第4話
「姉御!アレはなんなんですかい!?」
「人!?そんなはずは……っ!それになんて格好をっ!アミティ、あなたは後ろに隠れてなさい!」
「探査にも反応しませんでしたし、あんな格好してる人間いるわけねぇ。
ありゃ新手の魔物かもしれやせん!」
何がなんだがよくわからないが、彼女たちのやりとりで自分の今の格好は思い出せた。
アミティちゃんももう反応しなくなってたから気にしてなかったが、全裸マン一歩手前のバリバリの不審者である。
それだけならまだしも、人外の疑いすらかけられている始末だ。
仕方なく僕は両手を頭の後ろに組んで地べたに這いつくばった。
「僕は無害な存在です。森で泣きじゃくって居たアミティちゃんを見つけて一緒に雨宿りして居ただけです。
怪しいものじゃ決してありません!」
「じゃ、じゃあその格好はなんだ!森の中にそんなふざけた格好で入る奴があるか!
自宅でもそんな格好のやつはいねぇよ!」
おっさんの意見はごもっともです。
「むしろ最初は全裸だったんです。だからこれでもマシになった方なんですよ。いや本当なんです!信じてください。」
「信じられるか!」
どれだけ真意に訴えても返ってくるのは拒絶のみ。タキシードでも着てればこうはならなかったのか。
今思えば裸で森に放置はないだろう。舐めてんのか。
いやしかしそのおかげでアミティちゃんと知り合えたと言えなくもないし。こちらの神が僕のために出会いを演出してくれた可能性も否定はできない。
神への愚痴はひとまず保留にした。
「変態さんの言ってることは本当だよ!一緒に雨宿りしてただけなの!
あんな卑猥なかっこーっで迷ってたみたいだから、わたしが保護してあげてたの。」
アミティちゃんが女性の服の裾を引っ張って訴えかけてくれて居た。それにしてもそっかー。僕はアミティちゃんに保護されている側だったのかー。
確かに暖と無毒な飲料水を提供してもらいと、僕は彼女に出会ってなかったら森の中でのたれ死んで居たかもしれない。
というよりアミティちゃん。今その呼び方はまずいと思うよ。
「変態さんだと!?やっぱりアミティちゃんアレに何かされて!」
弓を構えたおっさんは殺気を篭った目で僕を睨みつけてきた。限界まで引き絞った弓はギリギリと音を鳴らしていて、あの弓で射られたら僕はあっけなく貫かれてしまうと思う。そんな迫力を感じた。
ーーああこれは死んだかもしれない。
でもアミティちゃんと出会えたこの二度目の人生に悔いなどない。たとえ短くとも濃縮された時間だった。
ぼくはアミティちゃんの頭を撫でた手の感覚、アミティちゃんに頭を撫でられた時の手の温もりを思い浮かべて、そっと目を閉じた。
………しかし待てども待てども終わりはやってこなかった。
うっすーら眼を開いて状況を確認してみると、アミティちゃんが弓の前で両手を目一杯広げて僕を庇うように立っていた。
「退いてくれアミティちゃん!」
「ヤッ!!」
アミティちゃんは首を横にぶんぶん振る。
「アミティちゃん!大丈夫!僕は大丈夫だからそこから退くんだ!」
もし間違えてあのおっさんがストッパーになっている手を離しまえば………その時のことを想像してゾッとした僕はあらん限りの声で叫んだ。
すると女性が殺気立つおっさんの前に手を差し出して、ぼくを射ろうとするおっさんを諌めた。
「ローガンさん。ひとまず待ってください。」
「でも姉御!」
「警戒を解け。と言ったわけではありません。少し待って欲しいと言ったんです。
あまり直視したくはありませんがアレはその。なんというか全裸に近い丸腰のようですし。
今はアレが私たちにとって害になるかどうか、なんとも言えません。
わたしはアミティに話を聴きます。どうかローガンさんはアレを警戒しておいてください。」
害になるかどうかはまだ不明と言っておきながら、僕の呼称が「アレ」であるあたり彼女が僕に対してあまり良い感情を抱いていないことが伺えた。
バシャバシャとドロドロの地面を踏みしめて、女性はアミティちゃんの前までやってきた。
「アミティ。あなたはアレが悪い人だと思いましたか?」
「変態さんは悪い人じゃないもん!わたしおはなししたからわかるもん。ほんとだもん!」
「そうですか………。」
アミティちゃんは女性の問いかけに食い気味に答えた。瞳を逸らすことなく女性を見つ続けている。
アミティちゃん……。
僕を擁護するアミティちゃんに涙が溢れそうになる。
アミティちゃんに話を聴いた女性はしばらく目を閉じて固まった。そしてゆっくりと眼を開いて深く息を吐くと、言った。
「ローガンさん。弓を下ろしてください。」
「なっ。あんな見るからにヤバそうなやつを信じるんですかい!?
それにさっきからアミティちゃんもあいつのこと変態変態って言ってるじゃないですか!」
「だ、だって変態さんは変態さんだから。」
アミティちゃんはいったい何が悪いのか分からないといった困惑した様子だ
うん。アミティちゃんはちょっと静かにしておこうね。
「まぁその辺は気になりますし後でとっちめますが、アミティは悪い感情を持ってそう呼んでいるわけではないようです。
私もアレを信じたのではありません。
私はアミティの人を見る目を信じたのです。子供は大人の悪意に敏感ですからね。」
女性はアミティちゃんの両肩にそっと手を添えて軽くかがんで目線を合わせて笑いかけた。
「私はアレのことを守ろうとするアミティを信じます。」
「ママ……。」
アミティちゃんは泣きはらした目にまた涙を貯めて、ゆっくりと女性の首に手を回して抱きついた。そして女性もそれを受け入れる。
「……はぁ。わかりやしたよ。先走っちまってすいやせんでした。」
おっさんは、大きくため息をつくと、弓を下げ後頭部をガシガシと手で掻いた。
なんだかよくわからないけど、確かなことが二つ。
僕の命はアミティちゃんに助けられたということ。
ーーそして、アミティちゃんの母親が、アミティちゃんの母親なんだということだ。
顔をお腹に埋めて嗚咽を漏らすアミティちゃんの背中をトン、トンと優しく叩きながら、自身も静かに涙を流す女性を見て僕はそう思ったのだ。
ポツポツと身体を打っていた水滴の感覚がないのに気がついて空を見上げると、雨が止んでいた。
そして気を利かせたお日様さんが雲の切れ間からちょこっと顔を出して、スポットライトみたいな光を差し込んで、抱き合う二人を照らした。
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