端に時間の進みが遅い。冥府への襲撃が発覚してから地上では20年ほど経っていても可笑しくない・・・今から英雄を投入したんじゃ遅すぎる。英雄が活躍した時代から微妙に地形だって変わってる。確かに地上で20年たったなら、そろそろ襲撃者の方も戦闘で失った力を取り戻す頃だが、それでも、やはり遅すぎる。何考えてるんだ神々あのアホ共は?)

「今度はどうしたんですか?」


疑問に思っていることが表情に出ていたようで、ジャンヌが質問してくる。勇士が神々に呆れていたことはバレていないようだ。

バレたならば、ジャンヌの小言を受けるのが確定するので、勇士は少しであるが安堵していた。


「ああ、ジャンヌの話だと一つ目の方で転生出来たんだよな?どうして二つ目だったんだ?」

「英雄を一つ目の方で転生させるにも条件があるんです。それは、転生場所が前世で生まれた国、または生まれた地域でなければならないんです。それと、一つ目の方で転生する英雄たちは少なくとも15年前には既に転生しています。私のような二つ目の方で転生する英雄は、基本的に戦況が芳しくない国や地域への援軍として転生させられるんです。

確か、日本の英雄の一人が友人と海外に旅行しているので、その間、何かあっても大丈夫なようにするため、私は日本に転生したはずです」

「条件があるのは分かったが、ずいぶん迷惑な英雄もいたみたいだな・・・。そんな自由人ばっかりじゃないよな?英雄って」


ジャンヌのおかげで疑問は解け、神々の評価も少し上がったのだが、勇士はジャンヌが日本に転生する理由になった英雄の行動に顔を引きつらせていた。

さすがの勇士でも、いくら仕事を神から請け負ってもそれを放り出して友人と旅行しに行くようなことはしないだろう。

勇士の引きつった表情を見て、ジャンヌは慌ててその英雄をフォローする。


「で、でも、その英雄が友人と旅行しに行った理由は、『世界の貧困する人々の状況をこの目で確かめたい』って言うことらしいので、かなり正義感や責任感が強い人だと私は思います」


ジャンヌの話を聞き、勇士は立ち止まりはっとする。

勇士は同じ様なことを言って友人と世界一周旅行に出かけた人物を知っていた。


「どうかしましたか?」

「い、いや、ジャンヌの話を聞いて、姉のことを思い出しただけだ」

「そうですか。勇士さんにはお姉さんがいるんですね」

「まあ、姉は孤児院から家の親が引き取ったから血は繋がってないけどな。・・・まさかな」



勇士の頭の中にある一つの可能性が浮かび上がったが、直ぐにそんな偶然ある訳がない、と頭を振って否定した。

急に立ち止まって考え事を始めた勇士にジャンヌが質問をしたが、勇士は当たり障りのない回答をした後、再び歩き出した。


「さ、行くぞ」

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