第11話

「はぁ、やっと帰って来れた・・・」


勇士は自分の家の前でため息をついた。

あの男の子が質問攻めをしてきたせいで、肉体的な疲労はないが、精神的に疲労した。

それも仕方ない。まるでマシンガンの様に次から次へと矢継ぎ早に質問され、それに対応しなければならなかったのだ。

しかも、答えたくない質問まであったので、余計たちが悪かった。

男の子の親が迎えに来るまで、答えたくない質問を誤魔化すのにかなり苦労したのである。

親の方は男の子が助けてもらったと知ると、何度も頭を下げるので、此方も止めるのに苦労することになった。


「子供って、やけに鋭いからな。注意しとかないと・・・」


そう言いながら門と庭を通過し、玄関の鍵を開け、家に入る。


「・・・ただいま」


勇士は気だるそうにそう言い、玄関で靴を脱いで家の中に上がる。

鉛のように重い足をなんとか動かして、ゆっくりと歩みを進めていく。そしてリビングに入り、テレビの前にあるソファーに乱雑に座り、脱力した。


「つ、疲れた・・・」


勇士はソファーに寝転びながら、英気を養う。削れていた精神がゆっくりと回復していくのを感じ、目を閉じる。


「ん?」


少し落ち着いたところで、勇士はあることに気付き、ソファーから顔を上げ、リビングを見渡した。


「・・・ジャンヌはどこ行った?」


そう、ジャンヌがリビングに居なかったのだ。今、思い返して見れば、勇士が家に帰って来た時に彼女の声が聞こえなかった。

単に言わなかったという可能性はあるが、短い間だが、勇士が会話の中で理解した彼女の性格からして、玄関まで出迎えに来ても可笑しくはない。

外に結界があるため、外敵という可能性はないだろう。そもそも、家の周辺や家の中に戦闘の跡はなかった。

つまり、外敵がいたと仮定して、ジャンヌを無抵抗のままで倒す必要がある。

神から恩恵を授けられた今の彼女を無抵抗のままで倒すには、SSランク程の実力が必要なので、まず無理だろう。

また、テーブルの上にあるジャンヌが使ったと思われるガラス製のコップには、まだ水が残っていることから、彼女が自分で家を出たと言うこともないだろう。


「・・・トイレか?」


さんざん考えた末に、勇士はとても失礼な答えを行き着いた。


「さて、風呂でも入るか。湯船に浸かってのんびりしよう」


その失礼な答えに勇士は納得したようで、ソファーから立ち上がり、風呂に入るために脱衣場を兼任している洗面所に向かった。

洗面所に向かう途中、勇士の危機感知能力が警告を発していたが、外敵がいないのに一体何の危険があるんだと、勇士はこれを無視した。

洗面所の扉にたどり着き、中に入ろうと扉を開けた。そして ――――


「~~~~~~~~~~~~っ!?」


―――― 警告を無視したことを大いに後悔した。

洗面所の扉を開け、勇士が目にした光景は、全裸のジャンヌだった。

陶器のように白く、傷一つない綺麗な肌は風呂に入ったからか、僅かに桃色に染まっていた。彼女の短い金髪はまだしっとりと濡れていて、妖艶な雰囲気を発していた。

神に愛されているとしか思えないほど、整った顔立ちをしていることもあり、この光景を見れば、男女問わず見惚れ、放心しただろう。


「え、えーと・・・すまん」


だが、勇士は前世は歴戦の英雄である。ジャンヌの裸を見て多少は動揺したが、即座に切り替えて気まずそうに目を逸らし、頬をかきながら謝罪の言葉を口にした。

家を出る前、彼女に言ったのに、完全に忘れて風呂に入っているという可能性を除外していた自分を恨んだ。


「わざとじゃないんだが・・・完全に忘れてた。ほら、人間誰しも失敗はあるって言うしッ!?」


そんな言い訳を言いながら、勇士はちらりとジャンヌの方を伺った。

彼女は先程まで顔を羞恥で真っ赤に染め、声にならない悲鳴を上げていたが、徐々に落ち着き、羞恥の中に怒りが混じり始めていた。

彼女の表情を見て、勇士は勢い良く洗面所の扉を閉め、リビングに逃亡した。


「変態ッ!!!」


背後からはジャンヌの罵倒と何かが洗面所の扉に当たる音がした。



勇士は逃亡先のリビングでそんなことを呟いた。


「大人しくしてください」

「いやいや、落ち着けよ。取り合えず、その拳から力を抜いてくれ・・・」


リビングに昼間と同じ、白いワンピース姿で現れたジャンヌの表情は羞恥と怒りに染まっていた。その迫力は何故か前世を含め、今まで出会ったどんな存在よりも強かった。

謎の迫力に圧され、一歩後ずさる勇士に向かってジャンヌは床を蹴って迫る。


「問答無用です!」

「くっ、悪く思うなよ!」


高速で迫るジャンヌの拳は今の勇士にはゆっくりと見えていた。彼女の攻撃を受け流して、お返しとばかりに勇士は彼女に背負い投げをした。

先程、勇士が呟いていた言葉は、彼が彼自身にかけた封印の一つを解除するための呪文だった。

そのままでも、勇士はジャンヌに負けることはないだろう。しかし、それでは彼女を無傷で無力化することはできない。

そのため、勇士は自分の実力がバレる危険を無視して封印の一つを解除したのだった。


「えっ?」


ジャンヌは一瞬の浮遊感と共に床に叩き付けられた。彼女は驚愕に目を見開いた。

明らかに自分より弱いはずの青年に攻撃を受け流され、投げられたのだ、驚くのも無理はない。


「あっ、白・・・」

「?ッ!!!」


ジャンヌが驚愕から立ち直った時、勇士が何かを見てそう呟き、目を逸らしたことを彼女は疑問に思って、先程勇士が見えていた方向を見て、彼女は再び羞恥に顔を染めた。

投げられたことでワンピースの裾がめくれ、白いパンツが丸見えだった。

だが、2回目ということもあり、すぐに羞恥を怒りが勝り、腕を振るう。

今回は完全に自分の落ち度だと思ったのか、勇士は諦めたように目を閉じた。


(2回目は流石に言い訳できないな)

「ぐふっ!!」


平手打ちの爽快感のある音が天霧家のリビングに響き渡った。




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更新が遅れてすみません。

定期テストが近いので更新が滞ります。

すみません。



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