第13話
欲望を一気に解消した和也は、かなりの
『どんな形でもいいから、ユミを幸せにしてやりたい』
ユミが既に死んでいるのなら、やはり現世に未練を残さずに、安らかに成仏してもらうのがいいのかもしれない。ユミのやりたいこと、やり残したことはなんだろう。和也が考えを巡らせていると、食欲をそそるカレーの匂いが
LDKに入ると、食欲をそそるカレーの匂いで一杯だった。ユミは室内に入った和也に、まだ気付いていない様子。ダイニングテーブルに座って、和也はキッチンでカレーを作っているユミの姿を
「ユミちゃん!」
呼びかけでようやく和也に気付いて振り向いたユミは、エプロンに描かれているニワトリのイラストに負けないほどの笑みを浮かべている。
「あ、和也さん。いたの? 寝てれば良かったのに。もうちょっと待っててね」
「ははっ。美味しそうな匂いがしたから」
「はいはい。今用意するねえ」
いつになく上機嫌なユミが、トマトサラダとカレーの皿をテーブルに持ってきた。
「ユミちゃんは?」
カレーもサラダも、和也の分だけなので和也が訊く。
ユミは「私はこれ」と言って、申し訳程度にカレーの入った小鉢を持ってきて和也の前に座る。余りにも量が少なく思えたので、
「それだけ?」和也は尋ねた。
「さっき和也さんに、いっぱい動物性タンパク質もらっちゃったし……」
ユミは恥じらいながら大いに照れ笑いをする。タンパク質ってあれだよな、と和也は先ほどのユミの行為を思い出してしまう。
「え、でも……」
「なーんてね。プリンも食べるからカレーが少ないのですっ!」
ユミが冷蔵庫からプリンを取り出してきて、テーブルにトンと置いた。機嫌よく笑っているユミのエプロン姿は、
◇◇◇
明日の月曜日は早めの出勤予定となっている和也は、すでに就寝の準備をしていた。洗面所で和也が歯を磨いていると、ユミがやってくる。
「私も和也さんと一緒に寝たいの。待っててね」
可愛らしい口調のユミの願いに、和也にノーの選択肢はあり得ない。
和也がベッドに入って三〇分ほど経ったころに、ピンクのパジャマ姿のユミがやってきて、すっと和也の横の布団に入り込んだ。まるでラブラブな新婚生活だな、と和也は思う。
「和也さん?」
「ん?」
「私の体温がないから、昨日和也さんが驚いちゃったんだよね? 気づかなくて、ごめんなさい」ユミが神妙に謝ってきた。あの中折れのことか。
「ああ、別に構わないよ」と和也は軽く答える。
「ホントはもっと密着したいんだけど……パジャマ着ているから平気かなあ?」
ユミが仰向けになった和也の上に覆いかぶさってきた。
「全然冷たくないから平気」
「良かったあ」と、相変わらず機嫌よく笑うユミ。
「さて本題です」ユミの口調が改まった。
またプレゼンテーションが始まった、と思い和也は苦笑しながら「本題ですね、分かりました」と冗談めかして答えた。
「昨晩、私が和也さんとの性交を拒否したのには、三つの理由がありました」
「というと?」
「まず第一は『初めてはとても痛い』という話です。そして、第二に和也さんが満足できない懸念。最後は……とても満足して、私が消滅してしまう可能性がありました」
ユミも自分が消えることを意識しているのだ。「うん。なるほど」と和也は答えた。
「それぞれの対応策に移ります。まずとても痛くても、私の我慢と和也さんの優しさでカバーできます。痛くない可能性も充分あります。次に和也さんが満足できなかったら、他の手法――たとえばフェラチオなどで何とかするので、和也さんはそれで我慢してください。最後の……最後の……私の消滅については、現時点で適切、妥当かつ有効な対策はありません」
ユミは言い切ると、和也の胸にしがみついて小刻みに震え始めた。泣いているかと思って、和也はユミの背中を撫でながら、努めて優しく言う。
「俺は我慢できるから、気にしなくていい」
「私も和也さんに抱いてもらって、たくさんたくさん愛してほしいの。――だから、だから心の準備ができるまで少し待ってて」
和也にはユミに返す言葉が思い浮かばない。「ユミちゃん……」と背中を優しく撫でる他なかった。
その後一〇秒ばかり和也の胸に顔を押し付けていたユミは、思い出したように身体を起こした。ユミはプリンを食べているときと同じく上機嫌の笑顔だ。
「えへへ。以上、終わりっ!」
明るくユミは宣言すると、和也に軽くキスをした。
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