第7話

「さて、早く帰って来たいけど、の様子を見に行かないといけなしな。家の方は結界があるから問題ないだろう」


勇士は玄関の戸締まりを確認したあと、道路の方に向きを変え、庭を歩く。天霧家は一般的な家庭と比べて、少し大きめの庭がある。その庭を覆うように結界が張られている。


この結界は、勇士が半年以上の時間を掛けて作り上げ、現在進行形で強化中で、今の強度はSSSランク ―― 神話最強クラスの魔物の攻撃、一発でヒビが入る程度で済むの強さを誇り、今でも充分凄い強度なのだが、前世で自殺する直前の彼なら、一瞬でこれ以上の強度を持つ結界を張れたので、勇士からしたらまだまだだった。


ちなみに、インターホンと表札は家の門の所にあるので、結界で家の庭より先に入れなくても問題はない。


「山まで歩いて行くか。注目を集めてバレたくないしな」


もう、英雄はごめんだ、と呟きながら勇士は山を目指して歩き始めた。勇士が朝早く、日も出ていない時間に鍛練をするのは、自分の実力がバレて、天才や英雄として祭り上げられることを防ぐためだ。


「相変わらず、この町はコロコロ変わるな。また新しい建物を建ててる」


天霧家はちょっとした高台にあるので、少し山の方へ坂を登って行けば町を見渡すことができる。


新しい建物が建造されるは良いことだろう、町が発展すると言うことだ。しかし、それは同時に古い、思い出のあるものが無くなっていくと言うことでもある。そんな光景を見て、勇士は少し足を止め、再び山へ向き直り歩き始めながら、ちょっとした寂しさを感じていた。


勇士は山への道を歩きながら、物思いに耽る。考えごとの内容はジャンヌが詳しく話さなかった、彼女が転生する理由となった出来事についてである。

神々が英雄をわざわざ地上に転生させなければならない理由。最悪の可能性としては、神々が何者かにより攻撃を受けていて、神界から動けない状態であり、その神々を攻撃している何者かの仲間が地上を攻撃する準備を進めている場合だが、神々なら、先に神界の戦いを終わらせ、地上を攻める余裕をなくそうとするだろうから、ジャンヌが地上に転生している時点で除外して良いだろう。


次に、神々を攻撃した何者が戦いに敗れ、地上で起死回生の時を待っている可能性は、これも神々が直接戦う必要があるので、神が一柱も降臨していないので、これも除外して良いだろう。


3つ目、地上で何らかの異常事態が発生していて、神々が降臨するまでもない、または何か理由があって神々が降臨出来ないから英雄を転生させた可能性。これが最も可能性が高い推測だ。

とはいえ、どれもないとは言い切れないので警戒しておくに越したことはない。だからこれから山へ向かうのだが ――


―― 考えごとに耽っている間に山へ着いたようだった。山の中に踏み込んで行く。町とは景色が一変するが、まあ、当然と言えば当然なのだが、方や人間が暮らすために環境を整えたもの、もう片方は未開拓の自然の中、違わない方が可笑しい。


「ギャワンッ!!」


勇士の背後から忍び寄り、飛びかかった何かが勇士の裏拳で叩き落とされる ――


―― 未開拓と言うことは、つまり、勇士の目の前の光景は珍しくない。人間が開拓していないのだから、人間を襲うようなものはいるにきまっている。だが、相手が悪かった。勇士が実力を高度に隠蔽しているので、彼らの危機感知能力に反応しなかったが、彼は限り無くSランクに近い戦闘力を持っている。

彼ら、灰色の狼の姿をしたEランクの魔物、『グレイウルフ』では逆立ちしても勝てない相手だった。


「グレイウルフか、毛皮が意外と高く売れるからな、狩っておくか」

「「「「「グルルルルルルゥ」」」」」


計5体の『グレイウルフ』が唸り声を出しながら、敵意を向けてくる。そして、リーダー格と思われる少し大きめの1体を中心に2体ずつ左右に分かれ、一斉に襲いかかって来た。勇士は先に攻撃をしてきた右側の2体を掴み、左側の2体に向けて投げつけた。かなりの速度で投げたので、ぶつかった方も、投げられた方も強い衝撃を受けて昏倒した。


「あとはこいつだけだな」


すでに突進してきているリーダー格のグレイウルフが繰り出した爪を体を半歩ずらして避け、爪を回避され、無防備になったところで心臓の位置を蹴りあげて、グレイウルフの心臓を止める。


「キャンッ!!」

「こんなもんかな」


気絶している4体にも止めを刺し、毛皮を剥ぎ取って『収納ディメイションボックス』という魔法で収納する。この魔法で収納されたものは、収納されている間、時間が完全に停止する。ただし、生きているものは収納することができないという欠点がある。魔法は決して万能ではないという証拠だ。死体の後始末を終えて再び歩き出す。



「そろそろか」


山の気配が一変する。生き物の気配が感じられず、霧が出始めた。視界が悪い中、勇士は迷いのない足取りで山を進んでいく ――


―― そして、急に霧が晴れ、視界が戻る。勇士が立ち止まり、一点を見つめる。その視線の先には窪みがある巨大な岩があり、その窪みには、があった。





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