第4話 INSIDE(前編)
1
蔵の錠前が、開いていた。
男は、慌てた。
そして、戦慄いた。それは、決して開けてはいけない蔵だったのだ。
――どうして錠前が開いているのだ。 わからなかった。
――何故……、なんてことだ。
震える手で、男は錆びついた錠前に手を伸ばした。
もう何十年も、誰も触れたことがないはずの、土蔵錠――土佐錠だ。
男はあたりを見渡した。誰もいない。
――誰が……こんなことを。
誰も開けるはずがない蔵だった。誰にも、開けられないはずの、蔵だったのだ。なのにいったい誰が何故――。
がたがた、がたがたと、その皺だらけの指先が震えた。
――いや……そんなことより、大変だ……、大変だ。
男は咄嗟に辺りを見回した。
錠前の鍵らしき物はない――否、錠前の鍵は、そもそも男が保管していたのだ、家の者に持ち出せるわけがない。この蔵が、開けてはならない蔵だと知っている以上、家の者が鍵を持ち出すわけがないではないか。
――とにかく……、錠を、元通りに……。
ただ徒に齢を重ねただけの疲れきった手だと、男は自分の指が震えるのを見ながらそう思った。
ただこの蔵を守るためだけに――彼はこんなにも歳をとってしまったのだ。
それでいいと、思って生きて来た。
こうするしかないと思って、ここまでやってきたのだ。
――それなのに。
2
「では、これで一月の定例会議を終わります」
「はああ―――――、終わった終わったっ。ったくいいかげんにしてほしいよなあ! 始業式だぜ、今日。しかも正月明けだってのによ」
議長の会議終了の宣言を聞いて、橘飛鳥は大きく伸びをする。
伸びと一緒に、欠伸が出た。
教室の壁にかかっている時計は、すでに午後三時を回っていた。本日は、一月八日――三学期初日である。
ぞろぞろと席を立つのは、月に一度の定例級長委員会を終えた、私立西陵高等学校は一年生の学級長達。
そのうちの一人――橘飛鳥は、長ったらしい前髪を鬱陶しげに掻き上げ、隣に立つ学年首席の幼馴染み――皇柚真人の背中をがしがし叩いた。
「いや、忙しいねえ。多忙だねえ、柚真人君」
西陵高校は校舎は都心をやや武蔵野方面へ離れた郊外にある。
男女共学、平均的な学校より幾らか厳格な校風が売りの都内中堅の進学校である。
制服は、柔らかな鶯色のジャケットと暖かい鼠色のボトムが基調だ。
歴史としては開校四十年を過ぎたところで、敷地は広く、校舎もそろそろそこそこに古い。ゆえに学校は、生徒たちにもっともらしく語って聞かせるほどの歴史にも不自由していなかった。
しかしその一方で、再新鋭の設備の拡充にも怠りがなく、生徒の評判、受験人気ともに上々である。
橘飛鳥は、その西陵高校一年二組の、皇柚真人は同じく一年三組の、級長を務めている。
その顔面偏差値と物理的な頭脳の偏差値と教師受けの良さでもって、入学と同時に面倒な地位に無理やりまつり上げられたのが皇柚真人だ。
対する橘飛鳥はというと、同級の生徒達の人気を強引にかっさらって好きこのんで――というよりなんとか柚真人と関わる時間を増やしたくて級長の地位に登り詰めたと言うのが正しいだろう。
まあ、そうでなくてもふたりの付き合いはもともと長い。
柚真人と飛鳥は母方を同じくする従兄弟同士だ。
ただし、顔立ちは少し似ている程度で、性格は正反対。柚真人が些か裏表のある完璧な仮面装備型人間であるなら、飛鳥はまったく裏というものがない直球野郎だった。
その関係はといえば、物心ついた時からの友達とも幼馴染みとも呼べる間柄で、有り体に言えば腐れ縁という言葉がいちばんしっくりするだろう。
ともあれ――正月早々といえども学校が始まってしまった以上、学級長をつとめる二人が多少忙しいのは致し方なく、そこを愚痴ってもはじまらない。
「べつに……おれにつきあってくれ、と頼んだ覚えはないよ。お前、好きで多忙な生活してるんだろう?」
唇に皮肉げな笑みを刷きながら、柚真人はそう答えた。
「むしろおれを巻き込まないでくれないか、といつも言ってる気がするぞ、おれは」
「そんな淋しいこと言ってくれるなよ、僕と柚真人との仲じゃないか」
柚真人からして見ると、この従兄弟・飛鳥ときたら、やたら好んで自分と腐れ縁を拵えているようなふしがあった。
とはいえ、どうやら好かれているようだから、別段、とくに悪い気はしない。
それに飛鳥とは本当に長いつきあいだし、その時間が生んだ彼との間にある関係は、得ようと思って得られる代物ではないからいいだろうと、柚真人は思っている。
「冷たいのう、柚真人君は」
柚真人にあしらわれると、いかにも淋しそうな目を、飛鳥はしてみせる。
「だからさあ。今年の受験生の試験監督。一緒にやろうよ」
「……やっぱりそうくるんだよな」
そう。今日の会議のもっぱらの議題は、迫り来る入学試験に備えての、試験監督や受付、それに道案内などの係を募ることだった。
この役目に、級長自ら名乗りを上げてもいいはいいのだが、そんな物好きはまずいない。大概はクラスに議題を持ち帰って別途で募集される。
呆れたように、柚真人は切り返した。
「嫌だよ。面倒だし、退屈だし。お前、なんだってそう面倒な雑用が好きなんだ?」
「いいじゃんかよう。面白そうだしさ。おれ、去年受験したとき、合格ったら絶対やるんだって心に決めてたんだもん。お前、思わなかった?」
これである。一緒にいると、とりあえず退屈だけはしないこと請け合いだ。いつも何かに巻き込まれることになる。
「物好きな……」
「なあ。やろうな?」
「断る」
柚真人は不機嫌な表情で吐き捨てた。
「おれはクラスから人員募る。だいたいだな。せっかく平日休みってのに、何が悲しくて試験監督やるために学校なんか来なきゃならないんだよ」
すげなく言い返した柚真人は、鞄を取り上げて立ち上がった。
「帰るぞ」
「おおい、待てよ」
飛鳥も柚真人を追って立ち上がる。
真冬の鈍い陽射しが、ワックスの染み込んだ木タイルの床に長い影をつくっている。すでに、教室に残された人影は疎らだった。
そして二人が教室を出たときである。
会議室の前の廊下で所在無げにたたずんでいた一人の男子生徒が、不意に顔を上げた。
「ああ――皇! よかった、待ってたんだ」
男子生徒は――教室から出てきた柚真人の姿を認めて安堵したように表情を緩めたのだった。
その男子生徒は飛鳥の学級――柚真人の隣の学級の、三条祐一。
飛鳥にとっても、柚真人にとっても、面識がある、くらいの認識しかない生徒だ。
少しばかり神経質そうな顔立ちの少年は、しかし何かに縋るかのような切羽詰まった目をしており、飛鳥はそれを怪訝に思った。
果たして三条は、飛鳥のことはとりあえずかまったふうではなく、一直線に柚真人に詰め寄り、そして――。
「皇。話があるんだ。ちょっとでいい。お前ん家、神社――やってるんだよな?」
☆
三条少年の話は、実に奇怪なものであった。
「妹が、蔵に入ったまま、出てこないんだ」
――陽も傾いてゆく午後四時の教室。
少年は、泣きそうな顔でそう言った。
そして、こう続けたのである。
三条の家には、蔵があった。
古くからの地主で、広い土地を持っているのだ。その蔵に、七日前から、三条祐一の妹の美佳が閉じ込められているという。
そもそもその蔵はもう何十年も前から――いや、何百年も前から錠前で扉は封印されているのだという。祖父と両親に聞いた言い伝えでは、三条家のその蔵には、『クラヒメ』様なるものが棲んでおり、蔵の扉は開けてはいけないことになっているというのだ。
開ければ――三条家は『クラヒメ』様の怒りをかう。
災いが降りかかる。
さて、事の起こりは七日前の元旦。
三条家の正月は、とりあえず家族で過ごす決まりだった。今年の元旦も、家族で初詣でに行って、祐一も帰ってきてからは何となくすることもなくてごろごろしながら妹の遊び相手をしていたのだそうだ。
妹はそれから庭に出て遊ぶといい、祐一が妹を玄関から出した。
それが、祐一が見た最後の妹の姿だった。
そして――妹の姿が見えなくなった。
祖父と両親は酒が入って寝てしまい、祐一も自室でテレビゲームに興じていた、その間の出来事だった。
日が暮れて、夜になっても帰ってこない。そこで不審に思って、家中の者が探したところ、何と――庭の隅にある土蔵錠で封印された蔵の中から、妹の声がしたのだそうだ。
そこからが三条曰く、おかしい。
普通に考えれば、安堵して蔵の錠を開け、家族は娘を蔵から出すであろう。
それがごく当たり前の行動だ。
しかし――家の者は、誰一人として、蔵の鍵を開けて妹を助け出そうとしなかった。それどころか、蔵には触れるなという。
祐一の妹は小学三年生。この冬の最中に暖房器具ひとつない古い蔵の中に飲まず食わずでは、そうそうもつとも思えない。否、放置するのは危険であるとさえいえるだろう。
なのに、誰も妹を蔵から出そうとはしないというのだ。
そしてさらに不思議なことに――妹の声は何日経っても変わらず元気で、蔵の中から、誰かに閉じ込められたのではないから心配しなくていい、と云ったのだ。
――此から出るのは嫌。
――友達が居て一緒に遊んでいるの。
――それで楽しいの。
それを聞いて家族は戦慄したという。
何百年も前から封印されたままのはずの蔵の中に、誰が居るというのか。
いったい誰が一緒にいるというのか。
そんな筈は――。
そんな筈はない……。
いや――居る。
――『クラヒメ』様だ――。
3
「なんでしょう、その『クラヒメ』様、というのは?」
と、優麻が言った。
「『蔵』に、『姫』と変換されるんですか? 一般的には聞いたことありませんね」
「それがねえ。ま、三条に言わせると『三条家の座敷童』みたいなもんらしいんだよね。家の守り神ってやつ?」
と、橘飛鳥は答えた。
「ふうん……、あるんだ。今時そんな物に右往左往してるの、うちの家ぐらいだと思ってた」
そう、神妙な顔をして呟くのは、皇柚真人の一歳違いの妹――司。
「今時って、司、おまえね……」
「お、柚真人が悲しくなってるぞ」
司と柚真人の家である皇家は、古式ゆかしい神道を現代にまで伝える由緒ある家系である。
だが、司にとっては古くさく何の役にも立ちそうにないしきたりと儀式を細々と守る、古風な旧家でしかなかった。
それが証拠に親は司が物心つく頃からすでに放蕩暮らしで滅多に家に帰って来ないし、後見人と称して弁護士が常駐している始末である。
神社の敷地を含め屋敷だって古くて広いばかりで、今はもう使われていない生活領域ではない場所が一体どのような有様を呈しているのかというと考えるだにおそろしい。
となれば、とても現役で由緒ある家柄の姿ではないことだけは、確かではないか。
とはいえ神社がある以上それは運営されていかなくてはならず、そのために神社の長子として生まれた皇柚真人が今は神主を務めているのだが、当の神主はというと、
「――で。何なんだ。なんで雁首揃えておれの家で夕餉の食卓囲んでるんだ、ああ?」
前掛姿で――食堂のテーブルにサラダボウルを置いたところであった。
食堂は、この古臭い木造平屋建ての皇邸にあって唯一弱冠洋風のたたずまいを見せている場所である。
とはいえ床も壁も年期の入った板張りだし、テーブルも椅子も、年代物を通り越す勢いの代物。それもただ古いのか価値があるのか、いまいち判然としない。
柚真人は芝居がかった溜め息で、肩を竦めて見せた。
皇家の放蕩両親には当然家事の習慣はなく、夕食は、雇っている通いの家政婦が簡単に下準備をしておいてくれる。それをふまえても、今日の柚真人の帰宅が六時、今が七時ちょっと過ぎだから、標準的な男子高校生と比較すれば、なかなか優秀な腕前といえよう。
今日の献立は、そのサラダボウルに盛りつけられた温野菜のサラダと――味御飯、焼魚、味噌汁、であるらしい。
しかし、ふうむ、と飛鳥は唸って、テーブルをじっくり見渡した。
「そういいながらしっかり用意してるんじゃない、四人前の夕食」
「いやあ、どうもすみませんねえ。柚真人君」
級友の橘飛鳥と、柚真人のよき友人を自認する件の常駐弁護士優麻にあっては、動じたふうもない。
しかも飛鳥に至っては、付き合いも揺籠から始まる程のものだったし、どちらの家も勝手知ったるものだったから、夕方までどちらかがどちらかの家にいれば、こうなるのはいつものことではあったのだが。
飛鳥は、さらにはすっかり据え置きとなている、曰く『マイ箸』を取り上げながら、にやりと唇を歪めた。
「てかさ、いつもお前ん家、みんな留守で帰ってこないだろう? だからさ、司ちゃんと二人じゃ寂しいだろうなあ、と思って。ねえ、弁護士さん」
「そうですよねえ、橘君」
前掛姿の少年は、二人の言葉に苦々しく目を細めた。軽く、睨んでみる。
「……」
飛鳥と優麻の言いたいことが、何となくは理解できる柚真人である。
こういうところが付き合いの長い相手は厄介だ。
つまるところ、優麻と飛鳥は少年神主の歪んだ恋の矛先を知っているから質が悪い。
まして飛鳥は、柚真人に対して司の奪取を宣言してはばからないときている。
このあたりは友人・従兄弟ながら実はお互いに微妙な緊張感の漂う関係でもあるといえよう。
だから柚真人は小さくふんと鼻を鳴らし、ややぞんざいな態度で応える。
「――は。ありがたいことだね」
「まあまあ。それに、わざわざよ? お前の『趣味』にもこうしてつきあってやってるんじゃないか。そういう意味では、感謝されたっていいよなあ。だって――いいだろ? 食卓囲むのは大勢の方がさ」
そこを突かれると、ううん、ともなる。皇柚真人の趣味は料理だ。
およそ同年代の少年たちの平均的趣味の範疇からはおそろしくはずれているといっていいだろう。だが、好きなものは好きなのでしょうがない。その点を指摘されると、柚真人は相手に主張を斬って棄てるわけにもいかず、形の良い唇を尖らせた。
「……うるさいな。いいんだぞ、だからって別に無理しなくても」
「あ、かわいくないぞう。柚真人君」
「かわいくなくて結構」
「なんだよ。司ちゃん、君のお兄ちゃんがいじめるよう」
「……ごちゃごちゃと器が小さいわね。柚真兄」
さっぱりとした司のひとことで、そうなっては――いちおう無敵の少年神主も黙らされざるをえなかった。
こういう時、三対一では勝ち目が無いということを、柚真人は幼い頃からの経験から学んでいた。
☆
蔵に触れれば、災いが起きる。
祟りがあるから、蔵の扉は開けてはならない。
三条祐一は、幼い頃からただ意味も無くそう聞いて育った。
蔵に近づくことは厳しく禁じられていた。いままで、それを別段不審に思ったことはなかった。だが――。
この真冬に、もう七日も蔵に閉じ込められていて何ともないはずはない。
――そうだろう、皇。うちの家族皆おかしいと思わないか?
三条は、柚真人にそういい募った。
――クラヒメだかなんだかしらないけど。でも、父さんも、母さんも、じいちゃんも、どうかしてる。得体の知れない化け物でも蔵っで飼ってるみたいに怯えてさ……。妹のことなんか、これっぽちも心配してやってないんだ。
だから、なんとかしてくれ、と。
――お前、神社の跡継ぎだろう。祟りとか、呪いとかって詳しいんだろう?
――頼むよ、あの蔵の扉を、開けるにはどうしたらいいんだ?
三条の家族は、祖父と両親三代五人。
その中で、自らの家の蔵に伝わる奇怪な伝説を信じられなくなりつつあるのは、祐一ひとりなのだという。
そんな話をこの期に及んで頑なに信じ続けることができる両親たちが祐一にはとても信じられなかった。
――だって、死んじまうだろ? あの中じゃごはんも食べられないのに、いつまでも閉じこめるとくわけにいかないだろ?
三条の言い分はもっともだった。
――どうすれば、その……変な化け物の祟りとか、避けられるんだろう?
「しかし、奇妙ですね。その少年の話が事実だとすれば何日も経ってしまうと妹さんが無事であるはずはありませんが」
「やっぱそうだよな?」
飛鳥が言い、優麻は茶を啜ると、嘆息して分析した。
「そりゃあそうですよ。気温ひとつとっても、小さい子供なら簡単に死んでしまいます。東京の一月の夜の気温、どれくらいだと思ってるんです、橘君」
「さあねえ……」
「下手すれば氷点下でしょう。そんな中、大人だって眠ってしまえば一晩で凍死です」
だよなあ、と飛鳥は相槌をうつ。
「ええ。それに……そんなに恐ろしいのでしょうか、その家に伝わる伝承というような話が?」
湯飲みを掌に押し包んで、優麻は穏やかに柚真人を見遣る。
対する柚真人は、テーブルの上の食器を重ねながら、ううん、と軽く唸った。
「それとこれとは別にしても、普通は……、あくまでも普通な。自分の子供だろ、心配しないか?」
「ええ、そうですね。言いましたが今は真冬ですし、どう考えても小学生の女の子では体力的にも――」
「ていうかさあ……またそういう怪しい話に足突っ込んでるの、ふたりとも? いいかげんにしてくれないかな、兄貴もさ」
というのは司の言葉だ。
司は、厳しい視線でもって、兄の柚真人を睨む。
もっとも、兄の方は全然動じていないのだけれど――それがまた、司にしてみると腹立たしいところだ。
「聞いてるの?」
「はいはい、聞いてるよ、お前の話も」
「……大概にしてよ、本当に」
柚真人は、それにはわずかに肩を竦めただけで、続けた。
「三条の話では、家族はとにかく頑として蔵の扉を開けようとしないらしいんだけどね」
「それにさ、その三条の妹の方も、、どうやって蔵の中に入ったのか、謎だよな。聞いた話じゃ、家族の様子からしてまず、蔵の錠がそもそも開いてたはずないからな? だろ、柚真人」
「その話、全部真に受けりゃあな」
「真に受けてるから怖がってんだろ。てか他にどう受け取るんだよ。お前に嘘つく理由が三条に無いだろ。普段話をしたこともないヤツなんだし。ううん、祟りかあ。本当なら凄いなあ」
「――凄いか?」
「凄いっていうか……まあ正直面白い」
「……相変わらずそういうとこ不謹慎だよな、お前」
「でも――確かにおかしいはおかしい……よね。なのに、いまでも蔵の中から声がするって」
飛鳥は司の反応に、そうそう、それよ、といって鼻の頭に皺をよせた。
変な顔である。けれど愛嬌がある。司は、それが可笑しくて少しだけ笑っってしまった。
「いや、まじで、すごい変だと思うだろ? だって、ぞっとするじゃん、そんな話。飲まず食わずで七日だろ? ……気色悪いよな。閉じ込めとくのもどうかしてるけど、開けるに開けられねないって感じもするじゃない、そりゃ。なんかこう……いけないものがでてきそうじゃなーい?」
「……なんですか、いけないものって」
「だからさ。怖い物」
「不定形生物?」
「それ、司ちゃんの『怖い物』?」
飛鳥が笑ったので、司は軽く唇を尖らせた。
「まあ……、それはともかく三条の家族は、そのこともあって怯えているんだそうだ。そりゃあ、ちょっとどころでなく不気味だろうさ。開かない蔵から何日たっても元気な女の子の声が聞こえるってのは」
「実は暖房機があった、とか」
身を乗り出して、飛鳥が提案した。
「いちおう真面目にそう考えても、築ウン百年の蔵にコンセントはないだろうし、勿論灯油も話からしてそんな封印蔵にはしまわないだろう。使い様がないんじゃないか? だいたい、それ以前に食事の問題がある」
「食べ物というと、味噌と醤油――とか?」
引き継ぐ優麻はやや面白そうだった。
「それ、蔵にありそうなものってこと?」
「ええ。蔵というからには、もしかしたらそれぐらいあるのではないかと思いまして」
「だからそういう物をしまう蔵じゃないって。なにしろ有り難い神様が棲んでる蔵だからな。ちなみに二階建てで、蔵自体の敷地面積は十畳ほど。扉の前には毎朝水と米なんかが備えられてたみたいだよ。それにさっき飛鳥も言ったけど――蔵が封印されていたのなら、やっぱりまず考えるべきは、三条の妹はどうやってその蔵に入った?」
柚真人は、話をしているうちに食事を終えた自分の分の食器を流しに置き、再び椅子に腰を下ろすと頬杖を突いて、それから斜めに優麻を見た。
「どうやって、だ?」
「どうって……そうですね、それは……どこかに、子供が入れるくらいの穴があるとか。古い蔵なら漆喰に穴が開いているとか有り得るでしょう」
「おっ、いいねえ、推理ぽいじゃん」
ところが、自分で疑問を投げかけておきながら、
「……推理ってほどの物でもないんだがね」
と、すでにひとり物知り顔の柚真人である。
「いっておくけど、兄貴にしかわからないような妙な理屈じゃ、納得いかないでしょ」
「そうかもね」
「もしかしたら、鍵をその妹さんがこっそり持ち出したんじゃないの? 悪戯で。小学生の、しかも中学年といったら、駄目っていわれるとかえって興味掻き立てられてしまうものでしょ。得体の知れない神様なんて、有り難がったり怖がったりしないだろうし……」
「ああ、鍵はね。三条の祖父さんが保管しているらしいんだけどさ。祖父さんの言うことには鍵が持ち出された形跡はなし。蔵には、穴もない。出入りできるのは、正面の扉だけ。だから、もし錠前を開けたとて正面から入ったとしても、それは、鍵を使用せずにやったことになるな。……小学三年生の、女の子が」
「それじゃあ、やっぱりどうやって中に入ったかがそもそもわからないってとこに戻っちゃうってこと?」
「そう。だから三条も混乱して、次第に怖くなってきちゃったってわけ」
一瞬の沈黙があった。
「じゃあ……やっぱり、その手の話なってことになるの? 柚真兄?」
「司の言う、『おれにしかわからない妙な理屈』ってやつ?」
「……じゃ、ないでしょうね?」
「さあね。どうだろう」
「……まったく。そういう話なら、あたしは遠慮しておくから、あたしにわからないところでやって欲しいんだけどなあ」
兄を、向かいの席から睨め上げる。
「明日の放課後、三条にまた会うんだろ? ……じゃあ、本当にあるのか、その祟りってのは?」
飛鳥が柚真人に投げた言葉に、ふむ、とだけ、弁護士が呼応した。
それから冷めた茶を、啜ると、一同をくるりと見渡して――弁護士は穏やかに微笑んだ。
といっても、それはいつものように表面上はひどく穏やかに見える微笑でしかないのだが。
「それにしても、なにもかも唐突ですよね。今まで何もなかったのに、突然祟りというのは。……いいですか? 気をつけて下さい。結果と原因が逆転しています、そのお家の方々の話は。祟りとはいいますが、では今の不可思議な現象こそが祟りなんでしょうか? だとすると原因は何です? それとも今の現象が原因となりうると言うのでしょうか。とすれば、すでに蔵に人の手が触れている以上、祟りは起るでしょう。不可避に。では一体、彼等は何を恐れて蔵に触れるなと言うのでしょう? いま、現在も。本来なら、妹さんが蔵の中に立ち入ってしまったことで祟りによる封印は破られてしまったのではないのですか? それなのにいまだ、蔵に触れてはならない? それは、矛盾です」
「ねえ、柚真人君?」
柚真人は答えず――ふっと笑った。
☆
その日。
皇家の玄関で靴を履き終えた優麻は、彼を見送るためたたずんでいた柚真人をふいに振り返った。
いつもの、おっとりとした笑顔で。
「君には、もう結論が見えているんでしょう?」
対する少年は、それを聞くと少し顎を反らして微笑んだ。
応接間の方からは、飛鳥が何やら騒いでいる声が聞こえる。時計は午後十時を回ったが、彼はまだ居座るつもりのようだ。
「なあ優麻。生きている子供を、七日も蔵の中に閉じ込めて置いたら、普通はやっぱり死ぬだろう?」
「……普通は……こんな季節ですから。子供一晩で凍えてしまいます。それは先刻も話題にのぼったと思いますが?」
しかし三条の家においては事情が違う。だから、家族は蔵の扉を開けられない。
蔵の中から声がするからだ。それは、蔵の中で少女が生きている証しに他ならない。
――出たくない。
――扉を開けないで。
明りも点らない、冷たく暗い、黴びた空気の澱む蔵で、何故少女はそれを望むのか。
何故少女は生きているのか。
否――。
優麻は、不意に柚真人の言外の示唆に、気づいた。
「え? ――柚真人君?」
柚真人は、その恐ろしく美しいかんばせに、仄かな笑みを浮かべて頷く。
その様は、白装束を纏っていなくとも、やはりどこか神さびて見える。
この少年は、巫なのだ。
「事実はごく簡単さ。現実には……現実に起こりうることしか起こらない。そうじゃないか?」
「そう、なんですか? ですが……それでは……」
すっ――と柚真人が片手を上げて、優麻の言葉の先を制した。
「優麻の目に映るのが、現実。おれの目にうつるのは、真実。ただ、それだけの違いさ」
この少年は、――皇神社の少年神主は、その、見えないものを見る瞳で、何を『霊視た』と云うのだろう。
「ですが……」
「このことは近いうちにおって連絡するよ。たぶん……仕事を増やすと思う、優麻」
柚真人は、優麻の背中にそんな言葉を投げてよこした。
少年がその不可思議なものを見るという瞳に、一体何をうつし、いかなる真実を見たというのか――優麻にはわからなかった。
否、それが物理的に瞳に像を結ぶ物なのか、それとも彼の心が見るのか、それさえ判然としているわけではない。
それはいつものことだ。
けれど、彼の言いたいことは、わかった。
玄関を出て、皇家の庭を横切り、神社の境内を歩く。先日降った雪が、まだ溶けきれず氷の山になって固まっていた。夜の中に浮き上がっている白い色が、いっそう寒さを感じさせる。
そう、年明け二度目の雪だ。……この間降ったのは、たしか一月……二日か三日か。
鳥居をくぐると、道路に出た。
――雪の日だってあった。
蔵に棲むという、家の守り神の、祟りに怯えて幼い娘を放置する。
そんなことがあるのだろうか。
生贄でもあるまいに、家の娘を
犠牲にしてまで守らなくてはならない……何がある? そんな倫理がこの御時世に通用するのか?
かの秀麗な少年神主の言うことが、本当ならば。
確かに、こんな寒さでは、小さな子供は凍えてしまう。
一晩ともちはしないであろう。
それは、現実。
だが。
それでは真実と現実にいかなる食い違いがあるというのか。
――食い違い――錯誤か?
優麻は、知らず微笑んでいる。
錯誤。
現実と真実の錯誤。
それは――いや、それこそが。
真実であると。
多分そうなのだろうと、優麻は思った。
4
心の底から憂鬱になれるほどに良く晴れた朝だ――。
駅から学校までの、坂道を歩きながら、三条祐一はそう思った。
青々とした冬晴れの空が、忌々しいほどに眩しい。
妹があの蔵に閉じ込められてから九日が経ったのだ。
――お前か、鍵を持ち出したのは?
祖父が、蒼白な形相でそう言ったのは、一月一日の夜。
――お前が蔵の錠を開けたのか?
その時、父も母も、文字通り幽霊でもみたかのような顔で祐一を凝視していた。
それは、子供を叱責する親のまなざしではなかったように思う。祐一の知らないよそよそしさが、そこにはあった。
家の庭の隅にあるその蔵が、開かずの蔵であることは知っていた。
――おれ……鍵がどこにあるかだって知らないんだよ? どうやってあけるんだよ。大体開くのかよ、あんな古い錠?
今思えば矛盾したことを言った。妹が、美佳があの蔵の中にいるということは、どうやってか蔵の扉が開けられたということなのだから。
――鍵、あるのかよ? だったらいますぐ、開けりゃいいじゃん。美佳、出してやれよ。
だが祖父は――強張った表情で、ぶるぶると首を振った。できないというのだ。
――父さん?
拳が白くなるほど両の手を握り締めて父はうつむいた儘だった。
――母さん!
父とも祖父とも、そして祐一とも、母は目を合わせようとしなかった。
――どこなんだよ、鍵!?
誰も、何も応えてくれなかった。
――駄目よ、祐一。
視線を遠く彷徨わせたまま、母が言った。
――蔵は、あけられないの。『クラヒメ』様が、お怒りになるわ。
――そんな馬鹿な話があるかよっ。誰かが開けたから美佳があんなとこに入っちまったんだろ。美佳……美佳をこのまま放っておくのか! 何……何考えてるんだよ!?
――駄目なのよ……。
――美佳が何したっていうんだよ! 父さん、母さん、それともじいちゃん!? 誰だよ、誰かがやったんだろ!?
けれどそれ以上は、言ったところで全くの無駄でしかなかったのだった。
両親も祖父も闇雲に『クラヒメ』とかいう伝承に怯えていて、話にならない。
ばかばかしい。
錠が開いていたなら、誰かが開けたに決まっている。そして誰かが閉めた。
妹を中に残したまま、再び錠をした。
祖父か、父か、母か。
三人のうちの誰かしか、しようがないではないか。
ただそれだけのことのはずではないか。
だが、三人はお互いを疑っていないのだ。『クラヒメ』様の仕業だと信じているのだ。 呪いだと。
祟りだと。
自分の娘が心配ではないのか――否、それよりも、祟りを恐れるるのか。
あの頑丈な土蔵錠の鍵の在処がわからない以上、妹をあそこから出してやることだって、祐一には出来はしない。
不快だった。
そして不可解だった。
――あたしは大丈夫よ、お兄ちゃん……。
それから、祐一は両親とも祖父とも口をきいていない。顔も合わせていない。
自分の親が、祖父が、まったく理解できなかったし、信じられなかった。
両親のしていることは、とても正気の沙汰ではない。警察に通報すべきなのだろうか。
――だけど何て?
監禁?
虐待?
けれど美佳が閉じ込められているのではないのだ。出てこないのだ。
何故美佳がそこにいられるのか。
何故美佳はそこに閉じ籠ることを望むのか。
どうしたらいいのか祐一にはわからない。
――皇は、どんな答えをくれる?
彼が神社の神主を勤め、生徒たちの間でちょっとした噂の的になっているのは、祐一も知っていた。心の中で彼を馬鹿にしたこともある。
いつもすました顔をしている、いけすかない奴だとも、思っていた。
成績がいい、顔がいい、ただそれだけのことで、いつも誰かの話題の中心にいるあの、男が、はっきり言って嫌いでもあった。
だけど――。
強い北風が坂道を下り吹き抜けてゆく。
人間の感情とは都合よくできているものだ。昨日、初めてあの皇柚真人に声をかけたのだが、以外と話し易かった。荒唐無稽な話を馬鹿にすることもなかったし、別に想像していたような、鼻持ちならない奴でもなかった。
――美佳……。
祐一は鞄を抱き抱えるようにしてもう一度坂の上、枯れ木立ちの向こうの空を見遣った。
目に痛いほど白い雲が、流れて行く。
ほんの刹那立ち止まって、祐一は、寒々とした蔵の中を思った。
☆
「方法はどうでもいい。とにかく、蔵の扉を開けることだ」
柚真人は、三条にそう言った。
――放課後である。
生徒の影も疎らな昼下がりの教室。三条祐一は自分の座席に座っており、柚真人はその前の座席の椅子に腰をのせ、軽く腕組みをして立っていた。
飛鳥の席は三条の右隣であるらしく、彼はそこに座っている。
「蔵の扉を、早く開けるべきだよ、三条」
飛鳥は、それを聞いてぎょっと目を瞠った。
「だってその蔵、開けたらいけないんだろ?」
すると柚真人は俯きがちに目を伏せ、それから凛としたまなざしで静かに飛鳥を流し見た。
鋭い視線に、それを受けた飛鳥がたじろぐ。
「なんだよう」
柚真人は諭すように柔らかく言った。
「そんな意味のない祟りや呪いはないよ。意味もなく封印という行為は行われない。三条の云う、『クラヒメ』っていうのはね、蔵を守るための呪文なんだ。『祟りがある』という言葉の持つ災いが、封印の呪文。本当に祟りがあるのではなくてね、そう諭すことで蔵を守っているんだ。祟りというより『祟り』という言葉を使った呪いだね」
「だけどなあ」
飛鳥が首を傾げて反駁する。
「いいんだ、橘。おれも、何となくそうなんじゃないかと思っていたから。祟りなんて、あるわけないし――」
「そうねえ。うん……」
「科学万は能? まあいいだろ、この場合はそうとも言える。ただ三条、ひとこと言わせてもらえば……祟りは実在する場合とそうでない場合があって、この場合後者だってことなんだ。ま、信じなくても別に問題ないからいいんだけどね」
穏やかに、柚真人が付言する。
「ともかく、大丈夫……三条の身には何も起きない。それよりなるべく早く、蔵を開けることだ。呪いはそれで終わる。扉を開けない限り呪いは続くよ」
「……開ければ、いいのか?」
三条は昨日にもまして不安げに訊いた。
「そうだよ。あ、三条。お前――妹はひとりだよな? 二人……じゃ、ないな?」
「? そうだけど……」
三条は、怪訝そう答える。柚真人は、それを聞いて小さく頷いた。
「妹を救いたいならそうするべきだよ」
冷たい声だ、と飛鳥は思った。それは、覚悟をうながす声。
柚真人は、自分の外面というやつを可能な限り利用する。だから言葉も口調も優しいし、いつだって唇は微笑んでいる。けれどその粉飾の下には冷たい真実が潜む。真っ直ぐ見つめ返せば真実を宿す瞳は万年氷の青より冷たい。
飛鳥は、それを知っている。
「柚真人、あのさ――」
ちくりと嫌な感じがしたのは気のせいではあるまい。
「できれば、そうして欲しい」
「ああ。……わかった」
飛鳥の言葉は、柚真人に遮られるようにして、塞がれてしまう。
「でも、鍵が――」
「錠の?」
「ああ。どこにあるかわからないんだ。……どうしようかな?」
「三条のお祖父さんはそういう大切な物をどこに?」
「さあ……」
「まあ、箪笥の隅とか、仏壇の引き出しとか……そういうとこかな。探してみればいい。ただ……――三条」
少年の声色が、微かに変わる。
「蔵は封印されたままでも存在する。蔵の扉を開けないことも、選択できる。それでもいいよな? 過去への封印は、それなりの故あって施されたもの。意味のない封印など、存在しない。それでも妹を救いたいなら、蔵を開けることだけど」
「……そうする。ありがとう皇。その……変なこと相談して、悪かったな」
違う――その時飛鳥は気づいた。
柚真人は、『助ける』とはいっていない。『救う』と、彼はいったのだ。
それは、柚真人が――皇神社の神主たる柚真人が、生きた人間に向ける言葉ではない。
そう、飛鳥が柚真人に感じる冷たさは――柚真人が見ているのが、柚真人が動くのが、現在の生命のためではないからだ。なぜなら彼は――誰あろう皇神社の神主。
一族の巫。
死者の導き手――。
黄泉と現世の境に立つ者。
――じゃあ――柚真人は――。
待て、と飛鳥は言おうとした。
しかし。
身を竦ませる一瞥が、それを阻んだ。干渉を許さない――それは柚真人の意思表示だ。だから、飛鳥はすんでのところで言葉を飲み下だすしかなかった。
これは――柚真人の『仕事』だ。
三条を残して教室を出た後、飛鳥は柚真人の肩をつかんだ。
「おい、柚真人」
「いいんだよ。こうするのが」
肩越しに振り向いた柚真人は言った。
「いいって――」
立ち止まると、柚真人はさっさと廊下を歩いていってしまう。飛鳥は早足になって、再び柚真人を追いかけた。
「でもよ。お前――」
「別に……後先考えてないわけじゃあない。おれは三条のために、最善の方法を示唆しただけだ」
ため息混じりに柚真人はいい、くるりと身を翻して飛鳥を――見た。
「それに、三条家の呪いは、どのみちもう長くはもたない。あいつの手で早く壊すのがいいんだ」
「……柚真人……」
「――飛鳥。おれの言いたいことの意味が分かるなら、口は出すな」
「……!」
この豹変ぶりときたらない。
「はあいはい。御当主様」
今のこの柚真人の表情を、三条が見たら一体何と言うことだろう。
こういうときの皇柚真人は、恐ろしい表情をする。感情をすっかり消し去り、逆らうなと云う。端整な顔の造作さえも武器になる。
こいつのこの特別仕様の姿形は他人を惹きつけ魅了するために備わってるんじゃあない。威迫するためにこそある才能だ。
軽く両手をあげたポーズで降参を示すと、飛鳥は言及を止めた。
飛鳥には――柚真人を止めることはできなかった。
彼は、同い年の従兄弟である前に、幼馴染みである前に、皇一族の現当主なのだ。
皇柚真人が、その立場から物を言うとき、橘飛鳥は、彼に逆らうことを許されない。
それに――この人間離れした気色悪い美貌をもつ幼馴染みの、鋭い視線が、飛鳥は怖かったのである。
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