第5話 ミノタウロス、強ぇぇぇぇ!!
「うぉぉおおおお?! あっぶね!」
俺と目の合ったミノタウロスが、俺めがけて斧を振り下ろした。
お互い部屋の端と端。到底届かないと思った次の瞬間、嫌な予感がして思いっきり横に飛んだら俺がいた場所を斬撃が飛んできた。
斬撃は衝撃波となりそのまま広間の出口を抉りながら奥まで飛んでいく。ルシアちゃんに当たりませんように。
「今だ!」
俺に気を取られたミノタウロスにおっちゃん達が一斉に攻撃する。
あの状況で撤退ではなく攻撃を選ぶってことは、相当腕に自信があるのか――或いはこの奥に何らかの目的があって来たか。
もっとも、俺もここで逃げるわけにはいかねぇ。
何故なら。
ミノタウロスの巨体の後ろにあるからだ。階上へ続く階段が。
「我が劫火に焼かれよ」
ミノタウロスがおっちゃん達に気を取られて後ろを向いた隙にブレスを吐く。狙いはおっちゃん達を巻き込まないようミノタウロスの後頭部。
「ブモォォォォォォォォォォォォ!」
ミノタウロスが斧を取り落として火達磨となった頭部を抱える。
が、そんな程度で俺の劫火が消えるわけはなく。
音を立てて焦げていく頭部。ドロリ、と目玉が溶け落ちる。うぇ、グロイ。
熱さに悶えるミノタウロスに巻き込まれないようおっちゃん達が壁際に下がり、弓矢のおっちゃんだけが果敢に射かけている。ちょ、俺に当てないでね。
そうこうしているうちに弓のおっちゃんの後ろで詠唱をしていたらしいおっちゃんの魔法が炸裂する。
巨大なミノタウロスの足が吹っ飛んでいった。そうか、こんな高火力の攻撃手段があるから逃げなかったのか。
ミノタウロスが倒れ、頭部は鎮火した。が、まだ生きている。
視力を奪われ立つこともできないのに、荒い鼻息で片腕だけで身体を支え、おっちゃん達を圧し潰そうともう片方の腕を振り回す。
よし、もういっちょ。
「我が劫火に焼かれよ」
おっちゃん達との間に入り、全力のブレスをお見舞いする。
「ブモォォォォォォォォォォ!!!!」
断末魔の叫びをあげ転がり回る火達磨。
美味しそう、とか思ったのは内緒。だって焼肉の匂いが立ち込めてんだもん。
『――≪リージェ≫がミノタウロスを倒しました。経験値6750を入手しました――』
『――≪リージェ≫のレベルが15になりました――』
ミノタウロス、強ぇぇぇぇ!!
メロンですら経験値1にしかならなかったのに、一気に稼いだ。それだけ実力差があったって事だろう。
俺が勝てたのは、おっちゃん達が逃げずに戦ってくれたからだ。あとは運が良かっただけ。もう一回俺だけで戦えって言われたら無理。
ミノタウロスの死骸が光の粒子となって消えていく。角と巨大な宝石のような丸い石、それと巨大な斧が消えずに残り、あと、なぜか肉屋で見かけるような笹っぽい葉で包まれた生肉があった。ドロップアイテムってやつか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【上質のサーロインロース】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
よし、食肉ゲット。分配? 何それ美味しいの?
未だ俺に警戒の眼と武器を向けるおっちゃん達を完全無視して、いそいそと牛肉を風呂敷包みの中に回収。
「リージェ様ぁ?」
「おお、ちょうどいいところに! 怪我人を手当してやってくれ」
俺を探すルシアちゃんの声が聞こえたので大声で呼ぶ。仲間を呼ばれると思ったのか剣士が斬りかかってきたのを華麗にかわす。
「リージェ様? こちらですか?」
「ルシアちゃん、見て見て! ミノタウロス倒したの! 褒めて褒めて!」
はっ?! いかんいかん、心まで赤ちゃんになってた。
ルシアちゃんに得意げにピョンピョンと飛び跳ねアピールしていた自分に気づき急に恥ずかしくなる。暗黒破壊神たる者、高貴でなければならぬのだ。
おっちゃん達はポカンとした顔で俺を見ていた。
そりゃ、そうだろうな。風呂敷包みを背負って両手を振り回しながらピョンピョン飛び跳ねるドラゴンとかシュールすぎる。
「まぁ、大変! 大丈夫ですか?」
ルシアちゃんがおっちゃん達の怪我に気付き、慌てて回復魔法をかける。
既に事切れていたおっちゃんは助けようがなく、全員が回復する頃には遺体が消えて装備品だけが残っていた。
ルシアちゃんが一人一人に回復魔法をかけている間、暇していた俺は見よう見真似でその詠唱を真似してみる。
が、当然ルシアちゃんのように手が光るわけでもなく、何も起きはしなかった。まぁ、そんな簡単に誰でも回復魔法が使えたら苦労しないわな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます