第3話

日が出たとはいえ、まだ多く人が寝ている時間なので人がいない住宅街を勇士は走っていた。もっと正確に言えば、少女を背負いながら屋根の上を走っているのだが、不思議なことに物音で起きてくる住人はいない。何故なら、足音を出さずに勇士が走っているからである。


背負われている少女は格好が変わっていた。金色の鎧ではなく、白いワンピースを着ていたのである。これは、勇士が少女を背負って山を下りていた時に、少女の鎧が急に光出し、鎧が光の粒になり、少女はワンピース姿になっていたのである。それからしばらく、勇士はダイレクトに背中に当たる感触を気にしまいと苦労することになったのは、言うまでもない。


「よっと」


勇士は静かに屋根から飛び降り、二階建ての一軒家の前に着地した。この家に勇士は住んでいる。少女を背負ったまま、玄関の鉢の下から鍵を取り出し家に入る。


「ただいま」


誰もいない家の中に声が響き、消えてゆく。勇士には、父親と母親、そして姉が一人いるが、父親と母親は海外を飛び回り仕事をしているため、家にいることはほとんどなく、姉は友達と世界一周の旅の真っ最中でこれもまた家にいない。つまり、現在、家にいるのは彼一人ということだ。俗に言う一人暮らしである。


靴を脱いでからリビングを目指して廊下を歩き、扉を開けてリビングに入り、テレビの前にあるソファーに少女をゆっくりと寝かせた。


「ふぅ、確か布団は和室の押入れにあったよな」


勇士は来客用として和室の押入れに仕舞ってある布団を持ってくるために、一階の和室を目指し、リビングを出て廊下を歩く。



和室から持ってきた布団をリビングの空いているスペースに敷き、少女をソファーから布団に移してから、勇士はソファーに腰を下ろし、くつろぐ。


「ふあ~、・・・戦いの疲れがでたか」


戦いの影響か、眠気を感じた勇士はそのままソファーに倒れ込む。先程まで少女を寝かしていたので、甘い香りが鼻腔をくすぐり、なかなかに寝付けなかったが、煩悩を必死に頭の隅に追いやり眠りについた ―


― うっすらと瞼を開ける。徐々に意識がはっきりとしていき、欠伸をしながら上体をおこす。ソファーで寝たからか、首に痛みが走り、うめき声を上げる羽目になり、首を擦りながら窓の外を見て、時計を確認する。もうすでに窓の外は明るくなっており、時刻は9時をまわっていた。勇士が寝る前に時計を見たときは6時半だったので、あれから2時間半も寝たことになる。


「う・・・ううん、・・・・ここは?」


― 少女の瞼がゆっくりと開かれた。






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