第11話
アミティちゃんにやっとこさ機嫌を直してもらった後、僕らは協会の隣にある大きなシェルターに来ていた。
僕の使っているシェルターの何倍も大きい。一体なんの目的で作られたのだろうか。
常識はずれな畑を見ているので少し怖い。このシェルターがまるでビックリ箱に見えてきた。
僕が覚悟をする間も無く、アミティちゃんは繋いでいた手を解くと、扉を開いて躊躇なく中へと入っていく。
開けた扉からガヤガヤと沢山の人々の話し声が響いて来た。
僕はシェルターの中に大勢の人がいること。そしてこのシェルターの防音性能に驚く。
僕もアミティちゃんに続くようにして中へ入った。
「ただいまー!!」
「おかえり~。」「アミティちゃんおかえりー。」「遅かったねー。」「もうご飯できてるよ。」
出迎えたのは、アミティちゃんへ掛けられる言葉の嵐だった。
声をかける人々は皆、子供、子供、子供。
8人ほどの子供達がシェルターの中で、殆どの子供が部屋の真ん中にある長いテーブルを囲んで、椅子に腰掛けている。
幼女3、高校生ほどの女子1、男子4。
僕は椅子に座っている面々の性別と大雑把な年齢を確認した。
男子諸君については年齢などどうでもいいので割愛。
残念なことに幼女の割合が半分以下のようだ。しかしアミティちゃんを入れて5人の幼女がいる。
なるほど、ここが天国だったのか。
あまりの幸福感に脳がショートして呆けている僕を放ったらかしにして、アミティちゃんは空いている先にちょこんと座った。
ここはどういうところなのだろうか。大家族?
アーラさんは子沢山だった説が浮上してきた。人は見かけには寄らないものである。
「こんにちは。昨日ぶりですねタローさん。村はどうですか?」
いつのまにか僕の隣に来ていたアーラさんに挨拶をされてやっと僕の脳が再稼働し始めた。
「いやー。驚くことばっかでした。急に空に浮かんだり。死ぬかと思いましたよ。」
「急に空に……?」
「アミティちゃんが食べさせてくれたスライムの核は魔物を食べるのか、と文化の違いやら、見かけによらないクセになる食感だったりして。
新鮮な発見ばっかでずっと頭がてんやわんやですよ。」
「スライムの核を……なるほど。」
笑う僕とは逆にアーラさんの顔はどんどん険しくなっていく。
「どうやらアミティにはお灸を据える必要がありそうですね……。
アミティが迷惑を掛けたようで。申し訳ありません。」
どうやらもう少し平和的な案内を期待していたらしい。頭をペコリと下げたアーラさんの怒気がピリピリと肌を刺激する。
この怒りの対象であるアミティちゃんがこの後どんな惨事に見舞われるかは想像に難くない。
「いやいやでも楽しかったですよ。
最高のエスコートでした。僕は男なのにリードされっぱなしでしたよハハハッ!」
僕は自分のせいでアミティちゃんが大叱咤を受けるかもしれないという罪悪感から必死にアミティちゃんの弁護をした。それに言っているのは事実である。
「……まぁタローさん自身がそういうのでしたら。食後に軽く叱ってやる程度に留めておきます。
ではタローさんもお席にどうぞ。スライムの核でお腹が膨れてしまっていなければいいのですが……。
タローさんのせいではないので無理をして食べすぎないようにして下さいね。」
アーラさんは僕を慮る言葉をかけてくれた。
僕はその言葉に、腹が破裂しようとも出された食事を胃の中に収めることを決意した。
あとごめんアミティちゃん。フォローはできたみたいだけど、叱られることは確定みたいだ。
アミティちゃんは刑罰が軽度になっただけで有罪判定のままである。
僕は席に座って周りの子達と愉しげにおしゃべりをしているアミティちゃんを見て心の中で謝罪した。
僕の視線に気づいたアミティちゃんはそんな僕を見て首を傾げる。
「変態さーん。早くしないとご飯冷めちゃうよお。早く食べよ!」
アミティちゃんは無邪気な笑顔を僕に向けた。元気溌剌だ。
謝罪の心はカケラも伝わらなかったようだ。アミティちゃんが叱られてから謝っておこう。もしかしたらアーラさんが食事の間に叱ることを忘れるかもしれないし。
「え?変態さんって何?」「あの人変態なの?」「あいつ変態だってよ。」
早くも子供達に誤解が広まり始めた。恐るべし早さである。
アミティちゃんに変態さんという呼称をやめさせることはもう何度かチャレンジして諦めている。仕方ないのだ。
僕はアーラさんに促されてテーブルの席へと足を運んだのだが……。
空いている席は、長方形の机の、長さが短い辺の部分。いわゆるお誕生日席だった。
まぁゲストなので間違ってはいないのだけど。
僕はそんなことを考えながらも腰を下ろす。
すると、テーブルを囲んだ子供達の視線が僕に集中した。
なんだか顔が痒い。血行が良くなっているのかもしれない。
僕の顔、今真っ赤になってはないだろうか。
アーラさんは僕の右斜め前の席に座った。
「では皆、食事にしましょう。さぁ、合唱!」
アーラさんの声に合わせて、皆が手を合わせた。僕も一テンポ遅れて続く。
食事の時の合図は元の世界に似ているようだ。僕は何となく安心した。
皆がガツガツと怒涛の勢いでテーブルの上の品を食べ始める。
テーブルの上にはスープ、肉と野菜を炒めたもの、パン。そしてデザートらしきミカンにそっくりの果物が並んでいた。それが皆へ同じように配られているようだ。
見覚えのない食材が多い中、懐かしさを感じて僕はミカンのようなものに触る。
冷たい。そしてかちんこちんだ。何と冷凍みかんじゃないか。しかし幾ら外見が似ていても味までは食べてみないとわからない。
僕はワクワクしながら冷凍みかんらしきものを口に運ぼうとして、パシっとアーラさんに手を掴まれた。
「タローさん。デザートは最後に食べてください。」
にっこりと笑いかけられる。
文化の違いを教えようとしてくれたのかもしれない。けどそこは僕の世界でも同じだったんですすいません。
決してアーラさんにそれを伝えることはないが。もちろん理由は怖いからだ。
「ああ。そうなんですね。」
僕はそんな習慣初めて知ったという風に惚けてみせた。
食後、腹がはち切れそうな満腹感に耐えながら、冷凍みかん(仮)を手に取った。
匂いを嗅ぐと柑橘系ではない、ミルクのような甘ったるい香りがする。
僕は少しがっかりとしたが、同時に未知への味に期待が高まった。
何せ今しがた食べた料理は知らない味や食感のものばかりだったが、大変に美味だったのだ。
スライムの核をもう一つ食べなくて良かったとしみじみと思うほどに。
シャクリと噛んだ冷凍みかん(仮)の味は、酸っぱさはなく、混じり気ない濃厚な甘みのみが口の中に広がった。
僕は外見の予想と大幅に違う匂いと味に、ペンギンが空をブンブンと飛び回っているかの如き違和感を感じて、頭が混乱した。
けど僕好みの味だ。あとでアーラさんにこの果物の名前を聴いてみよう。
僕はそう心のノートにメモして二口目に噛り付いた。
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