第2話 俺がダンジョンボスってこと?
教会の回りはルシアちゃんが草むしりをしていたのだろう。
綺麗に整地されており、下草の生える場所が明確に境界線となっていた。
その下草部分に足を踏み出した瞬間、一気に空気が重苦しくなる。
「結界を抜けましたわ。ここから先は、正真正銘モンスターが跋扈跳梁するダンジョンです。気を引き締めて行きましょう」
「おう」
緊張した面持ちでルシアちゃんが言う。
生き物の気配は無い。静かすぎる。聞こえるのはガサガサと草を踏みしめる音とルシアちゃんの息遣いだけである。
教会正面から延びるを消えかけた獣道を進み、森に入る。
いくらも歩かない内に、鬱蒼とした風景になった。
日の光は直射では入らないとは言え、視界に困るほどではない。
自然いっぱいだし、太陽あるし、天井にぶつかってなければここがダンジョンの中だと忘れてしまいそうな景色だ。
「この階層は、一般に森林フィールドと呼ばれるものですわ。最下層でありながら空が見れるのはそのためですわね」
「最下層?」
薄闇の中、いつモンスターが飛び出してくるかわからない。
そんな緊張感と恐怖を紛らわそうとするかの様にルシアちゃんが説明をしてくれる。
しかし、まさかそんな奥地だとは思わなかった。
仮にも聖女候補の修行場だろ? もっと入口付近だって思うじゃん?
「ここは、我が国に存在するダンジョンの中でも最も深い、五十階層からなるダンジョン。その最下層です。わたくし達は、これから地上を目指し登って行かねばなりません」
ん? ここが最下層なら、ゲームみたくダンジョンボスを倒したら地上に転移できるんじゃないの?
あれ? でもその場合、
そりゃ困るな。よし、地道に向かおう。
「洗礼の儀で聖女見習いの称号を授かった者は、護衛や先代聖女に連れられてここで聖女と認められるまで女神に仕える決まりなのですわ」
モンスターにいつ襲われるかわからない状況だが、緊張をほぐしたいのかルシアちゃんは話し続ける。
あ、ルシアちゃんは外から来たのね。
ん? じゃあ、何で一人でいたの? 護衛の人は?
「暗黒破壊神の復活を知った先代は、勇者もどこかにいるはず、と探しに出てそれで……」
先代聖女である
先代聖竜の死も院長から聞いたと。……それで一人きりだったわけか。
思い出してしまったのか涙ぐむルシアちゃんに何と声をかけたらよいのか(いや、そもそも言葉は通じんのだが)悩んでいるうちに、何か膜のような物を突き抜けた。
ぞわっとした感覚が体内を駆け抜ける。
次の瞬間、目の前の景色が一変した。
真っ暗な、とてつもなく広い空間だ。冷たい空気が満たしている。
驚いて振り返ると、ぽっかりと空いた穴から先ほどまでいた森林が見えた。まるで一枚の絵画のようだ。
薄暗い鬱蒼とした森でも、今いる空間からすればかなり明るく見える。
出てきた森林フィールドの僅かな明りを頼りに、カチ、とルシアちゃんがランタンに火を入れ周囲が見えるようになった。
上下から伸びる自然にできた石の塔。鍾乳洞、と言う言葉がここを表すのに近いのではないだろうか。
とてつもなく広く見えるが、先ほどまでいた森林と同じように、もしかしたら幻覚で広く見せているだけかもしれない。
ランタンの小さな明りでは全容を把握することすらできないような広い空間を、空気の流れを頼りに手探りで進む。
光を反射してキラキラと輝く幻想的な光景に、ここがモンスターの跋扈するダンジョンの中だということも忘れて見惚れてしまう。
ひたすらキョロキョロとしてはよそ見して鍾乳石にぶつかるのを繰り返す俺を見て、ルシアちゃんが笑っていた。
「!! 下がれ!」
出発してからここまで一度もモンスターに遭遇していないということもあり、すっかり気を抜いてしまった頃、それは現れた。
ランタンに照らされた先、その中央に巨大な何かがいたのだ。
モンスターか?!
俺は咄嗟にルシアちゃんを庇うように前に立つ。
「先代様……」
ルシアちゃんがランタンを取り落とし、ガチャンッと割れる音と共に火が消えた。再び闇に包まれる。
今、先代って言った? じゃあ、これがあの生きる災害を生で食ってたって言う悪食の聖竜様?!
「確か、死んだって話だったよな?」
確かに、暗闇の中目と耳に神経を集中させてみるが、動く気配は感じられない。
俺は天井に向かってブレスを吐く。
その明りを頼りにルシアちゃんがもう一度ランタンに火を灯した。
割れたのはカバーの部分だけのようだ。
恐る恐る近寄ってみるが反応がない。
やはり死んでいるようだ。
ゲームやラノベじゃ、ダンジョン内で死んだやつはダンジョンに吸収されるのが常なんだが、この世界は違うのだろうか? 変な所だけ現実的なんだよな。
「これは……聖結界?」
死骸を見て呆然としていたルシアちゃんが、何かに気付いたように呟いた。そして、そっと死骸に触れ、涙を溢す。
「やはり……ご自身が結界の要となり、神殿にモンスターが近寄れないようにしてくれていたのですね……」
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