第4話

― 少女の瞼がゆっくりと開かれた。


「・・・・・・・・・」


勇士と少女は目が合った瞬間、固まった。少女の方はおそらく、人がいたことに対して驚いているだけだろう。問題は勇士の方だった。


(一旦、状況を整理しよう

まず、山で朝の鍛練の途中で轟音が響いたので、その方向へ様子を見に行った。

見に行った先で少女が飛んできて受け止めた。

その後、巨大な魔物と戦闘。

魔物が何故か逃げた後、少女を背負って下山、人に見つからないように住宅街を移動し、少女を家に運び込み、寝かせた。

・・・・・これ、誘拐って言われてもしょうがない状況だな)


巨大な魔物との死闘で少し冷静さを失っていた頭が冷静さを取り戻し、この状況が非常に不味い事態だと言うことにようやく気がついた勇士は、全身から嫌な汗が噴き出してくるのを感じながらこの状況を切り抜けるために高速で脳を回転させる。

極悪人として汚名を着せられようとも勇士は気にも留めないだろうが、少女を誘拐した犯人という汚名は嫌だったのだろう。

かなり真面目に状況を打破しようとしていた。


「あ、あの ―― 」

「ッ!!」

(どう切り出してくる!?)

「?どうしたんですか?」


この状況にどんな反応をするんだ、と緊張で体を強張らせた勇士を見て、少女は不思議そうに首を傾げた。彼女の反応から、自分の心境が行動に出てしまっていると気付き、あわてて口を開く。


「い、いや何でもない。君の目が綺麗だったから、見とれてたんだ」

「えっ?」

(何てことを言っているんだ俺は!誤魔化すためとはいえ、恥ずかしすぎるだろうが!!)


誤魔化すためにとっさに口から出た言葉に勇士は頭を抱えたい気持ちをこらえ、自分のクサイ発言を気にしないようにして、ポーカーフェイスを装った。一方、少女の方は、最初の内は意味がよく分かっていなかったようだが、徐々に意味を理解してきたのか、顔が赤面していき、最終的に耳まで赤くなっていた。おそらく、あのような言葉に馴れていないのだろう。とはいえ、彼女の瞳は髪と同じく、綺麗な金色をしていたため、勇士がいったことは紛れもなく真実である。


「どうしたんだ?顔が赤いが・・・・熱でもあるのか?」

「い、いえ、大丈夫です」

「?そうか」


今度は勇士が首を傾げる番だった。己が言った言葉がどれだけ恥ずかしいのかは分かっても、目の前の少女が赤面している理由は分からないようだった。


「で、君は何者なんだ?普通の人間があのレベルの魔物を相手にまともに戦える筈はないんだが・・・(自分のことは棚に上げている)」

「ッ!?貴方はあの場にいたんですか!?」


ああ、と勇士が頷くと、少女はさらに驚愕したようだった。

それから勇士が彼女にこれまでの経緯を説明すると、彼女は納得したように頷いた。


「では、私は倒れているところを貴方に保護されたのですね?」

「まあ、そうなるな」

「助けて頂いてありがとうございます。あと、あの場にいたなら、魔物がどこにいったかご存じないですか?」

「ん?あ、ああ、あの魔物なら何処かに消えていったぞ」


少女が自分が家まで彼女を運んだことを良い方に解釈してくれたことに安堵し、勇士は自分が戦ったことを伏せて魔物について話した。


「・・・・そうですか。教えて下さってありがとうございます」

「いや、俺に敬語とかいらないぞ。君が敬語を使うほど大層な人間じゃないからな」

「い、いえ、貴方は私の恩人ですから、気にしないで下さい。」

「いや、だから敬語はいらないって・・・」

「・・・わかりました」


まだ少女は納得していないようだったが、これ以上断るのは失礼だと思ったのか、了承してくれた。


(しまった。話が脱線し過ぎてる)

「話を戻しても良いか?」

「えっ?あ、すみません。良いですよ」

(敬語はいらないって言ったんだけどな。癖なんだろうな)

「それで、君は何者なんだ?」

「私は・・・・」


話を元に戻し本題に入ると、少女は迷ったように言い淀んだ。そして真剣な顔付きになり、口を開いた。


「信じて貰えないかもしれませんが、私はある理由で神の力で2度目の生、こう言った方が分かりやすいかもしれません。私は転生した者です」

(神が絡んで来るのか、厄介事に首を突っ込んでしまったか・・・)


神に良い思い出のない勇士は出かかったため、内心頭を抱えたくなった。


「私の名前は、ジャンヌ、ジャンヌ・ ダルクです」

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