第13話
「まず、今の天界の状況についてだ」
「やっぱり何かあったか。で、何をやらかした?」
「なぜ儂らがやらかした事が前提なんだ・・・」
いきなり話の腰を折った上、勇士の失礼かつ的外れな前提に、ゼウスは勇士をジト目で見た後、溜め息を吐き出しながら理由を問う。
それに対して、勇士は飄々とした態度を崩さずに口を開いた。
「俺の知ってる神は、動けば余計な事しかしない。さらに、悪意を持ってそれを行う奴すらいる始末だ。お前らがやらかしたって思っても仕方ないだろ?」
「ぬぅ・・・・その事に関しては、すまなかったと思っている。これは、儂一人の意見ではなく、神々全体としての意見だ。儂らからしても遠い昔の話なのは確かだが、その時儂らの同族が迷惑をかけたことも事実だからな。この場で神々を代表して謝罪しよう。
本当にすまなかった!」
ゼウスが頭を下げて謝罪したことに、勇士はかなり驚いた様だった。
それもそのはず、ゼウスはギリシャ神話の主神、つまりギリシャ神話の神々の王である。そう易々と頭を下げて良い立場ではない。
「あのクソ神どもはお前の祖父ですら、まだ若い時の神だぞ?お前が謝罪する必要は無いだろ。それより、さっき言ってた『神々全体』ってのは、ギリシャ神話の話か?それとも他の奴等も含めてか?」
「ああ、他の神話の神々も含めてだ。各神話の主神またはその代理の者で集まって会議を開き、満場一致で決められたものだ」
天界において地球の神話とは、国と同じである。そのため、ギリシャ神話の主神ゼウスの『神々全体』とは勇士が確認したように、『ギリシャ神話の神々全体』と『他の神話の神々も含めた全体』の2つの解釈が出来る。
ゼウスの答えを聞いた勇士は納得したように頷いた。
「まあ、とりあえず謝罪は受け取っておく」
「感謝する。話がかなり逸れたが本題に入るぞ」
今度は勇士も真面目に頷いて話の先を促す。再び話の腰が折られる心配が無さそうなので、ゼウスは心の中で安堵した。
「単刀直入に言おう。冥府、つまり煉獄や地獄などが何者かに襲撃され、そこにいた怪物たちの魂が逃げ出し、この地球で復活を目論んでいる」
「は?」
思っていた以上の大事だったため、勇士は驚きを隠せず、間抜けな声を出してしまう。
ゼウスが言っていたことが本当ならば、Sランクはおろか、SSSランクまで出てくるのであるそれも複数。
勇士は出てきてもSSランクまでだと思っていたので、度肝を抜かれたのである。
(これは、人類詰んだんじゃないのか?)
「そんなバカな話がある訳が無いだろう。冥府を守る神々はどうした?まさか、やられたのか?」
勇士は頭の中で考えたことは表に出さず、あくまで神妙な表情でゼウス質問する。
ゼウスは苦虫を噛み潰した様な表情をして、答えた。
「そのまさかだ・・・冥府の神々は善戦したが、儂らの援軍が到着した時にはすでに戦いは終わり、皆重傷を負っていた。捕らえていた怪物どもの魂も逃げたあとだったのだ」
「はぁ、その冥府を襲撃した連中も相当な手練れだぞ?」
冥府を守る神々と言えば、ハデス、オーディン、アヌビスなどが代表的だ。オーディンは神話では冥府の神としての側面は薄いが、彼は死の神であるため、名前が挙げられている。
先程説明したオーディンは北欧神話の主神である。その力は凄まじいことは間違いない。
さらに、ハデスはゼウスの兄である。こちらの力もオーディンに負けず劣らず凄まじい。
つまり、これ程の神を相手取って勝てるということは、襲撃者の実力を物語っている。
「その通りだ。オーディンやハデスを相手取って勝てる実力者が敵にいる。しかも、この世界に逃げ込んだ以外情報も掴めていない。我ながら情けない話だがな・・・」
勇士の指摘を覇気のない乾いた笑みを浮かべながらゼウスは肯定する。
その様子から、天界が思っていた以上に余裕のない状態になっていることを、勇士は素早く悟った。
(英雄に加護をあたえて地球に送り出しているのも、かなり無理をしてるんじゃないのか?こいつら・・・・)
「もう気付いているかもしれないが、英雄を地球に送り出すこと自体、天界の防衛を考えるのなら、かなり無理をしている状態だ」
さすが主神と言うべきか、勇士の考えを読んで情報を教えてきた。
(ここまでが前置きか。本題はここからだな、だいたいの予想はついてるが・・・)
「ここまでが天界の状況だ。前置きが長くなったが、ここにお主を呼び出したのは他でもない。お主の助けを借りたいのだ。この通りだ!頼む!!」
「断る」
その本題は勇士の予想通りのものだった。
かのギリシャ神話の主神ゼウスが、勇士に頭を下げて頼むほど状況は切迫しているのだろう。だが、その頼みを勇士は即座に切り捨てた。
さすがに即座に断られるとは思っていなかったのだろう、ゼウスは暫くの間、呆然としていた。
「なっ何故だ!英雄たちでは敵わぬ敵がいること位わかっているだろう!!」
「そんなことはわかってる。だが、俺はもう『英雄じゃない』その戦いに参加する理由がないんだよ」
「・・・・・」
「じゃあな」
そう言って勇士が白い空間から消える。
ゼウスは止めることが出来なかった。彼が言った言葉は明らかな拒絶だった。
英雄になることへの拒絶に、ゼウスは何と声をかけて良いのか分からなかったのだ。
「願わくば、彼が再び英雄として目覚めんことを・・・・」
ゼウスは悲しそうに上を見上げ、そう呟いた。
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