第2話

「こいつが、あの魔法を撃っていたのか?」


飛んできた少女を疑わしそうに見ていると、少女が飛んできた方向から、大きな足音が聞こえてきた。そして、次の瞬間、黒い塊が勇士に向けて迫り、見えない壁と衝突し轟音を響かせた。


「あぶねっ!油断した!!」


勇士は黒い塊が迫ってきたことに気付き、とっさに魔法で結界を張っていた。

次の攻撃を警戒しながら、少し考えれば予想できたと、己を叱咤し、巨大な気配に気付けなかったことに未熟さを感じて悔いる。


「おいおい、こいつどう見てもSランク並みに強いだろ。もう存在しないって習ったはずなんだが・・・」


転生してから常識として習っていた知識が間違っている事に、呆れながらも勇士は攻撃してきた相手を睨み付ける。

彼は土煙の中から現れた巨大な魔物から放たれる威圧感に驚きを隠せなかった。その外見は『シャドウドール』を巨大化したような感じだった。違いと言えば頭部の目の位置に紫色の光が灯っているぐらいだ。全長はおそらく、10mを優に超えているだろう。すでに、先程攻撃してきたのと逆の腕を振り上げ、次の攻撃を放とうとしているところだった。


「くっ、こっちだ!!」


少女を木のそばにそっと下ろしてから、魔物の注意を引き付けるように叫びながら、走る。案の定、魔物は勇士の方へ向かってくる。次の瞬間に降り下ろされた腕を回避し、その腕に飛び乗り魔物の頭部目掛けて、かけ上る。勇士が足元に違和感を感じ、飛び退いたのと同時に足元の腕の一部が無数の棘に変化し、襲いきってきた。棘を刀で一閃し、難を逃れたが、すでに回避出来ない距離まで反対の拳がせまってきていた。


「ぐあっ!!」

(こいつ、でかいくせに早い!?)


とっさに刀で防いだので、直撃は避けたが、後ろの木々をへし折りながら吹き飛ばされてゆく。勢いよく地面に叩き付けられ、一瞬意識が飛びかけたのをこらえ、追撃のために放たれた拳を避けた。


「喰らえ!『双牙そうが』ッ!!!」


魔物の腕の側面に回り込み、上下から2回切りつけ、魔物の腕を切断する。


「グオオオオオォォォッ!!!」

「『回復ヒール』」


魔物は自らの腕が切断された痛みからか、叫び声を上げながら後退した。そのスキに勇士は自分に回復魔法を掛ける。そして、畳み掛けようとしたとき、地面から黒い棘が次々に飛び出してきた。


「ッ!!闇属性魔法か!?」


その場を飛び退き、勇士に向けて高速で放たれた棘を刀で打ち落としてゆく。


「棘を飛ばすことまでできるのかよ!?これでも喰らえ!『光弾ライトバレット』、『大地の牙アースエッジ』」


光の玉が現れて高速で放たれ、飛んできた棘と空中で打ち消し合う。地上では、地面の一部が隆起し、鋭い棘に変化して魔物に向けて突き進んでいき、これも魔物の放った黒い棘と衝突し、せめぎ合う。


「うおおおおおおおおお!!!」


魔法の拮抗が崩れ、『光弾ライトバレット』の弾幕を敵の棘が突破し、一方で地面では『大地の刃アースエッジ』が黒い棘を砕きながら突き進む。勇士は飛んできた棘を刀で打ち落としたが、魔物は避けきる前に、『大地の刃アースエッジ』が届いた。しかし、魔物に直撃する瞬間、魔物の体が黒い霧に変化し、霧散してゆく。


「なっ!?」


勇士が驚愕しているスキに、魔物が変化した黒い霧は勇士を取り囲み、四方八方から黒い棘を飛ばしてきた。正面や側面から飛んできたものを刀で打ち落とし、背後からのものは避けてゆく。だが、対処しきれず少しずつ傷を受けてしまう。


「ッ!!ぐああああああ!!!」

(ヤバい、次は避けれない。もう力を隠し通すのもここまでか・・・)


足元に突き刺さった棘に足を取られ、体勢が崩れた瞬間、ももに棘が突き刺さった。激しい痛みのなか、勇士は隠していた力を使うこと覚悟したが、魔物が追撃をしてくることはなかった。追撃がないことを疑問に思い、黒い霧をよく見ると、まるで動揺しているかのように揺れ動き、地面に溶けるように消えていった。


「いったいあの魔物はどうしたんだ?」


一瞬、視界の端に眩しさを感じ、その方向に顔を向けると ―


「朝日・・・か」


― 朝日が山の向こうから昇り始めていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る