第2章 俺様、ダンジョンから出る
第1話 いよいよ、暗黒破壊神たる俺様の伝説が始まるのだな!
さて、これでもうここに籠っている必要はないわけだな。
レベルも上がりにくくなったし、とっとと外の世界に繰り出しますか!
「いよいよ、暗黒破壊神たる俺様の伝説が始まるのだな! は~っはっはっはっはっは!!」
「あっ! リージェ様、お待ちください!」
偉大なる一歩を踏み出そうと(実際は飛んでいたのだが)していた俺様は、ルシアちゃんに尻尾を掴まれて墜ちる。
「何をするか下僕!」
「あぁっ! リージェ様、申し訳ございませんっ」
俺の言葉が通じている訳ではない。
が、俺の恨みがましい視線を受けてルシアちゃんが慌てて弁明を始める。
「ですが、じきに夜になりますわ。夜になればモンスターが活発になりますの。何の準備もなく出るのはいくらリージェ様でも死にに行くようなものですわ」
しっかり準備をして明日の早朝に出立しましょう、と。
ふむ。確かにそうだな。
レベルが上がったとは言え、俺はまだ生まれて二ヶ月。ステータスもまだ低い。
ルシアちゃんにだって準備は必要だろう。
まぁ、俺にできることなんて出発までたっぷり寝て身体を休めることくらいだけどな。
さて、気を取り直して再出発の朝である!
「今度こそ本当に、俺様の伝説が始まるのだ!」
「あ、リージェ様! ちょっと待ってください!」
ガクッ。
またかい。
「リージェ様、最後に一つ、頼まれてほしいんですの。ザンナ・メロンをブレスで焼き尽くしていただけますか?」
「へ?」
あのメロンはここでの唯一の貴重な食糧であろうに、どういうことだ?
首を傾げて見せると、ルシアちゃんがクスッと笑う。可愛いなぁ。
「リージェ様、わたくし達は今日、旅立ちますの」
「当然であろう」
「ザンナ・メロンを刈る者がいなくなりますわ。ここをモンスターハウスにするわけにはいきませんの」
あ! そういうことか。
熟すとモンスター化する
俺達がいなくなったら、そりゃ増え放題のモンスターだらけになるわな。
獲物がいなくなりゃ動き回るようになるかもしれないし。末恐ろしい子っ!
まぁとにかく。そういうことなら任せておけ。
「我が劫火に焼かれよ」
ゴウッ
念のため教会の壁を背にして、中空から森側の方面に炎が行くよう地面に向けてブレスを吐く。地中の根まで焼き尽くすイメージで。
Lv.3なだけあって、まさしく劫火という勢いで延焼し、あっと言う間に畑を黒墨に変えてしまった。
『――≪リージェ≫がザンナ・メロンを倒しました。経験値23を獲得しました――』
チッ、レベルアップするには至らなかったか。
熟したやつが案外少なかったらしい。
「さすがはリージェ様ですわ。わたくしも、これで……よし」
延焼した炎が完全に鎮火するのを確認してからルシアちゃんの所へ舞い戻ると、ルシアちゃんは教会を囲うように白い石を置いていた。
「主よ、御力をお貸しください。何者をも寄せ付けぬ強固な守りの祝福を、ここに――聖結界展開」
「おおっ!?」
ルシアちゃんが手を胸の前で組み祈りを捧げると、教会がクリスタルのようなもので覆われた。俺がゴンゴン叩いてみてもびくともしない。
「念のため、わたくしのスキル≪聖結界≫の力を込めた石で囲いましたの。数を用意するのに苦労しましたけれど」
そりゃそうだろう。石の間隔は5㎝もない。
百や二百じゃきかないぞこれ。
「これはわたくしと同じ聖結界のスキルを持つ者にしか解けませんから、教会が荒らされる心配もありませんね」
こんなかっちり固めちゃったんじゃ、ダンジョンに迷い込んだ人間が逃げ込むセーフティーゾーンとして使えないんじゃ……と思ったら、ここを訪れるのは聖女候補くらいらしいから、これで良いのだそうだ。
ダンジョンなのに、経験値稼ぎにモンスターと戦いに来るような猛者はいないのか。
これは世界征服が簡単そうだ。
メロンの始末OK、火の始末OK、戸締りOK。
よし、今度こそ本当の本当に出発!
「さぁ、大変お待たせいたしましたわ。出発致しましょう! リージェ様、疲れたら遠慮なくわたくしの肩に乗ってくださいね!」
うん、ルシアちゃんも気合入っているね。
そんなルシアちゃんの服装は、白い長袖長ズボンに青い外套。頑丈そうな宝玉のついたメイスとして知られる打撃もできる錫杖を持ち、ルシアちゃんが二人入れそうなくらい大きなカバンを背負っている。
つまり、色気ゼロ。がっかりだよ!
ラノベやソシャゲでよく見るような、エロ可愛い服装を期待していたのに!
そりゃあ、モンスターと戦闘になるかもしれない森歩きでは実に理に適った服装だけどさ。
因みに、俺も収穫したばかりのメロンを風呂敷にたっぷり詰め込んで背負っている。自分の食糧を自分で持つのは当然であろう。
重いと言えば重いが、持てないほどじゃない。
自分よりも大きなものを持てるって、俺凄くない?
風呂敷が宙に浮いてるとか言うなよ?
「よし、出発だ!」
俺はルシアちゃんと共に、これから訪れるであろう大冒険に胸を躍らせながら、森の中へと足を踏み入れた。
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