第17話

 日が暮れきった僕なんはアミティちゃんとお絵かきに勤しんでいた。僕のような凡庸な人間は紙をもらって書いているが、アミティちゃんくらいの天才は空中に書けるらしい。


 「お嬢ちゃんは何を書いてるのかな。」


「えっとねー。秘密!完成したら見せ合いっこしよ。」


「それは楽しみだなぁ。」


ちなみに僕が描いてるのはフラスビーを咥えたアミティちゃんである。

 幼女の姿を記憶を脳内シアターに留めておくため、僕は瞬間記憶能力なるものを習得している。なのでそれに従って丁寧にけれど素早く描いていく。


 お絵かきが上手いと幼女に尊敬されるのだ。幼女コミュニケーションの要と言っても良いかもしれない。


「うん。上手くできた。」


完成した絵は満足できる出来である。ジャンプしてフリスビーを掴むアミティちゃんの躍動感をしっかりと描くことができたと思う。


アミティちゃんの方はどうだろうかと目を向けると、空中に描かれた絵を隠すようにしてアミティちゃんが立っていた。


「あー。今わたしの絵見ようとしたでしょ!ダメだよー。約束通り見せ合いっこね!」


手招きされるまま、紙を持ったままアミティちゃんの近くまで来た。


「じゃあセーので見せ合お!『せーの』の『の』の所でだよ?分かった?」


「分かったよ。じゃあ合図してくれるかな。」


アミティちゃんが「せーの!」と声を出すと共に横に退き、僕も紙をアミティちゃんに向けて見せた。


僕の目に飛び込んできたのは、僕だった。いやおそらく僕だろう。黒い光る線がデフォルメされた人のようなものを形だっていた。

 これだけならきっと誰だかわからなかったと思う。けれど、その人形の手の部分に薄くて丸いものがくっついていた。


それはきっとフリスビーを投げている僕だ。

僕が今日遊んだアミティちゃんを描いて、彼女もまたその時の僕のことを描いてくれた。

彼女の描いた僕が投げたフラスビーを、僕の描いた紙の中のアミティちゃんがキャッチしたように思えて、僕は嬉しくなって笑った。


「わぁこれわたし?変態さん絵うまいねえ!」


アミティちゃんが僕の絵を見てキャッキャと笑った。


「アミティちゃんも今日遊んだ時のことを描いてくれたんだね。」


「うん。だってとっても楽しかったんだもん。だからお絵描きしよーって思った時真っ先に遊んでる変態さんを描こうって思ったの。

 だから変態さんも遊んでるわたしを描いててびっくりしちゃった!でもすっごい嬉しい!」


アミティちゃんはウサギみたいにぴょんぴょんと跳ね回った。


「ちょっとアミティちゃんどこ行くの!」


 アミティちゃんは広い部屋の中を縦横無尽に跳ね回った。

 他の子が「お母さんに叱られるからダメ!」と慌てて、笑いながら跳ね回るアミティちゃんを追いかけて、僕も同じように追いかける。


 アミティちゃんは僕たちから逃げるようにしてなおも飛び跳ね続けて、いつのまにか鬼ごっこみたいになった。

慌てるように追いかけていた子供達も今は笑いながらアミティちゃんを捕まえようと走り回っている。


「ひゅー、ひゅー。」


 僕は膝をついて汗を垂らしていた。いや、子供の体力やばすぎ。子供達は今も結構なスピードで走り回っている。


 これが異世界人と現代の軟弱な若者の差だろうか。どうやら正攻法で僕がアミティちゃんを捕まえることは出来そうもない。


 僕は違う手段を用いることにした。


「うぐっ。」


僕は胸のあたりを握りしめるようにして、如何にも苦しいような振りをした。そのまま床に倒れこむ。

 

「変態さん大丈夫!?」


笑って飛び回っていたアミティちゃん慌てて僕の方へ向かって飛んできた。

飛んで火に入る幼女である。


「変態さん!変態さん!」


アミティちゃんが僕の体を揺さぶる。


「あー。やっと捕まえた。」


僕はパシっとアミティちゃんの手を掴んだ。

彼女は何が起こったのかわからないとぽけっとした様子で僕を見ている。


「ええええ!変態さんずるい!こんなの無効だよ無効。もっかい、もっかいやろ!」


事態が飲み込めたらしいアミティちゃんが再び僕を揺すってきた。今度は駄々をこねる意味で。


「ズルくても捕まえたもんは捕まえたんだよ。

それにこのまま続けるとアーラさんに雷落とされちゃうらしいからね。我慢しよう。」


「うぅん。たしかに怒られそう。」


アミティちゃんはしばらく考え込んでから、アーラさんに遊び続けてたところを見つかった時を想像したのか顔を歪ませた。


「また明日遊ぼうよ。ほら、僕ってどうせ暇だし。遊んでくれると僕も助かる。」


 何せまだこの村で役に立てることが見つかってないのでやることがない。

 だいたいのことが魔法でどうにかなってしまうというのは、皆んなにとっては便利で喜ばしいことかもしれない。


 けど、僕にとっては喜べばいいやら悲しめばいいのやら複雑な気分なのだ。

 だから遊ぶということでも、誰かに必要とされるのが嬉しい。


「うん!」


アミティちゃんは元気よくうなづいた。



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