第17話

「この部屋だ」


ジャンヌの的確なツッコミに苦笑しながら、勇士は扉に札が掛かってない空き部屋の一つの扉の前で止まってそう言った。


「空き部屋ですよね?」

「ああ、そうだぞ」


何故、空き部屋の扉の前に止まったのか分からない、といったように首をかしげるジャンヌの質問に、勇士はいたって真面目な顔で答えた。

自分の質問を肯定する勇士の回答に、ジャンヌは困惑した様子で再び首をかしげたが、勇士が部屋の扉を開け入って行ったので、その後に続いて部屋に入る。

部屋に家具はなく、何か変な所もないいたって普通の空き部屋だった。

勇士の意図が分からず、困ったように眉をひそめるジャンヌに、勇士は意外と察しが悪いな、と苦笑しながら、彼女をこの部屋に連れてきた理由を言う。


「前置きが長くなったが今からこの部屋はジャンヌの部屋な」

「えっ?」


勇士がさらっと言ったことにジャンヌが驚き、間抜けな声を上げた。どうやら、自分に部屋が貰えるとは思ってもみなかった様だ。


「良いんですか?」

「まあ、この空き部屋を使ってもらえれば俺が掃除する部屋が減るしな」

「・・・そっちが本音なんじゃないですか?」

「さてな」


ジャンヌがジト目で睨み付け質問するが、勇士は何処吹く風ではぐらかす。

だが、ジャンヌの視線にさすがに耐えかねたのか、勇士は話題を変えるために口を開いた。


「それでだな、今日はこの部屋の家具を買いに行くぞ」

「買い物ですか!?勿論、服も買って良いんですよね!?」

「お、おう」


買い物に行くと聞いて、ジャンヌが凄い勢いで勇士に詰め寄る。勇士はジャンヌの気迫に押され、一歩後退した。

やはり、ジャンヌも英雄ではあるが、一人の女の子である。服などには興味があるらしく、目を輝かしていた。

そんなことが分かる訳がない勇士は、少し引きぎみだった。


「あ、す、すみません」

「いや、別に大丈夫だけど?」

(何故だ?視線に殺気が籠り始めたんだが・・・)


昨日、ジャンヌを家に運ぶ時に動揺してしまったことを反省し、勇士は平常心を保つための修行を朝の修行に組み込み、平常心を保てるようになったのだが、今回はそれが裏目に出たようだ。

もう少し反応しても良いだろうと、ジャンヌの視線に少し殺気が籠る。

それも当たり前で、勇士のそっけない反応は暗にジャンヌを女の子として見ていないと、言っている様なものだからだ。


「はぁ、まあ良いでしょう」

「おい、何処に行くんだ?」

「?買い物に行くのではないのですか?」


ジャンヌは勇士が何故、そんな視線を向けられているのか、分からないという表情にため息をつきながら部屋を出る。

だが、ジャンヌが部屋を出たのを見て、勇士が呼び止め、質問する。

ジャンヌは何故呼び止められたのか分からず、逆に質問し返す。


「いや、買い物には行くぞ?でも、その前にもう一ヶ所ジャンヌを案内しときたい場所が在るんだよ」

「もう一ヶ所?」

「ああ、そうだ。それじゃ、ついてこい」


その質問に勇士は、そういえば、言ってなかったか?と、言ってジャンヌの質問に答えた後、歩き出す。

歩き出す勇士にジャンヌは、言ってません!と、文句を言いながらその後をついて行く。


「ここは?」

「まあ、見てろって」


勇士とジャンヌは再び一階に下りてやって来たのは、階段のすぐ横の壁だった。

何故、ここに来たのか理解出来ないジャンヌは、勇士に質問するが、彼はそっけなく答えるだけだった。


「えーと、あった」


勇士はその場にしゃがむと、何かを探すような仕草をした後、そう言って床の僅かに凹んでいる所に指先を引っかけ、引っ張った。

すると、床の下には倒して収納されているハンドルがあり、勇士はそのハンドルを立てて回し始めた。


「これは・・・」


勇士がハンドルを回していると、床の一部が上に開き、その下に階段があった。

これの光景にジャンヌは絶句していた。しかも、そこをカモフラージュするために、態々入り口の形を凸凹にすることで、入り口が閉じたときは蓋と床の隙間が板と板の繋ぎ目に見えるようになっている。


「これも親父が作った仕掛けだ」

「やっぱりですか・・・」


ジャンヌの声音には、呆れの色が混じっていた。それもそうだろう、何せ無計画に部屋を多く作るわ、明きからに趣味で家の地下室への入り口に大袈裟な仕掛けを仕掛けたのだ、呆れられて当然だろう。


「さて、着いたぞ」

「この部屋は道場ですか?」

「ああ、そうだ。明日からここで修行することになるから、先に案内しとこうと思ってな。それにいざ修行するときになって、説明するのも面倒だしな」


地下室は普通の道場と同じ内装になっていた。これも勇士の父親が無駄に凝って内装を手掛けたので、竹刀や木の棒の先に柔らかいカバーが付いているもの等、様々な武術の練習を安全に行うためのものがあった。


「さて、案内するところも案内したし、買い物に行くか。外出する準備してくるから玄関で待っててくれ」

「はい、わかりました!」


漸く買い物に行けるとあって、ジャンヌのテンションは勇士と会ってから最も高かった。

勇士はその様子に苦笑しながら、地下室の階段を登るのだった。

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