第3話
「別に裸になんかならなくても、私はマホーで体をあったかくしてるからだいじょーぶだよ。」
そんな言葉を聴いて、期待に胸が膨らんだ。なるほど。彼女はいつからかはわからないが、寒くなってから魔法を使って体を温めていたということらしい。
ここは異世界であると仮定するならば、魔法は十分にありえる存在。むしろあって当たり前である。
道理で先程笑っていた彼女の頰や唇に生気が戻っていたと感じた筈だ。どうやら錯覚ではなかったらしい。
ということは魔法幼女が実現するということか。
むしろそれよりも稀有な存在である彼女は魔法ケモミミ幼女である。最高かよ!寒さに震えていた僕の体温が興奮によって少し上がった気がした。
「さっきから震えてるけど、変態さんはマホーで体あっためないの?」
「ごめんね。僕は魔法か使えない人なんだ。」
「そ、そっか。ごめんね変なこと聴いて。だ、大丈夫だよ!変態さんがマホー使えなくても、変態さんには私がいるから!
だから大丈夫!ちょっと待っててね。今火を出してあげるから!」
「んー。んー!」と彼女が目を瞑って手のひらを上にして懸命にふんばる姿を見ると、自然と笑みが湧いてくる。尊いなぁ。
するといきなりボッとその手のひらに、綺麗なオレンジ色の火がゆらゆらと灯った。少し離れた僕にも、その火の温もりが伝わって来た。
僕は「ありがとねお嬢ちゃん。寒くて死にそうだったんだ。」とお礼を言って、火の温もりにより近づいて暖を取るためという合理的な理由のもと、火が肌をチリチリと焼くくらいの近くまで彼女との距離を詰めた。
先ほどの彼女の聴いてはいけないことを聴いてしまった。というようなオロオロとした慌てぶりを見るに、もしかしたら魔法というのは使る人が多いか、使えて当たり前のものなのかもしれない。
つまり僕はこの世界で無能である可能性が出てきたわけだ。そんな無能に「私がいるから」と言ってくれた「アミティちゃん最高かよ!」と声を高らかに叫びたかったがぐっと堪えた。
物理的温もりと精神的温もりを手に入れて無敵となった僕は助けを呼ぶため、力のかぎり叫んだ。
「誰かぁぁぁ!!居ませんかぁぁぁぁ!!!」
どれだけの時間が経ったか。何度となく同じセリフを叫び続けて喉が潰れてきた。口からは、自分の声とは思えないガラガラとしたかすれ声しかもう出なくなった。
「だれかぁぁ!……居ませんかぁゲホッ。ゴホゴホッ!」
喉に何か張り付いてるみたいな不快感に思わず僕はむせた。
「変態さんだいじょーぶ?お水出してあげるからおてて出して?」
僕はアミティちゃんに言われるがままにコジキのように両手の平をコップがわりに差し出した。
彼女は差し出された僕の両手の上に人差し指を出す。
「えいっ。」
掛け声と共に、ちょろちょろと彼女の指から水が湧き溢れて、僕の両手の平に溜まっていく。
僕はそれをゴクゴクと飲んだ。幼女が作り出した水を体内に取り込んでいると思うと非常に美味である。
「ありがとね。アミティちゃん。とっても美味しいお水だったよ。おかわりを貰ってもいいかな?」
「ほんとー?うれしいなあ!じゃあもう一回おてて出してね!」
「あっ、ちょっと待ってよお嬢ちゃん。」
再び指の先からお水を出そうとした彼女に僕は手のひらを突き出して待ったをかけた。
「どうかしたの?」
「手のひらに出すって言うプロセスを踏むと、飲むまでに結構な量の水が手の隙間から落ちていくんだ。
だからそれを防ぐ為にも指から直接吸引するのが1番合理的な水分補給の仕方なんじゃないかな?」
「 えー。確かにそうだけど、変態さんに指を吸われるのがなんかヤ!
そんなエッチなことゆー人は泥水でも啜ってくればあ?」
僕のナイスな提案に彼女はお冠のようだった。プイッと僕から顔を逸らしてしまった。
「ごめんよ。本当に合理的だと思っただけなんだ。許してよ。」
ただ合法的に幼女の指を吸えると思っただけなんだ。
彼女は逆方向にまたプイッと顔を逸らした。
「確かに悪いことをしたらちゃんとゴメンしなきゃダメってゆったけど、せーじつさが無くなっちゃうから何度もゴメンしたらダメッ!」
耐えきれなくなった様子のアミティちゃんは僕を睨みつけて、わかってないんだからとぶんぶんと指を僕に指しつけて言った。
謝らなきゃダメだけど、謝罪のバーゲンセールは印象が悪い。ままならないものである。
「じゃあ僕は一体どうすれば良いんだろうか。」
「むー。悪いと思ったことをごめんなさいするのは良いこと!
でも一度許してもらったことに味をしめて、謝れば許してもらえるからいーやって心の篭ってないごめんなさいはダメ!」
彼女は少し頰に手を添えて悩んでからビシッと言い放った。
「わかった。頑張ってみるよお嬢ちゃん!」
僕は力を強く握りこぶしを作ってみせた。
「よしよし。ちゃんとしょーじんしてね。ね?」
アミティちゃんの撫で撫でに思わず頰が緩む。
変態と呼称する人間に対してその甘さ。さすがである。守ってあげたいその笑顔。
そして将来的には僕を守ってもらいたい。養ってくれ。
「ママの声だ!」
将来に思いを馳せているとアミティちゃんがおもむろにそう言って立ち上がった。けど僕には何も聴こえない。
「ママァァァ!ここだよママァァ!うぁぁぁぁん!」
彼女は正面に向けてそう叫びながらボロボロと泣き出した。
「お~い!聴こえるかー!アミティちゃーん!」
「アミティーー!居たら返事をしなさい!!!」
それからしばらくしてから男性と女性の小さな声が僕にもようやく聴こえてきた。幼女の声ではないとはいえ、僕の聴力は一般的なものである。アミティちゃんの聴力は相当のものらしい。
すっかり渇いて、たまにぴこぴこと動くそのフサフサの動物のようなプリティな耳の恩恵なのかもしれない。
「うぁぁあああっ!」
うっすらと見えてきた人影にアミティちゃんは泣きじゃくりながらも全速力で突進していった。
「ああアミティッ。あれほど森には入ってはいけませんと言ったでしょう!」
「ごめん!ごめんなさあいママァ!」
「いえ今はいいんです。アミティ!アミティッ!!本当にっ。本当にあなたが無事で良かったっ!」
僕と同じ完全なる人間に見える黒髪の女性が屈みこんで、飛び込んできたアミティちゃんを強く、強く抱きしめた。
いわゆる感動の再会というやつだ。
「アミティちゃんは無事だったんですかい。よか……なんだテメェは!!!」
僕はその光景を後ろで涙ぐみながら見守って居ると、後からやってきた無精髭を生やしたおっさんが僕の方へ向けて弓を構えた。
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