第19話

 僕は将来ヒモになりたい。そこに揺らぎはない。しかしその為には幼女たちに尊敬されるような存在にならなければならないと同時にやらなければならないことがあるのだ。


 幼女に尊敬されていれば将来ヒモになれるのか?ヒモにはなれるだろう。しかし立派なヒモになるにはそれだけでは足りないのだ。

 

 ヒモというのは世間一般的にイメージがあまり良くない。それこそ石を投げられるレベルだ。

 聞き込み調査をしたところ、こちらの世界でも何の理由もなく、何もせずに扶養されるばかりで何のお返しもしない男は好ましく思われないらしい。

 そこで必要となるのが外堀を埋める作業だ。


「矢を集めてきたよマルコ君。」


 早朝から、僕はマルコ君に集めてきた矢を手渡した。

 マルコ君は10代前半ほどの男の子だ。

 この間行った薬屋さんの老婆のお孫さんらしい。

今は60メートルくらい離れた場所に生えている太い木に向かって矢を射っていた。

 僕は放たれた矢を回収する役目を貰っている。


「あんがと。やっぱ1人雑用やってくれると効率が違うや。」


「そう言ってもらうと僕も嬉しいや。」


 なぜ僕がこんなパシリのようなことをしているのか?もちろんこれには理由がある。

 先程説明したように、ヒモというのは世間体が悪い。

 だから例え相手が男だろうと、コツコツと好感度を稼ぐことで、将来ヒモになっても「あの人ならしょうがない。」と肯定的に思わせるための下地作りをしているのだ。


「俺はいつか絶対一人前になって世界を弓一本で渡り歩くんだ!その時はお前を荷物待ちとして連れてってやってもいいぞ。」


 マルコ君は弓を使う英雄?の話か何かに影響を受けて世界を冒険するのが夢らしい。冒険はいいぞ。僕も幼女の素晴らしさに気付く前は冒険家になりたい時期があったよ。


「んー。僕には荷が重すぎるかな。」


「んだよー。つまんねーな。」


さて。マルコ君の言葉は荷物持ちと荷が重いを掛けた僕の洒落に対してなのか、僕の返答に対してなのかは分からないし、謎のままにしておくことにした。

 

 いや、前者だったら死にたくなるし。


「そういえばローガンさんも弓を使ってたけど、魔法なんてものがあるのに武器なんて使ったりするんだい?」


「はぁ?そりゃ魔法だって万能じゃないし、無限に使えるわけでもないんだからさ。それに武器を強化する魔法だってあるんだよ。ちょっと見てな。」


 マルコ君はそう言って弓を木の方に構えると、弓や矢が光を帯びていく。そして、矢が放たれて、木が爆散した。


「な?こんな感じ。」


マルコ君はイケメンスマイルでニカっと笑った。いや笑い事の威力じゃないだろ。僕を50人くらい殺してもお釣りがくるくらいの威力じゃないか。

 これなら彼が世界を回る日は近いんじゃないのか?それとも彼も敵わないような化け物がこの世界にはわんさか居るとでも言うのか。


「凄いね。これでもまだ一人前じゃないの。」


「ははっ!俺なんてまだまだだよ。ローガンさんなんてもっと凄いんだから。この前なんてミノタウロスを一発で仕留めたんだぜ。他にもローガンさんは」


 そこからマルコ君のローガンさん凄い話が始まった。

 あらゆる化け物を退治するローガンさんの話をされるのは、当の本人に矢を射られそうになった僕にとっては冗談じゃないものだった。

 森の中でローガンさんに矢を射られていたら、僕は先ほどの木のように爆散して、アミティちゃんたちに汚い真っ赤な雨を降らせることになっていたかもしれない。

 改めて魔法の恐ろしさというやつを実感した。

 

「おーい!ちゃんと聞いてるか?今良いところ何だからな!バジリスクとと闘った時には目を合わせることができないから、一切相手の方を見ずに矢を放って……。」


 聞きたくもないローガンさんの武勇伝をこれでもかと聴かされた頃にはすっかりお昼前になっていた。

 この村では鐘のようなものを鳴らすことで時間を知らせるらしい。

 朝、昼前、昼、昼の終わり、夕方のそれぞれに鳴らされるらしい。

 ゴゥーンゴゥーンと心地よい音が心臓に響く。


 アーラさんの話によると、時計のような魔道具も存在するらしいがこの村では使ってないらしい。

 その事を話しているアーラさんは顔に嫌悪感が出ていたので、もしかしたら彼女はハイテクっぽいものが嫌いなのかもしれない。


「もうこんな時間か。じゃあ俺飯だから。今度また手伝ってくれよな。じゃあな!」


 マルコ君はアミティちゃんには劣るものの、僕が到底敵わないようなスピードで視界から消え去った。

 正直弓の鍛錬の時間よりローガンさんの武勇伝を聴かされた時間の方が長かったと思う。

 そして疲労感も後者の方が上だ。

 

 昼の鐘が鳴ったので僕も孤児院に行かなければならない。昼ごはんを一緒に食べさせて貰ってるのだ。

 そのかわりと言ってはなんだけど、食事の仕込みなどを手伝う手筈になっている。


 料理でも魔法を使う場面がないでもないが、基本的には手作業らしいとのことなので、僕も役に立てるのだ。

 僕は遅れないように小走りして孤児院に帰っていった。

  

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