第10話
ぐぅぅぅっと僕のお腹が鳴った。
「あ、今変態さんのお腹鳴った!お腹空いたの?」
ぼくはアミティちゃんに朝起こされてからそのまま空中浮遊へと移ったので、朝ごはんも食べていなかった。
「うん。実はちょっとっていうか、かなり腹ペコ。」
「じゃあ美味しいもの食べさせてあげるよ!」
アミティちゃんは僕の手を引っ張って村の外へと向かう。もしかしたら村の外になっている木ノ実とか果物を食べさせて貰えるかもと期待が高まる。
今だこの世界の果物を僕は見たことがないのだから。
できれば地球と同じものがあるといいのだけど。特にバナナとか大好きだったし。でもバナナは暑い場所で育つらしいから、少し肌寒いくらいのここでは取れないかもしれない。
僕はあのビルのような段々重ねの畑がビニールハウスのような機能が付属していることを切に願った。
目の前でどろっとした液状のジェルが地面を這っていた。それもそのジェルは一つではなく、そこら中に蠢いている。
これは俗に言う、一部のゲームを除いて最弱モンスターとして名高いスライム先生ではないだろうか。
「どーれーにーしーよーうーかーなー。この子にきーめた!」
アミティちゃんは指でスライム達をランダムに指しながら、最後に指差した一匹に近づいてスライムの目の前にしゃがみこんだ。
何をするつもりなんだろうと心配になって声をかけようとした瞬間、アミティちゃんがスライムの身体に手をズボッと突っ込んだ。
「んー。あった!」
手で中をかき回しながら漁ると、またズボッと手を抜き出した。スライムはなおも何事もなかったかのようにズルズルと地面を這っている。
「変態さーん!はいどーぞ。」
アミティちゃんがスライムに突っ込んでいた方の手を僕に差し出していた。その手のなかには薄い水のような球体が鎮座している。
「ア、アミティちゃん。これはなんなのかな。ていうか今何をしたのかな。」
僕は動揺しながらも冷静さを欠かないように努めた。
「スライムの核だよ。さっき抜き取ったの。あ、だいじょーぶだよ!スライムは核が3つあって、一つぐらい無くなっても何日かすればまた元どおりになるの。」
ゴキブリ並みの生命力らしい。外見が生理的に受け付けないわけでもないし素早くないし飛ばないから幾らかマシかもしれない。
「それでその、それをどうするの?」
「食べるんだよ?」
アミティちゃんは何を当たり前のことを聴いてるんだろうとコテっと首を傾げた。
「はい!おてて出してね。」
その言葉に僕はノロノロとした動きで手のひらを差し出した。
アミティちゃんは僕の手の上に球体を落とす。プニュンとなんとも言えない感触が手のひらから伝わってきた。
アミティちゃんはまた別のスライムから核を取り出し、それをちゅるんと口の中へと吸い込んで、クチュクチュと噛んだ。しばらくしてゴクンと喉を鳴らす。
アミティちゃんが食べたのに僕が食べないというのはなんかヘタレみたいである。僕は覚悟を決めてスライムの核を口の中に放り込んだ。
眼を痛いくらいに強くつむって顎を動かしてみる。
クチュクチュと、弾力のある食感と、ほのかな甘みが口の中に広がった。
想像外の味と食感に何度も噛み続けた。噛めば噛むほどほんのりと甘味を持った蜜のようなものが滲み出てくる。弾力は幾ら噛み締めても変わる様子はない。
思いっきり噛んでみても噛み切れる気がしなかった。
これはなんというか、楽しい。
決して美味しいというわけではないけれど、軽いおやつみたいな感じだ。
いつまでも噛んでいられる。
おまけにこのクニュクニュとした食感が癖になる。
しばらくして甘味が完全に消えると、僕は名残惜しさを感じながらも、ゴクリと喉を鳴らしてスライムの核を飲み込んだ。喉を球体がつるんと通り抜ける感触がする。
「すごい、新感覚だったよお嬢ちゃん!こんなの食べたことない。もう一個食べてもいいかな?」
「そう?私も好きなんだーこれ。でも食べるのはいいけど、スライムの核ってとってもお腹に溜まるからお昼ご飯食べられなくなっちゃうよ?
お母さんがお昼はご飯に誘って帰ってきなさいって言ってたから我慢してね?」
確かに。ぼくはアミティちゃんの言葉で、今まで感じていた空腹が収まっていることに気がついた。
「また今度小腹が空いた時にでも食べに来るといーよ。次のご飯までにお腹空いちゃった子なんかはみんなやってるよ。でもあんまり栄養がないから、こればっか食べすぎちゃダメなんだって。」
確かに。腹持ちが良くて栄養満点とかどんな万能食だって話である。
「うん。わかった。気をつけるね。お昼はアーラさん達とご飯なんだ。たのしみだね。」
「うん!みんなで食べると美味しいご飯がもっと美味しくなるもん!
だから、その前にお腹いっぱいになっちゃダメなの。
ご飯の前にスライムの核でお腹いっぱいにして怒られちゃう子結構多いんだ。」
実は私もついつい。とアミティちゃんは顔を赤らめながら、テヘっと舌を出した。可愛すぎる。
「気持ちはわかるかなぁ。僕は初めて食べたのもあると思うけど、お腹がいっぱいになるまでずっと食べ続けたいくらいだよ。」
「だよね!でも前にママに食事の時それとおんなじようなこといったらげんこつ落とされちゃった。痛かった……。」
アミティちゃんはその時のことを思い出しているのか両手で自分の頭のをさすった。
僕はその仕草に笑ってしまって、それを見たアミティちゃんがそっぽを向いてしまって、機嫌を直して貰うのにしばらく掛かった。
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