第2話 箱に入れられた、藤の花

「上を見て、『藤の花』よ」


立ち上がって大きな瞳で見上げる彼女は

何を感じていたんだろう?


聞かなかった

聞けなかった


ちょっぴり知りたかったけれど

だけど、あんまりずっと見てるから

ママは何も言えなかったの


語彙が少ない時期だったから

手で示したり

顔の表情が彼女の言葉となる


彼女は、ただ大きな瞳で見ていた・・・



彼女の汗の匂い

額の髪を整えるとニッコリ微笑んで

ミルクのことを「ブー」と呼んでた

「ブーくだちゃい」って

遊んでのどが渇くと飲みたがって


抱いて持ってきた

お気に入りのヌイグルミは

ベビーカーにのせてある

彼女の大事なお友達


友達にミルク瓶を近づけて

飲ませる真似をしていた

そうやって一休みをすると

今度は、滑り台に


階段をのぼってサッと滑りたいのに

いつも怖がって

ママが下で手を広げていたのね

恐る恐る腰をおろして滑ってきた


受け止めて抱きしめようとすると

喜んでママにしがみついてくる

その時のママの悦びってわかるかしら?

わからなくてもいいわ

無償のものなんだから



想い出は・・・

セピア色になるもの

モノクロームになるもの


この時の想い出はカラー

まるで動画のように

「ママ」と呼ぶ声が

彼女の着ていた服

彼女の笑顔

彼女の真剣な顔

大事なお友達

紫色の藤の花

色が脳裏に焼きついてるの


心の中に

「これはセピア」

「これはカラー」

そんな風に閉まっておく箱があるのかしら

箱は不思議なもので時々開けられる

自分で開けようとしなくてもね



私は・・・あの公園がとても好きだった

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公園 青砥 瞳 @teresita

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