神域の元英雄と終焉戦争

暁 虎鉄

プロローグ

遥か昔、一部の傲慢な神々が自らの娯楽のために『箱庭』を創り出した。彼らはその『箱庭』の中に人を創造し、稀に英雄と呼ばれる存在も生まれていたが、英雄は例外なく、神々の娯楽のために強敵と戦うことになる。そして、彼らは命を落としていった。

だが、神々の娯楽によって仲間を失った英雄によって、『箱庭』は破壊され、神々も滅ぼされた。

その後、英雄は自害し、彼は神々から『神域の英雄』として恐れられた。



3月29日、まだ日も出ていない早朝の暗い山の中を人影が疾走していく。

その人影 ― 天霧あまぎり 勇士ゆうじは山の山頂に着くと大きく息を吸って深呼吸した。


「ふう、体力はかなりついてきたな」


彼 ― 『神域の英雄』が天霧 勇士としてこの『地球』に転生してから16年の月日がたっていた。

彼が前世の記憶を思い出したのは15歳、高校1年生の頃で、現在高校は春休み、つまり記憶を思い出した時から約1年しかたっていない。

だが、記憶を思い出す前のまだ幼少の頃から本能的に何かを感じて体を鍛え始めたため、流石前世が『神域の英雄規格外』と言うべきか、山の中を疾走したのに息一つ乱さないという、超人レベルの身体能力を有していた。


「さて、そろそろ始めるか」

召喚サモン


そう勇士が呟くと、彼の前に黒い鞘に納まっている刀が突然現れた。


「ようやくこいつをまともに振れるぐらいの筋力がついたか・・・」


その刀を手に持ちながら感慨深そうに呟くと、刀をゆっくりと抜刀する。刀身を眺めて満足そうに頷くと、刀を鞘に戻した。

そしてゆっくりと鍛練を始める。

刀を上段に構え、振り下ろす。素振りを最初はゆっくりと、型を確認するように刀を振る。


「1、2、3、4 ――――」


刀は真っ直ぐ綺麗にに振り下ろされ、教科書に載っている模範のようだった。

基礎をどれだけ丁寧に行ってきたのかが容易に分かる。ここまで極めると、一種の芸術にも見えてくる。

そして、素振りは徐々に速さを増していく。

しかし、素振りの型が乱れた様子はない。勇士の顔は真剣だが、まだ余裕はありそうだ。


「 ―――― 997、998、999、1000 。ふぅー、問題は無さそうだな。さあ、次だ」


千回振ったところで、素振りを止め、腕の疲労度を確かめ問題がないことを確認し、今度は腰を落として刀を鞘に戻す。

左手は鞘を持ち、右手は刀の持ち手の近くの空中に構える。


「すぅ~、はぁ~」

「シッ!!」


目を閉じ深呼吸をし、心を落ち着かせる。

そして、急に目を開くと、文字どうり目にも止まらぬ速さで抜刀し、次の瞬間には先ほどと同じ状態に戻っていた。居合いである。


「まあ、及第点といったところか」


居合いでこの速さに到達するのは、この世界の人間では、ほぼ無理だと言っても良い。

それを及第点と言うなら、世界中の居合いの達人から、異議申し立てが殺到する事になるだろう。


そこから徐々に実戦形式になっていく。振り下ろしからの切り上げ、体を回転させ、勢いを付けての切り払い。

まるで川の流れのようにそれらを組み合わせていく。さらに、蹴りなどの体術も混ざり、遠くから見れば、演舞のようにも見えるほど勇士の技は洗練されていた。


「ふぅー、あっやばい」


数十分後、ようやく勇士が鍛練を止め、辺りを見渡すと、周囲にあった木を数本切断してしまっていた。

おそらく、勇士は鍛練に夢中にあるあまり、周りが見えなくなっていたのだろう。

自分が仕出かしたこととはいえ、その惨状を見て、勇士は深いため息をはいた。


「これ、どうすんだよ・・・・」


勇士がそんなことを言いながら頭を悩ませていると ――




――― 突然、静かな夜明け前の山に轟音が轟いた。

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