第6話

「わぁ、すごく豪華な料理ですね!!」

「いや、一般的な家庭料理なんだが・・・まあ、無理もないか。ジャンヌの前世の時代は食べる料理は硬いパンとスープ、あとは少しのおかずがあるか、ないかだったっか?」

「い、いえ、そんなに貧しくはありませんでしたよ。私は唐辛子とお肉が使われているのに驚いてたんです。私の時代では、香辛料やお肉などは高級で、貴族や裕福な家庭ぐらいしか食べることが出来ませんでしたから」


今は12時半を過ぎた頃で、ジャンヌが起き上がれるほど回復してきたので、勇士が昼食を作ったのだが ――

―― 彼女は現在、目の前の料理に目を輝かせていた。ジャンヌの故郷がフランスなので勇士は和食ではなく、洋食のペンネにしたのだが、彼女はその中に入っている唐辛子や厚切りのベーコンを見て、驚いているようだった。


「いやいや、ジャンヌだって一回くらい貴族のパーティーに呼ばれたことだってあるだろ?」

「ええ、ありますよ。でもその時ぐらいしか食べられなかったので・・・。すみません、少し興奮してしまったようです」

「よし、それじゃあ、冷める前に食べるぞ」

「「いただきます」」

「うん?」


手を合わせて、いただきます、と言ったところで、勇士はある違和感をおぼえた。自分の他に、いただきます、と言った声が聞こえたのだ。勇士以外にこの場にいると言えば当然彼女、ジャンヌになるのだが、彼女が前世に住んでいたのはフランス西洋なわけで、日本の文化を知っている訳がないのだが・・・。


「何で『いただきます』を知ってるんだ?」

「?ああ、それは転生する前に神から転生先の文化についての知識を授けられたからですけど・・・」

「成る程、神もたまには良い仕事するな」

「たまにとは何ですか!!勇士さんの神へ考え方にどうこう言うつもりはありませんが、信者の前で口にして良いことばではありません!!」


勇士が神への評価を上げながら感心していると、彼の発言にジャンヌはかなりご立腹なようだった。


「すまん、神々には良い思い出がなくてな。気を悪くしたなら、謝る」


流石に自分が言ったことに関して言うべきではなかった、と気まずそうに謝罪する。


「神々と何かあったのですか?貴方は一体・・・?」

「ほら、料理が冷めるから早く食った方が良いぞ」

「は、はい、そうですね」


そう言ってジャンヌの質問に対する答えを誤魔化す。彼女が再び料理に集中したことに安堵し、不用意な発言をしたことを反省する。まだ彼は彼女に全てを話す気は無かった。



「美味しかったです。有り難うございました。」

「お粗末様でしたっと、俺は食器洗うからリビングで適当にくつろいでてくれ」

「食器洗いなら、私も手伝いますよ?」

「いや、いいからくつろいでてくれ」

「でも・・・わかりました」


どうやら、このまま続けてても同じやり取りの繰り返しになると思ったらしく、ジャンヌはあっさりと引き下がった。そしてソファーに腰を下ろし、テレビをつけたのを見て、勇士は台所に向かい、食器を洗い始めた。


「次のニュースです。今朝、『魔導特区』の周辺の山でクレーターが見つかり ―― 」

「魔導特区?」


どうやら、今朝の巨大な魔物との戦闘の跡がニュースになっているようだった。だが、ジャンヌはそれより『魔導特区』と言う単語が気になったようだった。


「ん?魔導特区か?良い機会だから、この町について教えとくぞ。この町は魔導学園特別区、通称『魔導特区』って呼ばれてる。土地は日本政府じゃなくて国際連合が所有してるんだ。土地に対する税金はしっかり払ってるから日本政府とは、win winの関係ってやつだな。そんな理由があって他の町と比べて外国人が多いかな。あとは、魔道学園特別区って名前から分かるように魔道学園があるぐらいか。」

「名前からだいたい予想は出来ますけど、魔導学園って何ですか?」


勇士が住んでいる町について長々と説明したわけだが、新たな疑問が出るのは当然で、ジャンヌが今度は魔道学園について質問してきた。


「まあ、名前そのままに魔法を教える学校だな。ちなみに、俺もそこに通ってる。春休みが終われば2年生だな」

「そうなんですか。私も行ってみたいです」

「やめといた方が良いぞ?正直、お前レベル威力に学園の施設が耐えられないと思うからな」

「そうですか・・・少し残念ですけど、学園の人に迷惑を掛ける訳にはいけませんし・・・」


もう人ほど、全力で魔法を使うと学園の施設を破壊してしまう人物がこの場にいるのだが、当の本人は棚に上げているようだ。


「俺はこの後、夕飯の買い出しに行くんだが、風呂を準備して沸かしとくから、風呂が沸いたら好きに入ってていいぞ。あっ、シャワーの使い方は分かるか?」

「お風呂ですか!?はい、わかりました!シャワーの使い方は分かるので、大丈夫ですよ」


お風呂と聞いて、ジャンヌは今にも鼻歌を歌い出しそうなほど嬉しそうだ。何しろ、今朝の戦いで汗をかいていたので、さっぱりしたかった。それに、体の匂いが気にならないと言えば嘘になる。

その姿を微笑ましそうに見ながら、勇士は、やっぱり外国人でも毎日風呂に入れると嬉しいんだろうな、と女心を分かっていない的外れなことを考えていた。


「それじゃ、行ってくる。あと、誰か来ても居留守使って無視してくれ」

「出てはいけないのですか?少しかわいそうですよ?」

「いや、下手したら俺が社会的な地位を失うから!」

「・・・出来れば、そうします」

「出来ればじゃなくて断言してくれよ。・・・・はぁ」


勇士の家に今までいなかった美少女がいるとなれば、近所で噂になり、さらに噂に尾ひれがついたら、本当に勇士が社会的な地位を失いかねない。ジャンヌの回答に一抹の不安を感じながら、できるだけ早く帰ろう、と心に決め、勇士は家を出た。

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