第5話

「私の名前は、ジャンヌ、ジャンヌ・ダルクです」


ジャンヌ・ダルク ―― 15世紀の百年戦争末期に活躍し、イギリス(イングランド)と通謀していた司教らによって異端の宣告を受け、火刑となったフランスの救国の英雄、オルレアンの乙女とも呼ばれる聖女。


「・・・・そうか」

(成る程、神の次はかつての英雄ときたか・・・きな臭くなってきたな)

「そうですよね。信じられ ―― って、えっ!?」


簡単に勇士が話を信じたことに、少女改めジャンヌは驚愕していた。だが、勇士の方は思考の渦の中に呑まれていたので気づいた様子はない。


「自分で言うのもなんですが、かなり信憑性のない話ですよ?そんな簡単に信じてしまって良いんですか?」

「ん?ああ、問題ない。どちらかと言えば、納得した」


勇士は前世の記憶が戻ってから1年の間、この地球の英雄について調べていたので、ジャンヌ・ダルクが本来遥か昔に死んでいることは知っている。だが、神が絡んでいるなら、彼女が使った魔法の威力も説明がつく。ジャンヌが森で使った魔法は本来、失われた魔法ロストマジックと呼ばれていて、すでに現代では、伝説として名前が残っているだけとなっていた。


「?納得した、とは?」

「いや、気を悪くしないで聞いてくれ、ジャンヌ、君はあれだけの魔法を使えるにもかかわらず、魔法を構築する時に魔力でごり押ししてるから、魔力に無駄が多い。つまり、魔力操作に馴れていない。魔法の技量と持っている力が釣り合ってないんだ。あと、あの巨大な魔物に対して核、魔石が何処にあるかも分からないのに一点だけを攻撃するような魔法を使ってたからな、戦闘経験が少ないだろうとも予想できた。だから、君の力は可笑しいんだ。だけど、神から力をもらっているなら納得できるからな」

「な、何故私が神から力を授けられたと?」


どうやら図星だったらしく、ジャンヌはこの短い時間の間で何度目かの驚きの声を上げた。


「何故って、そりゃあ、俺が神でもわざわざ一度死んだ人間を前世の記憶ありで転生させないといけない緊急事態に、何も強化しないで転生させないからな」

「確かにそうですね」

「まあ、とは言っても、しっかりと力を使いこなせなきゃ意味がないけどな」

「そう、ですね・・・。やはり私は授かった力を使いこなせていませんか・・・」


勇士の説明にジャンヌは納得したようだったが、その次に放たれた言葉に、彼女は肩を落とし、落ち込んだ。それには流石に鈍感な勇士も不味いと思ったのか、あわてて口を開く。


「いや、力を手に入れたばかりは誰しもそんなもんだ。君が悪い訳じゃない。良かったら俺が魔法や魔力操作を教えようか?」

「良いんですか?」

「ああ、もちろんだ。君が良かったらだけどな」

「はいっ!宜しくお願いします!!それと、私に丁寧な態度はいりませんよ?私は教えてもらう立場なのでジャンヌと呼んで下さい」

「そうか?じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


勇士は状況から自分が犯罪者だと思われる可能性があったので、普段は使わない丁寧な言葉使いをしていたが、ジャンヌの一言でやっと止めることができた。

勇士が魔法の師を買って出たので希望が見えたのか、ジャンヌはは笑顔を見せた。その純粋な笑顔に彼は眩しさを見た。


(俺が誰かを教えることになるとはな・・・。夢にも思わなかった。だけどまあ、この笑顔は守りたいな。・・・これも英雄だった頃の名残かね)

「では、今すぐ始めましょう。ッ!?」


勇士が英雄だった前世ころに思いを馳せていると、ジャンヌが起き上がろうとして、目眩を感じ、布団に手を突いた。驚いた勇士は布団の横に移動し、彼女の肩を掴んで寝かせた。


「まだ無理をしない方が良いぞ。ジャンヌ、お前の怪我は魔法で治したが、魔物に吹き飛ばされて頭を強く打ったんだ。本当なら2、3日目覚めなくても可笑しくなかったんだから、しばらく大人しくしとけ。無理をし続けるといつか動けなくなるぞ」

「はい、わかりました」


心なしか元気がない。まだ目眩がしているのだろう。勇士が、何か飲むか?、と言いながら台所まで行き、冷蔵庫を開ける。ジャンヌが、では水を頂けますか?、と言ったので冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、コップに注ぐ。


「そういえば、名乗り忘れてたな。俺は天霧 勇士。宜しくな、ジャンヌ」


ジャンヌにコップを渡しながら、勇士はそう言って笑った。

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