第15話
「タローさんはこのあとのご予定は?」
「無いですかね。」
「では私がアミティの代わりに案内しましょう。」
アーラさんはが良くお世話になるという場所を案内してくれた。
「ここのお婆ちゃんは薬を作ってくれるんです。」
紹介されたのは絵本に出てきそうな魔女のような老婆だった。これでもかというくらいのわし鼻をしている。きっと笑うときは「ヒッヒッヒ」って笑うに違いない。
「昔は魔道具を創ってたんだが、この村じゃあ需要が無くてね。
流行り病なんかを予防する薬から眠気を覚ます薬なんてのもあるよ。」
老婆は薬が陳列している棚を指し示した。鼻から深く息を吸い込めば、独特の匂いが鼻をツンと突いた。
それより今魔道具といったのか。
「あの。魔道具っていうのは僕でも使うことはできるんでしょうか?」
「あー。タイプによるねぇ。あんた魔素が無いんだろう?なら魔石内蔵タイプしか使えないねぇ。」
はて。と僕は頭にハテナマークを浮かべた。魔石とはなんぞや。
「魔石は魔物から取れる魔素の塊……みたいなものです。人工的に作る人工魔石が主に魔道具に使われていますね。
魔物から取れる魔石は天然物とされていて、物によっては大変貴重らしいですね。」
まぁ私たちの村では意味のないことですが。アーラさんはそう付け加えた。確かに貴重だろうが売らないのなら意味はないか。
「アーラさんってお金に対して不信感抱きすぎじゃないですかね。」
「人々があんな形のないものに対してどうして信用を置けるのかの方が私は不思議ですよ。」
アーラさんはそう吐き捨てた。お金に恨みでもあるのだろうか。
いや、それよりも僕は魔道具が使えるということがわかった。
「それでその魔石内蔵タイプっていうのはどんな物何ですか?」
「ん?今ここでまさに使ってるじゃないかい。」
老婆はそう言って天井をその#皺__しわ__#くちゃの指で指し示した。その先にあるのは丸い電球のような光を放つ球だった。
あーなるほど。魔石は電池みたいなものなのかもしれない。僕も魔道具が使える!そう思ったが何のことはなかった。
僕は電気というエネルギーそのものは出せないが、電池を入れて懐中電灯を使うことは出来る。というただそれだけのことだ。大したことじゃなかった。魔法のようなことが出来るかもと少し前まで期待に胸を躍らせていた自分がバカみたいだ。
しかしこの世界で科学というのはきっと発達してないことが伺えるし、これからもしないだろう。
だって必死こいて発電してエネルギーを作ったとしても「魔法でいいじゃん。」「魔道具でいいじゃん。」と言われて終わりである。
必要とされなければ発展しないし、必要じゃないものは生まれもしない。そういうことである。
向こうの世界が金属の加工法なんかを研究してある間に、こっちの人はポンって一瞬で金属製のシェルターを作ってしまうのだ。
むしろ魔法という文明は向こうの科学という文明を凌駕していると思う。
「魔道具が使えると便利ですね。はは。」
僕は天井で宙に浮いて光る球を見つめながら乾いた笑みをこぼした。
「で、今日はその異世界から来たって小僧の件で来たのかい?」
「はい。今まで流行したことのある流行り病の類を予防する薬を全て飲ませて欲しいのです。」
「え?」
何じゃそりゃ。僕は何も聴いていないとアーラさんの方を見た。
「タローさんは私たちが子供の頃にする流行り病への予防がされていませんからね。ヤバイやつに#罹__かか__#ったらコロリと死ぬか、物凄く苦しんで死んでしまいますから。」
なにそれ怖い。なんだか背筋がゾクッとした。
「ヒッヒッヒ。そういうことなら今から薬を作ってあげるよ。それこそ全部の病に対応できるぐらいにねぇ。ヒッヒッヒ。」
命を救ってくれようとしている筈の老婆不気味な笑みに悪寒が走った。むしろ僕はここで死ぬんじゃないだろうか。
あとどうでもいいが、やっぱり老婆の笑い方は予想通りだった。
「ついでに薬の創り方を見せてあげよう。これが材料だ。」
老婆は僕から見るとただの草に見るようなものや木の根っこなんかを机に並べた。
その間、老婆はヒッヒッヒと不気味な笑いを顔に張り付かせたままだ。
薬を飲ませるモルモット的な存在の出現に喜んでいるんじゃないだろうな。
僕は出来ることなら体に良い効果のある薬を老婆が作ってくれることを祈るばかりだ。
「それで、ここに合成魔法を使う。」
老婆が薬の材料に手をかざすと材料はポワンと、アーラさんが僕のシェルターを作った時と同じように光り出した。
そして、次の瞬間には白い錠剤のようなものがさっきまでの材料の代わりにコロンと転がった。
「ふぅ。こんなもんさね。」
老婆は得意げに言い放った。
もっとすり鉢でゴリゴリやったりして手間のかかるものかと想像していたのだが……。
材料を用意→手をかざす→完成!
どんなお手軽3分クッキングだよ。
「簡単そうに見えて、魔法には練度がありまして。薬を創るという合成魔法は、極めるにはかなりの練度が必要なんです。」
アーラさんがそんなことを僕に耳打ちてま教えてくれた。
「お婆さんは実は凄い人だったりするんですか?」
「さぁねぇ。あたしゃ今じゃ只のお婆ちゃんさ。」
僕の疑問に老婆はそう答えてヒッヒッヒと不気味に微笑んだ。
そして最終的に僕の前へ何十錠もの錠剤が山盛りになっていた。これを全て飲めと?
薬のえぐみや苦味に顔をしかめながら、薬を飲み続ける僕を見て、老婆とアーラさんは大爆笑していた。
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