第18話
「すまん、遅くなった」
「何でこんなに遅かったのですか?」
「いや、家の鍵を探しててな」
勇士はズボンのポッケから鍵を取り出し、ジャンヌに見せると申し訳なさそうにそう言う。
「では、行きましょう!色々な所を見て回りたいです!」
「おい、ちょっと待て。先に行くなよ、お前何処に行くのか知らないだろ。迷子になるぞ」
ジャンヌは勇士が玄関の鍵を閉めたのを確認すると、勇士を置いて歩き出してしまった。
それを勇士が慌てて追いかける。
ジャンヌは機嫌が良さそうだが、勇士の方は彼女がここまで活発的な行動をするとは思わなかったので、今日は振り回されることになりそうだと、内心ため息をついていた。
(もう少し大人しい性格をしてると思ってたんだがな。はぁ)
◆
「・・・凄く大きな施設ですね」
「最近できた大型ショッピングセンターだからな」
そう、今勇士たちはこの町に最近できた大型ショッピングセンターの前まで来ていた。
ジャンヌはその施設の大きさに驚いているようだった。実際、中世の建造物ではこの施設より大きいものは、城か砦ぐらいではないだろうか。
この大型ショッピングセンターに来た理由は、色々な所に行くのは面倒だからと(勇士がそう思った)、様々な店がまとめて入っている大型ショッピングセンター行こうとなったのだ(勇士の独断)。よって、色々な所を見て回りたいという、ジャンヌの希望は却下された。
「色々な所を見て回りたかったのですが・・・」
「はい、はい、ほら行くぞ」
(ガキか・・・とても前世が救国の聖女だとは思えないな。こういった所ががジャンヌの話を他者に信じさせる要因になったのかもしれないが・・・)
未練がましく勇士を睨み付け、自分の希望を言ってくるジャンヌに、勇士はこっそりとため息をつく。まあ、朝の時点で半ば諦めてはいたようだが。
「人が並んでますね」
「開店前だからってこともあると思うが、今日は休日だからな、いろんな奴が買い物をしに来るんだよ」
開店5分前といった位なので、ショッピングセンターの自動ドアの前には、多くの人々が並んでいた。
「それに、綺麗に並んで誰も割り込みをしようとしたりしていませんね」
「やっぱりその事に驚くのか。外国人はそういう所に驚いているってテレビでやってたが、本当なんだな」
ジャンヌは並んでいる列に人が割り込みをしたりしていないことに驚いていた。
その様子を見ていた勇士は、テレビ番組でやってた内容が本当だったことに感心していた。
「お前、絶対に俺から離れるなよ?それと、勝手に何処かに行くのも無しだ、十中八九迷子になるからな」
「分かっています。私を子供扱いしないでください」
「・・・俺からすれば完全に子供なんだがな」
「勇士さん、何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
勇士に子供扱いされたことに抗議するジャンヌを見て、勇士は呟いたが彼女には聞こえなかったようだ。
事実、勇士の前世を考えると、ジャンヌの年齢は子供と言えるだろう。そんな彼女に抗議されても、勇士としては顔には出さないが困るだけだ。
「あっ、開店するみたいですね」
「ああ、気を付けろよ」
「何をですか?」
ショッピングセンターの従業員と思われる人物が自動ドアに近付いて行くのを見て、ジャンヌが勇士にその事を言うと、勇士は真面目な表情をしてジャンヌに忠告をする。
だが、主語が足りなかった忠告の意味をジャンヌが理解できる筈もなく、彼女が勇士に聞き返した時には既に時遅し、ショッピングセンターの自動ドアが開き、並んでいた人々が濁流のように施設内に雪崩れ込む。
「え?ちょ、わわっ、勇士さん、助けてください」
「おい、おい。はぁ、ジャンヌ、少し頑張ってろ今行くぞ」
当然、その並んでいた列にいた勇士たちは巻き込まれる訳で、事前に心構えしていた勇士は未だしも、そんなことは知らなかったジャンヌは突然のことに混乱し、人の濁流に呑まれ、押し流されていく。
そんなジャンヌの様子を見て、勇士は言わんこっちゃないと、ため息をつきながら、見事な身のこなしで誰一人として人にぶつかることなく、人々の間のすり抜けてジャンヌの近くにたどり着くと、彼女を抱き寄せてそのまま周囲に合わせて移動し、ショッピングセンターの自動ドアを目指した。
「おい、ジャンヌ、大丈夫か?」
「へっ?あの、その、ええっと」
人の濁流に呑まれ、押し流されていくという危機が去ったわけだが、ジャンヌは勇士にだ寄与せられ、顔を真っ赤にして混乱することになり、まともに受け答えが出来なくなってしまった。
このジャンヌの様子に、勇士は不思議そうな表情をして、その行動が原因でジャンヌが混乱しているというのに、ジャンヌを抱き寄せている状況を変えようとは全く思っていなかった。
結局、ジャンヌがその状況から解放されたのは、ショッピングセンターに入って、人の流れに流される心配がなくなってからだった。
そのため、解放された時には、ジャンヌは耳まで真っ赤にして、その状態から立ち直るのに暫くの時間を要した。
当然、自分の行動に原因があるとは思いもしない勇士は、ジャンヌの様子を立ち直るまで不思議そうに眺め、首をかしげているだけたった。
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