第14話

「布団はそこに敷いてあるやつを使ってくれ。じゃ、お休み」

「何から何までありがとうございます。おやすみなさい」


勇士がジャンヌの返事を聞いてからリビングを出ていく。

階段を上がる足音が天井から響く、その音を聞きながらジャンヌは明かりを消し布団に入った。

その頃には足音は聞こえなくなっていたので、勇士は寝たのだろう。


「本当に勇士さんにはお世話になってばかりですね・・・」


今朝の戦闘で気絶していたジャンヌの保護から始まり、回復魔法による傷の手当て、食事の提供、そして寝床を用意。勇士にとっては小さなことでも、彼女からすれば命の恩人と言っても過言ではないことをしている。

そのため、至れり尽くせりのこの状況に不満があったが、今のジャンヌに出来ることはなかった。

そんなことを考えていたので、彼女は今朝の戦闘の疲れはあったが、なかなか寝付くことが出来なかった。そこで、再び地球に転生する前のことを確認も兼ねて思い出すことにした。



「失礼します」

「どうぞ」


転生する少し前、ジャンヌは天使長のミカエルの執務室に呼び出されていた。

彼女が部屋に入ると金髪の男、ミカエルが執務室の椅子に座っていた。天使なのに背中に翼がなかったが、それは翼があると椅子やソファーに座り難いという理由で、仕舞っているからである。確かに天使長ともなれば、翼が3対計6枚もあるので仕舞わなければ、さぞや座り難いことだろう。


「ミカエル様、どの様な御用でしょうか?」

「よく来てくれた、聖女ジャンヌ。そう堅くならなくてもいい。さ、そこのソファーに座ってくれ」


天使長からの呼び出しとあって、ジャンヌはかなり緊張しているようだった。

その様子を見て、ミカエルが穏やかに笑いながら来客用のソファーに座ることを勧める。


「そ、それでは失礼して・・・」


ソファーに座り少しは落ち着いたのか、ジャンヌはミカエルに翼が無いことに今さら気付き、驚く。


「翼が無いことが気になっているのか?これは椅子やソファーに座り難いから仕舞っているのだよ」

「な、成る程」


ジャンヌの注意が自分の背中にいっていることに気付き、ミカエルは3対計6枚の翼を出現させ、苦笑しながら事情を話した。


「さて、ここに呼んだ理由を説明しよう」


ミカエルは翼を再び仕舞ってから、ジャンヌの座っているソファーの正面にあるもう1つのソファーに腰を下ろした。

そして、本題を切り出す。


「貴女も既に知っていると思うが、怪物どもが逃げ出した件についてだ」

「はい、確かその逃げ出した怪物たちが地球に潜伏していると伺っています」


先程まで穏やかな笑みを浮かべていたミカエルだが、真面目な表情をしてジャンヌの言ったことに頷く。


「その通りだ。そのことについての対応が先日、各神話の主神クラスの会談により決定した」

「それでどの様に対応するのですか?」

「ああ、英雄たちを地球に転生させ、怪物どもを討伐することとなった。そして、貴女を呼んだのは他でもない、貴女に転生してもらうからだ」

「ええっ!?」


ジャンヌが対応について聞いたら、彼女が思ってもみなかった爆弾発言が出てきたので驚愕した。


「突然のことに驚くのも無理はない」

「す、少し待って下さい!何故私も選ばれたのでしょうか!?」


ジャンヌが混乱するのは当たり前なことで、何故なら彼女は神託を受け取ることは出来るが、武力については一般人に毛が生えた程度でしかない。神話や伝説に登場する怪物を相手に戦うなんて、土台無理な話だった。


「では説明しよう。まず、怪物の討伐に神々や我々天使ではなく、英雄たちが派遣される理由だが、冥府の神々が負けるほどの相手だ。万が一、天界の守りが薄くなった所を狙われ、襲撃される様なことが無いように天界から我々や神々が居なくなることを避けるためだ。次に、貴女がその内の一人に選ばれた理由だが、神託を受け取る者は神の力に適正があるので、加護や恩恵を与えれば十分戦力になると考えられたからだ。他に質問はあるか?」

「では、失礼かもしれませんが、英雄のみでその怪物たちを討伐することが出来るのですか?」


英雄が派遣される理由も、ジャンヌがその内の一人である理由も、納得出来るものであったが、根本的な疑問が浮かび上がってくる。それは、“そもそも、英雄だけで神々と戦った怪物たちを討伐出来るのか”と、いうものだった。


「それについてだが、半神の英雄でも厳しい戦いになるだろう。伝説に登場する程度ならまだしも、神々と戦った怪物たちに英雄が勝てるかというと怪しい所だ。そのレベルの怪物なら、討伐に英雄が最低でも数人、場合によっては十数人必要になるだろう」


この回答にジャンヌは絶句した。

英雄というのは、一部の例外を除いて武功を持ってそう呼ばれている。

つまり、英雄は一騎当千なのは当たり前で、それこそ半神の英雄ならば、大国を相手に戦っても余裕で勝利出来るのである。

それほどの猛者が最低でも数人いなければ勝てない怪物なんて、悪夢としか言いようが無かった。


「それでも地球に転生してくれるか?」

「はい」


ジャンヌがそれで多くの命が助かるならばと、即答したため、今度はミカエルが驚く番だった。

そしてミカエルは再び穏やかな笑みを浮かべ、口を開いた。


「そうか、では頼んだぞ」

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