第4話 やべぇ、やっちまった。
結局、ルシアちゃんごと華麗に飛ぶという案は不可能であった。
俺もまだまだだな。もっと筋力をつけねば。
ルシアちゃんも、数歩上がっただけで滑り落ちるというのを繰り返して今は休んでいる。
「リージェ様、これを上で固定していただけませんか?」
ルシアちゃんを置いてはいけないし、さてどうするかと途方に暮れかけた時ルシアちゃんが荷物からロープを取り出した。
なるほど、ルシアちゃん頭いいなぁ。
先行して上まで飛び、安全を確認。生き物の気配はない。
登り切った先は、ルシアちゃんの言っていた通り階段になっていた。
石造り、というよりはコンクリートと言われた方がしっくりくるほど綺麗な断面で、俺は懐かしの学校の階段を思い浮かべる。
「ロープを結べそうなところは……っと」
む、何やら怪しげな像があるな。人に毛布被せて固めたみたいな、不鮮明なのになんとなく人に見える不気味なやつ。
……これでいっか。他にないし。
一応変な仕掛けがないか確認。
ツンツンしても、叩いてみても何も起きなかった。
「って、この手でどうやって結べと?!」
今の俺は猫の手のような形状で、一応物を掴むことはできるが、器用なことはできそうもない。
「ぐぅ……しかし、ルシアちゃんのためだ……」
頑張れ、俺。
人物の腰に見える少しくびれた辺りにロープを巻き付ける。
3周も巻けば大丈夫だろ。
何度も失敗してはやり直し、今にも解けてしまいそうな結び目だがようやく結ぶ。
ルシアちゃんに合図を送ると、るしあちゃんはそのロープに掴まり、何度も滑りながら登ってくる。
俺も、少しでもルシアちゃんが上りやすいようその背中の荷物を掴んでパタパタと飛ぶ。
「はぁ、はぁ……ありがとう……ございます」
数十分後、上に辿り着いた時には二人揃って息も絶え絶えといった様子だった。
顔を真っ赤にしたルシアちゃん。美少女のはぁはぁいただきましたー!
……こほん。うん、少し休憩しようか。
ルシアちゃんを抱えて飛び続けようとしたのが鍛錬になったのか、ステータスが少し上がっていた。
筋力なんて項目は無いが、こうして数値として明確に見えると鍛錬もやる気になるな。
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【ステータス】
名前 : リージェ
レベル : 14
EXP : 249/3605
HP : 485/485
MP : 85/85
Atk : 504
Def : 115
スキル : タリ―語
我が劫火に焼かれよLv.3
血飛沫と共に踊れ Lv.5
全てを見通す神の眼 Lv.1
称号 : 中二病(笑)
害虫キラー
農家
ドM
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因みに、ルシアちゃんのステータスは……。
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【ステータス】
名前 : ルシア
レベル : 20
ステータス詳細の取得に失敗しました
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まだダメか。でも、これだけハードな行軍をしたんだ。
きっとルシアちゃんのステータスも上がっているだろう。
短い休憩で息を整えたルシアちゃんが立ち上がる。
「……もう大丈夫ですわ。出発しましょう」
階段を下りきった先は、人工的なきっちりした廊下になっていた。
両壁の天井近くには等間隔に灯りが灯っている。
その造りはどこまでも現代風で、異世界にいることを忘れてしまいそうだ。つか、この灯り、どう見ても電気だよな……?
「な、何ですの、この灯り? 燭台でもないし、魔法でもないようですが……」
電球って言うんだよ、と言ったところで伝わらないんだろうな。
そもそも電気の説明ができない。いや、それ以前に言葉通じなかった。
因みに、スキルレベル上げを兼ねて鑑定してみたら「ランプ」としかでなかった。
「この階層は迷宮型なのか」
完全に迷路の様相で、いくつもの小部屋や通路が分かれている。
「リージェ様、極力戦闘は避けていきましょう」
小部屋を覗き込んでいると、ふいにルシアちゃんが言う。
「強くなることも目標の一つでありますが、ダンジョンから出ることが最優先ですわ」
ルシアちゃんの話では、四十階から下は最深層と呼ばれ、出てくるモンスターも上位種ばかりなのだと。
上位種は例えレベル1であっても十人編成以上で挑むのが普通なんだとか。
うん、四十階層までは逃げ回るしかないってことね。
「ぎゃああああああああああ!!」
当面の方針が気まった所で、蛙を潰したかのような汚い男の悲鳴が聞こえた。
「あっ!? リージェ様?!」
咄嗟に飛び出してしまった。
悲鳴が聞こえてきたのはまだずっと先だ。
ルシアちゃんには聞こえていなかったのか、俺が急に飛び去ったことに対して驚き探すような声を出している。
何がいるかわからないしそのままゆっくり来てくれ。
広い空間に出た瞬間視界に飛び込んできたのは、とてつもなく大きなミノタウロスだ。
両刃の禍々しい斧を振り回す先には、六人の男。
一人は両断されており、確かめるまでもなく既に事切れていた。
ミノタウロスの斧を身長ほどもある大楯で受け止める大男に、その後ろで詠唱をしている男、無謀にも突貫する剣士が二人、壁際から弓を構える男。いずれも満身創痍といった感じで劣勢なのは明らかだ。
「冒険者来たー!!」
「!! ドラゴン?!」
見るからに冒険者って風貌の男達を見て興奮して叫んだら、男達もミノタウロスも一斉に俺に気付いて振り向いた。
ミノタウロスと目が合う。
やべぇ、やっちまった。
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