第11話
クラマ達はそれからも
何度か休憩を挟んで、およそ夕刻に差しかかる。
しかしダンジョン内では日が差さないため、時間の感覚が薄くなる。
時間の経過が分からない中での探索は、クラマから予想以上に体力と精神力を削っていった。
> クラマ 運量:9527 → 9370/10000(-157)
> クラマ 心量:89 → 81(-8)
> イエニア心量:386 → 371/500(-15)
> パフィー心量:484 → 474/500(-10)
> レイフ 心量:404 → 385/500(-19)
クラマの疲労を見てとったイエニアが提案する。
「今回はクラマの運量も多く残っているので、夜営の練習をしましょう」
こうしてダンジョン内で一夜を過ごすことに決まった。
一行は周囲を警戒しやすい場所に陣取り、夜営の準備を行う。
「はぁ~、もー疲れたわ~」
荷物を置いたレイフがぐったりと横になる。
疲労が溜まっていたのはクラマだけではなかった。
荷物持ちに加えて難度の高いマッピングにより、レイフは心身ともに消耗していた。
「外の時間ではまだ寝るには早い頃ですが、みんな疲れたでしょうから、交代で休みにしましょう」
2人ずつ交代して
「運量で獣に見つからないようにすれば、見張りなしで休めるんじゃないかな?」
なるほど、といった目で皆がクラマを見る。
しかし寝ている間に運量が切れる可能性もないとは言えない。
そのため、1人ずつ交代で警戒を行うことになった。
「エグゼ・ディケ……寝ている間に野生動物に見つからないように」
クラマの体が金色に光り……そして収まる。
これで準備は完了した。
まずはイエニアが見張りを行う。
交代順はクラマ、パフィー、レイフ。
順番が決まるや否や、レイフはいちはやく毛布にくるまって寝始めた。
「おやすみなさ~い」
「あっ、だめよレイフ。毛布は一枚しかないんだから!」
「ん~? スピュ~……」
パフィーが声をかけた時にはもう寝ていた。
「よっぽど疲れてたんだなあ……」
「しかたないわ。レイフには、わたしたちのぶんの荷物も持ってもらってるもの」
そう言いながらパフィーは、レイフが
「よいしょ……うん、これなら3人なんとか入れるわ!」
パフィーはレイフに背中を押し付けるようにして、毛布に潜り込んだ。
そうして横になった状態で、毛布に
「さあ、クラマ。いっしょに寝ましょ?」
クラマは
毛布にしっかり入ろうとすれば、中で密着することになってしまう。
「どうしたの、クラマ?」
パフィーの純真な瞳がクラマを見つめる。
「……いや、それじゃあ僕も失礼して……」
クラマも毛布に入り、クラマとレイフでパフィーをサンドイッチする形になった。
やはり狭い。が、パフィーは気にせずニコニコしていた。
「うふふ、こうやってみんなで寝るの、久しぶり!」
「前は誰かと一緒に寝てたの?」
「ええ、私の他にも先生には弟子がたくさんいたから。……あ、クラマ。肩が出ているわ。もっと詰めて?」
クラマが詰めると、完全に隙間がなくなって密着する。
パフィーが苦しいのではないかとクラマは心配したが、むしろ喜んでクラマの胸元に顔を埋めてくる。
小さな体。
クラマは改めてパフィーの幼さ実感していた。
そして脳裏によぎる。
もし誰かに「こんな小さい子をダンジョンに連れて行って大丈夫なのか」と言われたら、自分はどう答えたらいいだろう……と。
しかし丸一日ダンジョンを探索して
クラマは横になった
> クラマ 心量:81 → 85(+4)
しばらくするとクラマはイエニアに起こされ、見張りを交代する。
イエニアは見張り時の注意をいくつかクラマに告げてから、パフィー達の側で横になる。
鎧を着たままでは狭い毛布には入り込めないので、仕方がなかった。
暗闇の中でランタンの灯りを頼りに、クラマは見張りをする。
見張りを開始してから小一時間ほど経過した頃。
コツ……コツ……と暗闇の奥から物音が聞こえてきた。
クラマは運量を確認するが、減っていない。
皆を起こすべきだろうかとクラマは思案する。しかし、まずは軽く見える所だけ確認してみようと考える。
メガネを取り出して装着。
足音を殺してゆっくりと。
そ~っとランタンを前に掲げて、物音のした方を照らす。
……何もなかった。
目を
クラマはしばらく暗闇と
そうしてクラマが
「……え?」
眠っている皆の枕元。
荷袋をあさる人影があった。
そいつはクラマの声に気付くと、バッと弾かれたように飛び
「みんな、起きて!」
クラマは叫びながら考える。
運量を使って捕まえるべきか?
だが、その人影はまるで雲のような身軽さで、岩から岩へピョーンと飛び移る。
「うっそでしょ……!」
クラマが運量を使う暇もない。
人影は
「…………忍者?」
およそ人間とは思えぬ身軽さだった。
クラマに分かるのは、ランタンの
薄青色の髪と、体を
「クラマ……? どうしたの?」
「何かありましたか?」
クラマの声で起きてきたイエニアとパフィー。
レイフはまだ寝ていた。
クラマは2人に先ほど起きたことを説明して、荷袋の中を確認する。
すると持ってきた携帯食料と、捕らえた隠れ岩ねずみがない。また、4つあった水袋もひとつになっていた。
「水がなくなったのは痛いですね。これでは探索を続けられません。レイフが起きたら、すぐに帰還しましょう」
「見張りを減らしたりしなければ……」
クラマはいいアイデアだと思ったのだが、裏目に出てしまい後悔する。
「いえ、他の冒険者の存在を考慮に入れなかった私のミスです」
「しかたないわ。みんな賛成したんだもの。暗い顔しないで?」
「……うん。ありがとう」
クラマがガックリときている理由は他にもあった。
携帯食料の中にあったドライフルーツは、貧しい食生活の中の唯一の癒やしだったからだ。
次は必ず捕まえる。
クラマはそう決意した。
起床時間になったところでレイフを起こし、一同は帰還を開始した。
> クラマ 運量:9370 → 9163/10000(-207)
> クラマ 心量:85 → 82(-3)
> イエニア心量:371 → 367/500(-4)
> パフィー心量:474 → 472/500(-2)
> レイフ 心量:391 → 390/500(-1)
帰り道はマッパーであるレイフの指示通りに進んでいく。
「えーっと、こことここが繋がってるから……」
「確かこの付近でイーノウポウ……舌伸び大熊と戦ったはずです」
「あ、そうそう、そうね。だからこっち……」
レイフが地図をめくりながら歩く方向を変えた時だった。
つるりと岩の上でレイフが足を滑らせる!
「あいたっ! ――あら? あ、ちょ、っと」
尻もちをついた先は
「ひゃああああああああ!?」
「レイフ!!」
クラマ達の目の前でレイフは岩肌を滑り落ち、闇の底へと消えていった……。
「追いかけましょう。でも足元に気をつけて」
3人は滑らないように注意しながら、レイフを追って坂を降りる。
斜めになった岩は、だいぶ長い坂道になっていた。
傾斜を下りきったところで、3人はレイフの姿を発見した。
「あいたた……いやぁ目が回ったわ」
レイフの無事を確認して、一同は胸を撫でおろした。
坂の下は狭い穴ぐらだった。
圧迫感のある狭さにクラマは地下1階の通路を思い出すが、高さも横幅もそれよりだいぶ狭い。
イエニアはレイフに手を貸して引き起こしながら言う。
「岩は滑りやすいですから、気をつけてくださいね」
「ごめんなさい。でも、こういう所の奥にお宝があったりしないかしら?」
「そんな都合のいいこと……」
イエニアがランタンで周囲を照らす。
すると、目の前に、あった。
長い顔に毛皮を
「――っ!?」
全員が息を
いきなり目の前に獣が現れた事もあるが、さらにその巨体。
昨日ここで遭遇したものよりも、二回りは大きい。
成体だった。
「走って!」
こんな狭い場所では戦えない。
捕まれば押し潰されるだけだ。
4人は全速力で穴ぐらの中を走った。
舌伸び大熊は獰猛な唸り声をあげると、クラマ達を追ってきた。
「ヴヴッ……ゥオオオッ!!!」
逃げる。
狭い穴の中を走って逃げる!
足の遅いパフィーをイエニアが
幸いにも穴ぐらが狭すぎて、舌伸び大熊は全力で走れていない。
このまま広い場所に出れば……という時だった。
「あっ!」
レイフが岩の出っ張りに足をとられて転倒する。
「レイフ……!」
イエニアが振り返る!
その時、イエニアは見た。
既に反転して駆け出している、クラマの後ろ姿を。
走りながらクラマは唱える。
「エグゼ・ディケ――」
クラマの目に映るのは、倒れたレイフの足に、異様に長く伸びた大熊の舌が絡みついているところだった。
「――喉の奥まで突き刺され」
唱えて、狙いを定めることを放棄する。
クラマはただ、
> クラマ 運量:9163 → 9057/10000(-106)
グボォッ、と吸い込まれるように長大な棒が大熊の口に飲み込まれる!
同時に伸ばした舌も口の中へと巻き戻されていく。
レイフが大熊の舌から開放されて、大熊は苦痛にのたうった。
「レイフ! 立てるか?」
クラマは倒れたレイフに声をかける。
だが……
「う……あれ、体が……」
レイフは立ち上がることができない。
クラマはハッとして思い出した。パフィーに教わった事を。
――舌伸び大熊の唾液には麻痺毒の成分が含まれている――!
クラマはレイフを担ぎ上げる!
そして顔を上げると……既に立ち直っている大熊が、目の前でこちらを見下ろしていた。
大熊は眼前の獲物へと動き出す。
「う……!」
絶体絶命。
その時、大熊の前に金色の鎧が立ちはだかった!
「イエニア!」
イエニアは答えず、代わりに唱えた。
魔法の発動句を。
「――ファウンウォット・シヴュラ!!」
> イエニア心量:367 → 337/500(-30)
駆けつけながら詠唱していたイエニアは、発動句を叫ぶと同時、盾の一撃を叩き込む!
空洞に響く
大熊の動きが止まる。
しかしそれも、一時的に
以前とは体格のまるで違う成体。しかも正面からの打撃では、脳を揺さぶることができない。
打撃で倒すことは不可能だった。
イエニアもそれは承知の上だ。
大熊が動き出すよりも先に、クラマに代わってレイフを背負い、走り出す!
そして――
「クラマ、
イエニアの指示から、ひと呼吸の後。
----------------------------------------
少し前。
クラマを追って駆け出す前に、イエニアはパフィーに指示を出していた。
「オクシオ・ヴェウィデイー」
指示を受けたパフィーはすぐさま詠唱を開始する。
危険はある。
危険な指示だと分かってはいたが、安全な作戦などを立てている時間はない。
パフィーは唱える。
「ヤハア・ドゥヴァエ・フェエトリ」
――クラマが大熊に棒を突き込んでレイフを救出した。
――しかしレイフが動けず逃げられない。
「燃える、燃える、燃え落ちる。やさしい音の古時計。たくさん描いた似顔絵も。いじわる好きの影鳥も。今ではみんな、すすのなか」
――イエニアが盾殴りで大熊を怯ませる。
――ダメージはない。
――イエニアがクラマからレイフを引き受けた。
「さあ、4つめの扉を開きましょう」
――イエニアが叫んで、クラマ達は壁に寄って身を伏せる。
「フレインスロゥア」
> パフィー心量:472 → 422/500(-50)
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イエニアに言われて地に伏せたクラマの目に映ったのは、一直線に伸びた真っ赤な炎。
炎はパフィーの胸当てから
噴き出す炎は止まらない。激しい
クラマの耳には獣の叫び声が届いていたが、炎の熱気から身を隠すのが精一杯で、振り向いて確認することはできなかった。
体の傍を通る熱気に耐えきれなくなった頃……ようやく炎の勢いが収まった。
クラマは背後を
そこには体毛が燃え落ち、ところどころが
クラマは安堵に息をついて、伏せていた体を起こす。
「ふー……」
その時、遠くからパフィーが叫んだ。
「クラマ、息を吸っちゃだめ!」
「え……?」
クラマが頭に疑問を浮かべた次の瞬間、その視界がぐにゃりと
起き上がろうとしていた体がぐらりと揺れる。
一切の抵抗などできず、そのままに。
> クラマ 運量:9057 → 9058/10000(+1)
> クラマ 心量:82 → 63(-19)
> イエニア心量:367 → 332/500(-5)
> パフィー心量:422 → 415/500(-7)
> レイフ 心量:390 → 386/500(-4)
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