第1話

― 静かな夜明け前の山に轟音が轟いた。


「何だ!?」


轟音が鳴った方向を見ると、隣の山の一部から土煙が上がっていた。次の瞬間、土煙の中から眩い光の線が放たれ、向かい側にある山に着弾し、再び辺りに轟音が轟く。


「あれは、魔法か!?」

(バカな、であんな威力の魔法を放てる奴は俺の知り合い以外は存在しないはずだ!!)


勇士はその威力に驚愕しながら、そう呟いた。

魔法とは、魔力を代償に世界の理に干渉し、超常的現象を引き起こすもので、例としては、先程の山の斜面を吹き飛ばす威力を持った光線を放つことなどが挙げられる。また、魔力は空気中に存在する魔素を体内に吸収し、変換することで得る事ができる。


(いや、今はそんなことはどうでもいいか。明らかに今は緊急事態だ。何が起こっているのか確認しないとな・・・)


驚愕から立ち直った勇士は、いつでも抜刀できるように刀を手に持ちながら、隣の山に向けて山の中を全力で疾走する。だが、勇士はその足を急に止め、周囲を警戒するように見渡した。


(この気配は・・・)


勇士が足を止めた元凶が木の影からゆっくりと現れた。黒いモヤを無理やり人の形にしたような外見をしていいて、顔には目も口も鼻もついていない。それが木々の影から次々に現れ、襲いきってきた。


「やっぱり、魔物か!」


魔物 ― それは人類が生存領域を広げていく上で、幾度となく争ってきた人類の敵で、魔素が濃い場所で生まれやすい。基本的に町や道路には魔物を寄せ付けないよう結界がほどこさている。だが、森や山などは魔素が濃く、一部の例外を除き魔物が生まれやすいため、結界を張ることができないのだ。

つまり、森や山には魔物が蔓延っており、日本では定期的に政府が自衛隊を森や山に派遣し、魔物が大量発生しないようにしている。

そのため、勇士の目の前の魔物の大軍という光景は異常だった。


「Eランクの『シャドウドール』だからって、この数はないだろ!?自衛隊しっかり仕事しろよ!!」


魔物の強さは以下の通りに分類されている。

SSSランク・・・神話級

SSランク・・・神獣級

Sランク・・・英雄級

Aランク・・・準英雄級

Bランク・・・超人級

Cランク・・・達人級

Dランク・・・兵士級

Eランク・・・素人級←シャドウドール

最弱の部類とはいえ、ざっと見ただけで50体以上いる魔物の大軍を前に、心の底から叫びながら勇士は目の前の敵を素手で殴り飛ばした。


「シッ!!」


勇士は腰を屈めて居合いの体勢をとると、一斉に襲いきってきた5体を居合いでまとめて切り飛ばし、背後の2体の一方を袈裟斬りで倒し、素早く手首を返してもう一方を逆袈裟斬りで倒す。さらに背後から襲いきってきた3体を回し蹴りで吹き飛ばし、魔物相手に無双していく。


10分後 ―


「ふう~、これで最後か・・・」


最後のシャドウドールを切り伏せた後、周囲を見渡すと、魔物の気配はなく、地面に大量の親指の爪ほどの大きさの青紫の宝石、『魔石』が落ちているだけだった。

『魔石』とは ― 全ての魔物が持っている魔力の籠った核で、魔道具の材料や発電のための燃料などに使われている。また、魔石の大きさや質は魔物の強さに左右される。


「よし、さっさと行くか」


再び山の中を疾走し始め、たまに遭遇する魔物を倒しながら進み、未だに轟音や魔法の光が発生している地点が目の前まで迫ったとき、勇士に向けて木々をへし折りながら何かが飛んできた。


「うおっ!な、何だ!?女の子!?」


とっさに受け止め、飛んできたものを確認すると、それはいや、彼女は金色の鎧を着いる金色の髪をした美少女だった。だが、彼女はボロボロになって気を失っていた。






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