第12話
僕は今子供達に混ざって机に座っていた。僕はアーラさんの仕事を見学しないかと誘われたのだ。他ならぬアーラさん自身に。
新たなる幼女たちと触れ合いたいなぁと思っていた僕には願っても無い提案だったのでヘッドバッキングみたく首を縦に振り回して了解の意を示した。
食事をした部屋の奥には、沢山の机が並べられている部屋があった。5行5列に机が等間隔で並んでいる。
皆が机に座り、一方向を見ている。
皆んなの視線の中にアーラさんが登場した。
「今日はお金という概念についてを学びたいと思います。わかりましたか?」
スタンド机に両手をつけて前かがみになるようにしてアーラさんは大きな声で僕らへ語りかけた。
子供達は「はーい」と大合唱してそれに返事をする。
僕はようやくなるほどと合点がいった。どうやらこの部屋は教室のようなものらしい。アーラさんが部屋の前の方で使っているスタンド机は教卓で、僕たちは生徒席に並んでいるということか。
僕は自分の机を軽く摩って、元の世界でのことを考えて少ししんみりした。
クラスメイト達は僕が死んだと驚いているかもしれないし、悲しんでくれているかもしれない。
けれど僕はそれを知ることはきっと一生出来ないし、僕がこうして異世界で第二の生を謳歌しようとしていることも、伝えようとしても伝えられない。
結果僕は生き返ったといえど、向こうの世界では死んでいるのだ。
このままでは気分が沈みそうだと僕は右隣の席にいる新しい幼女を見ることで気持ちを持ち上げた。
彼女は僕の視線に気づくことなくアーラさんの方をもはや睨みつけている、というぐらいにじーっと見つめていた。
二つに結ったおさげ髪と丸い黒縁の大きめの眼鏡がチャーミングな色白の幼女ちゃんだった。
残念なことに他の幼女達は離れた席に座っている。
しかし僕は幸福者で、こんなに可愛らしい幼女がぼくのとなりに居てくれる。
もし消しゴムでもあれば落として拾ってもらって手と手が触れ合ったりしてみたいものだ。
彼女の様子では消しゴムを落としても気づいてくれそうにないが。
僕はこの世界に眼鏡なんてあるのかと驚いた。
正直この世界では「魔力で視覚強化すれば良いじゃない。」くらいは言われそうだ。
むしろ「目が悪かったら魔法で直せばいいじゃない。」と根本的に現代医療に喧嘩を売ってくるかもしれない。
それに彼女が眼鏡のことを気にしているかもしれないし、今はアーラさんの話へ真剣に耳を傾けている様子だ。
僕は邪魔をしてはならないと話し掛けるのを諦めて、彼女と同じようにアーラさんの話を真面目に聴くことにした。
「皆さん、この村で暮らしていくのならあまり縁のないことですが、都市部に行くとお金というものを様々な物品やサービスと交換してもらえる。という概念が存在しています。そこで……」
アーラさんは丁寧に説明していく。
子供たちも「へー。」と驚いたり、ふんふんと相打ちを打ったりしていた。
けど僕は思ってしまった。え?そこからですか?
まさかのこの村はお金を使用してない説が出てきたのである。
「はい!」
急に眼鏡幼女ちゃんが手をピンと伸ばした。どうやら質問は挙手制らしい。
そういえば元の世界では人の話に途中で割って入って自分の話をや説を語り出す輩がTVなど、特に政治家などに多く見受けられた。
僕はその度に話を最後まで聴くか、質問をしてもいいか聴けよと思ったものだ。
そんなやから達と比べてしまうのは蟻と鯨の体重比べをするようなもので、おこがましいとは思う。
しかし敢えて比べるのなら、眼鏡幼女ちゃんの何と素直で清らかなことか。
腐きりった大人の腐った卵のようなドロドロの心とは大違いの、綺麗な澄んだ心が見えるようだ。
その純粋さに、沈んでいた心が癒されていく。
「はい。何ですかレティ。」
アーラさんは話を中断させて、眼鏡幼女ちゃんの方を伺った。皆もそれに応じて眼鏡幼女さんの方に視線をやる。
眼鏡幼女ちゃんの名前はレティちゃんと言うらしい。僕は恐らく今回の授業で1番大切な単語を心に刻んだ。
「お金と色々な物を交換してもらえるって話でしたけど、お金ってどんな物とでも交換できるような価値のあるもの何でしょうか?」
到底幼女が放ったとは思えない疑問が飛び出してきて僕は面を食らった。
僕はお金を知っている。
お金がならばなんでも出来ると思っているし、お金がある人は勝ち組だ。そんな価値観が僕の中には確かにある。
けどお金自体に価値があるかと言われたらどうだろう。札束なんてよくよく考えればただの紙っきれじゃないか。
僕は元の世界でなぜあんなカミッキレがどんなものとも交換できるような価値を持っていたのか不思議に思えてきて首を捻った。
いやけれどこの世界のお金は本当に価値のある金とか銀とかレアメタルで作られているかもしれないし。
しかし待てよ?僕の中にまた疑問が浮かんできた。
レアメタルや金なんて欲しいものだろうか。そりゃそういうもので指輪やらを作りたい人には価値があるのかもしれない。でも皆んなが皆んな金大好き人間じゃないだろう。
例えば僕が無人島で自給自足の生活を送っていたとする。そこに誰かがやってきて『お前の食料とこの珍しいレアメタルを交換してやろう。』と言ったとする。
僕はきっとそいつを鼻で笑う。
そしてすぐさま畑で採れた野菜を男の目の前でこれ見よがしに見せつけながら齧り付くだろう。
無人島で暮らすifの僕にとって、男の持っているレアメタルなどこれっぽっちの価値も感じないのだ。
精々「見たことのない金属だなぁ。」ぐらいの反応だろう。
そう考えると、通貨というのは誰にとっても同価値で、かつ必要とされるものでないといけないわけだ。
そんな物がこの世に存在するのだろうか。
幼女の問いに格好良く答えられるかもと考えてはみたものの答えは出なかった。
僕の脳だけがグジュグジュと煮立って熱を放つ。
「良い質問ですねレティ。それはですね……」
どうやらアーラさんは質問に対する解答を持ち合わせているらしい。
僕は頭を空っぽにして答えを聴くことにした。
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