第32話 真相

 どこからか聞こえる小鳥の囀りで伍堂は目を覚ました。左腕の上に重さを感じ、隣を見れば静かに寝息を立てるアネットの姿がそこにある。


 覚醒したての頭はこの状況を即座に整理できなかったが、跳ね上がった心臓が充分な血流を脳にもたらすと昨日の出来事がすぐに思い出し、それと共に鼓動は穏やかなものに戻った。


 ただ不可解なのは、寝る時はアネットが寄り添っていただけなのに腕枕をしているのかということだ。これではまるで睦みあったあとの男女ではないか。約束したとおりそのような事実がないとはいえ、今の状態は気恥ずかしい。


 腕を抜こうとするとアネットが低い声を漏らし、身を捩る。彼女はまだ眠りの中にあるようで、起こすのは悪い気がしてとりあえずそのままにしておくことにした。


 鼻から息を吐き出し、視線はベッドの天蓋へ。眠りは深く、充分な休息をもたらしてくれていた。頭の中は明瞭で澄み渡り、寝る前の心の乱れはどこかへ消えている。


 そして体も軽い気がした。これは疲労が回復したせいだけではない、今まであった胸のつかえが取れたようだ。けれども全てではない、一部だけだ。


「あ……すみません。私のほうが早く起きるべきでしたのに」


「いえ気にしなくて良いですよ。良く眠ることができましたから」


 天蓋を仰いだまま答えた。


「そうですか、それは良かった。ふふ、私もこうして安らかに眠ったのは久方ぶりです。ゴドー様の腕が思いの外逞しかったもので、つい頭を預けてしまいましたが痺れてはいないでしょうか?」


 彼女が心配するようなことは何もなく、大丈夫だとだけ短く答えると視界の中にアネットの顔が現れた。


 アネットはそのまま瞳を閉じ、顔を近づけてきたが寸前で思い出したかのように目をぱちりと開くと赤面し、離れ、上体を起こす。


「すみません、どうやら癖になってしまっているようです。今の私に斯様なことをされるのは嫌だと昨晩言われたばかりだというのに、まだ頭が寝ぼけていました」


 頷いてから伍堂もまた体を起こし、ベッドの縁へと腰掛けた。特に何かをしたわけではないが、寝ぼけて体を動かしでもしていたのだろう。衣服の乱れが多少なりともあったので整えた。


 夕食を食べて間のない内に眠ったというのに、胃は空っぽで空腹を訴える。昨日のような嫌悪感はないが、この空腹を満たすためにも早く帰りたい。


 後ろを向かずにアネットに声をかけて立ち上がると、即座に静止の言葉が投げかけられた。


「お待ちになってください、朝食を食べていかれてはどうでしょうか。ゴドー様を連れて来られたパウエル様も、おそらく今頃は朝食を摂っておられる頃合かと」


「朝ごはん、出るんですか?」


 そのようなものが提供されるとは露ほども思っていなかった。振り返ってみればアネットが自信ありげに頷いた。


「そのご様子ですとお腹は空いているようですね。準備は出来ている筈ですので、またソファにでも座ってお待ちになってください。もし、まだ眠いのでしたら横になってくださっていても大丈夫です」


 アネットは立ち上がり手早く服の乱れを直すと、テーブルの上に置かれたままになっていた夕食の皿とグラスをウェイトレスさながらに両手で持つと器用に扉を開けて出て行った。


 多分、彼女が朝食を運んでくるのだろう。ベッドは魅力的であったが、伍堂はソファに腰掛けて待つことにした。昨晩は小さいと感じたソファだったが、隣に座るアネットがいないと大きく感じる。


 時計どころか窓もない部屋だ、その中で待つのは酷く退屈なものだった。聞こえてくる鳥の鳴き声で日が昇っていることは分かるのだが、それ以上はわからない。アネットは朝だと言っていたが、本当なのだろうかと疑問が湧き上がる。


 というのも頭がすっきりし過ぎている気がして、もしかすると昼まで寝てしまったのではないかという疑念があるからだ。ただそれも、戻ってくるだろうアネットに聞けば分かることだ。


 寝すぎていたらどうしようという不安と戦っていると扉がノックされ、アネットが部屋へと戻ってくる。彼女は持った盆の上の物をテーブルへと並べていった。


 燻製肉と野菜を挟んだサンドイッチと紅茶。エプスタイン邸のものと比較すると簡素なものだが、いつも食パンあるいはシリアルで済ませていた伍堂にとってはこっちの方が好ましい。一人分にしては量が多いので、朝はアネットも食べるらしい。


「昨晩とは違いますが、私もご一緒してよろしいですか?」


「はいもちろん、一人で食べるのは寂しいですし」


 断る理由はどこにもないし、誰かと食事をするのは楽しいことなので喜んで承諾する伍堂なのだが、ただ一つだけ気にかかる点があった。


「あのお子さんがいると言ってましたけれど、そっちに行かなくて良いんですか?」


 アネットの子供が何歳なのかは知らない、息子なのか娘なのかも知らない。けれど彼女の年齢を考えればまだ幼い子に違いなく、その年齢なら母が恋しいに違いない。アネットが共に食事をしてくれるのは嬉しいのだが、子から母を奪っているという負い目があった。


 しかしこれは彼女にとって言われたくないことだったのか、表情が曇る。


「えぇ確かに私には子がおります、ですがあの子がいるのはここスタイン市ではありません。生まれて数ヶ月もしないうちに私から引き離され、そこから一度も会っておりません。父が手配した乳母に育てられたようで、つい先日、五歳になると共に養子に迎え入れられたと手紙で知らされました」


 絶句するしかなかった。伍堂はてっきり彼女の子供はこの店のどこかにいて、アネットが男と会っていない時は一緒にいるのだとばかり思い込んでいたのである。


「私が子を産める事を証明するためだけに産んだ子ですから、父である男との間に愛があったわけではありません。男の名前すらも知りませんが、腹を痛めて産み数ヶ月といえどこの胸から乳をやったのです。愛はありますけれど、仕方がないのです。彼は本当の母を知らず、どうして生まれたかなどは知らぬほうが良いのです。その方が幸せでしょう」


 伍堂を慮り笑顔を作ろうとするアネットだったが、その顔は引きつっていてとても笑顔と呼べるものではなく今にも泣きそうなほど目元が赤い。


「どうしてゴドー様はそのような子のことを気になさるのです?」


「どうしても何も、当たり前だと思うんですが……」


 そう、伍堂にとっては当たり前のこと。しかしその当たり前は、ここでは当たり前ではない。


「当たり前ですか、その言葉こそ伍堂さまが別の世界から来られた何よりの証左。こんな顔をして言うのもおかしなことですが、私は当たり前のように我が子の事を思っていただいたことを嬉しく思います。これを言えば嫌われてしまうだろうことは分かっていても、言わずにはおられません。私の夫は、あなた様以外にはとてもではないですがもう考えることができません」


 涙を流しそうな顔で言われても、伍堂には答えることができない。想像できなかった話を聞かされ、混乱しかかっている。けれど昨晩とは違い、アネットがそんな風に思ってしまうことは理解できた。


「私は好いてもらえるようアプローチをします、ゴドー様を振り向かせてみましょう。蝶には相手を選ぶ自由が与えられておりますの、その自由を使う者はほぼおりませんが。私は使います」


 今までこんなにも女性に好意を向けられ、積極的な態度をされたことの無い伍堂には対応がわからない。それに彼女から聞かされた話は重い、重すぎる。


 このプロポーズとしか取れない言葉にどう返すか、伍堂の中に浮かんだものは一つしかなかった。


「わかりました、やってみてください」


 表情を見られたくなくて顔を逸らした。


 キザったらしいのは承知していても、これ以外に返す言葉は生み出せなかった。受け入れてしまえば結婚するしかなくなってしまうだろうし、かといって完全に拒否する勇気などあるはずがない。


 それにこう言っておけば、彼女はいずれ別の良い男を見つけるかもしれないと楽観できるところがある。


「えぇ分かりました。蝶をこうまで惚れさせたのです、覚悟しておいてくださいまし」


 伍堂の言葉はいたく彼女の心を打ったらしい。アネットの目元はまだ赤いままだったが、表情に悲壮さは微塵もなく明るいものであり瞳は明日に向けて輝いていた。


 そこで話は終わり、アネットがサンドイッチに手を伸ばして食事が始まった。湿っぽい空気は変わらずだったが、アネットが口を開けばそれも雲散霧消してしまい楽しい時間を過ごすことができ、伍堂は彼女の話術に感心するばかりだった。


 楽しい食事はあっという間に終わり、アネットが立ち上がる。時間が来たらしい、彼女がどうやって時間を計っているのかは気になるところだったが聞ける雰囲気ではない。


 アネットに先導されて部屋を出、そのまま店の外へと出る。日はかなり高いところまで上っており、燦々と降り注ぐ日光は長く目にしていなかった身には眩しい。外には馬車が既に待機しており、パウエルは既にその中で待っていた。


「それではいってらっしゃいませ、最後に少しだけ失礼いたします」


 どこか気だるさを感じさせる動作で近づいて来たアネットは腕を広げ、そのまま伍堂の体を抱擁し唇を耳元へと近づけた。


「私はあなたと再び出会うことを心待ちになどするつもりはありません。会いに来ていただけるのはもちろん嬉しいですが、振り向かせると誓ったのです。手段を講じ、再開する機会を作ってみせます」


 そしてアネットは離れた。伍堂の胸中に好意と呼べる感情が生まれていたが、その行為が恋や愛と呼べるものなのか判別はつかない。


「それではまた近いうちに来ていただけることを願っております、心待ちにしておりますからね」


 妖艶さを感じさせる表情を浮かべるアネットの言葉は本心のものではないと知っていた。小さく手を振る彼女に見送られながら馬車の座席に腰を落ち着け、扉を閉めると御者が馬に鞭を入れた。


 パウエルはしばらくの間は何も言わず、馬車の揺れに身を任せていたが社交場が見えなくなってから口を開いた。


「なんとなく顔つきが変わった気がするんだが、どうだ。男になった感想は?」


 彼の言う男の意味は今や完全に理解している。そして静まっていた炎がまた燻り始めた。


「そんなことは一切ありませんでした。ただ話をして、何もせずに寝ただけです」


「何だって? かなりの学があると聞いていたし君には年上のほうが良いだろうと思って彼女を君につけたのだが、拒みでもされたか? 私は君に楽しんで欲しかったのだけれど、そうはいかなかったか。蝶にも選択の自由があるにはあるからね」


「楽しめましたよ。けれどパウエルさんのいう楽しみはありませんでしたし、誘いはありましたが僕が断りました。それにアネットさんを僕に宛がったのは正解じゃないかと思います、色々と参考になる話をしていただきましたし、思うところも多くありました」


 燻っていただけの火はちろちろと燃え上がり始めていた。そのことは自覚していたし、目上の人間であるパウエルに悟られぬように努めたつもりではある。けれども完全に表情から消し去るだけの技量は伍堂はまだなかった。


 伍堂が今まで見せたことの無い表情をしただけでなく、饒舌なことにパウエルは驚きながら、ふむ、と小さく呟いて御者へと指示を飛ばす。


「おい君、屋敷に真っ直ぐ帰るのは無しだ。私が帰るというまで適当なところをぐるぐる走っていろ」


「すぐ帰らないんですか?」


「あぁ帰るのはもったいない。君と話をしたくなった、話の内容はハンゲイト君にだって言わないし、公爵にもね。プライベートな話だ、何か大きな変化があったようだからね。そして今から尋ねることがマナー違反だということは知っている、しかし聞きたい。もちろん答えなくたって構わないのだが、アネットと一体どんな話をしたんだ?」


 すぐには答えられない。アネットと部屋の中でのやり取りは誰にも口外しないと約束を交わしている。それをいきなり破ってしまうのはどうかと躊躇われたのだ。


 パウエルはパウエルで、蝶とのやり取りは二人だけの秘密にするのが基本だということを知っているので深くは尋ねない。ただひどく気になるらしく、悩む伍堂にじっと視線を送り続ける。


 この視線がさらに伍堂を悩ませた。今やパウエルに対して怒りを感じていたが、彼は約束を守るだろう。馬車の中で話をするというのは、誰にも聞かれないようにするための配慮だということも分かっている。なれば、今なら思っていること考えていることを素直に話せるのではないだろうか。


 数分の苦慮の後、伍堂はついに意を決した。


 アネットと交わした約束を反故にすることは心苦しかったが、話しておきたかったのだ。彼らの女性への扱いを、そして伍堂がそれに対して怒りを感じたことを。


 出来るだけ筋道の立った話をしようとしたのだが、高ぶる心は理性を凌駕し伍堂を感情的にさせた。途中、かなり語気を荒げながらも思いの丈をパウエルにぶつけていく。


 パウエルは腕組みをすることなく、瞬きの回数も少なくして真摯に話を聞いていた。そして伍堂が語り終えると、深く大きく頷いて「そうか」と一言呟いた。


「改めて聞きたいのだが、私たちの風習というしかないのだが、女性に対しての向き合い方は君の国……というよりも世界ではどういうものなのだね? 極力、簡潔な言葉で表して欲しい」


「非人道的というしかありません」


 即答した。


「もちろんだが、私たちは非人道的だなどと差別だなどという考えはしていないということは分かっていると思う。私たちにとってはそれこそが当たり前で、正しいとか悪いとか、そう考えることすら無いほどに染み付いたものなのだ。あぁ、誤解して欲しくないのだがこれは弁護しているつもりはないんだ。君の当たり前と我々の当たり前は違う、ということを確認したいだけだ」


 否定してはいるが伍堂の耳には弁解しているようにしか聞こえなかった。ただそのことを言ったところで、話は堂々巡りをするだけで前には進まないだろう。


「それを確認してどうするつもりだったんですか?」


「どうするというほどのことはないよ。ただ、君には謝らなければならない。異世界から人を召喚したのは、君が初めてではないんだよ。言わなかったのは悪気があったからではない、君がどうなってしまうかが分からなかったから、安全策としてそうしていた」


「知っていますよ。僕の前に四人の人間が召喚されたこと、魔王なんて存在が本当はいやしないことも教えてもらいました。けれどそれが誰かは言いません」


 パウエルにとっては寝耳に水の話だ。時が止まったかと錯覚するほどに彼は硬直し、再び口を開くまでの間に長い長い時間を要した。


「そうか、隠していたのは悪かった。そして表向きはともかくとして、私はこれ以上君に隠し立てをするのはやめよう。だからまず、四人の話をしたい。結論から言うと、四人とも屋敷にはいない。三人は戦場で死んで、一人はどこかへ消えてしまった。三人は丁重に弔い、消えた一人は今も捜索中だ。そしてこの一人の手がかりはつい先日見つかった、名前はヨツヤ。君もこの名前は知っているだろう」


 頷いた。四谷の名前は脳に刻み込まれている、ダダリオ村で見つけた手紙に書かれていた名前だ、忘れられるはずがない。


「ハンゲイト君とボネットが中々戻ってこないのはそれが理由だ、消えたヨツヤがダダリオ村の近くにいるのではないかと捜索しているのさ。そしてなぜ姿を消したのか分かっていなかったんだが、今ゴドー君が話してくれた君達にとって非人道的な行いを我々が当たり前に行ってしまっているのが理由かもしれないと思ったのさ。もちろん、本人に聞いてみなければわからないことではあるんだが……」


「わかりました。それじゃあ魔王っていうのはどういうことなんです?」


「魔王と呼ばれるような化け物なんてのはいない、だが魔王を僭称する人間あるいは魔王と呼ばれるような人間が出てくるだろうと我々は踏んでいる。一言で言うと反逆者だ、作物の収穫量は年々落ちている。今はまだ誤魔化しているが、そのうち民草に辛い暮らしを強いることになるだろう。そうなれば国に対して平時から反感を抱いているものが、これは好機だと仕掛けてくるに違いない。そのようなものが現れれば国家の危機だ。そして必ずや出てくるだろう最初の反逆者、それを倒す英雄といえば聞こえはいいが、旗印になる人間が欲しかった。それも特別なね、伝説の英雄になってもらう人間が欲しい。この国の人間をそれに掲げれば、必ずどこかでただの人間だということがわかってしまう。国外から呼び寄せれば外患を誘うのに等しい、故に我々は隣国ネアトリアに伝わる魔術を用いて異世界から人を呼ぶことにしたというわけだ」


 気づけば伍堂は拳を作り強く握り締め、歯を食いしばらせていた。パウエルが真摯になって話してくれているから抑えられているものの、彼が話し振りを僅かでも間違えていれば伍堂はパウエルの顔面を殴りつけていたことだろう。


「あんたら俺らを何だと思ってんだ……都合の良い道具か何かと間違えてるんじゃないのか……それはお前らの問題だ、俺の問題じゃない」


 溢れ出る感情の波を堰き止めるのにも限界がある、そんな理由でこの世界に連れて来られて痛い思いをさせられたのかと思うと煮えたぎるものがあった。


「あぁそうだ、そうだとも。だから私の本音としては、それだけの見返りを君に提供したい。そうでないとイーブンとは言えないだろう。しかし、今の我々が君に提供出来るものは少ない。存分な衣食住と、君の欲を満たすことぐらいだ。ただそれが今回、裏目に出てしまったのだけれど……」


 心の底から悪いとは思っているのだろう、パウエルは項垂れているように見えたし伍堂と視線を合わそうとしなかった。しかしそれは、伍堂の火に油を注ぐことになり、ついに伍堂は目を血走らせながらパウエルの胸倉を掴んだ。


 握り締めた拳が音を鳴らす、掌に爪が食い込む。パウエルは殴られることを受け入れたようで、目を閉じたが、伍堂は拳を振り下ろせなかった。


 彼らは自分を利用しようとした、それは許せない。けれどありがたいと思うところもまたあったのだ。


 パウエルの講義も、ハンゲイトやハリスとの鍛錬も辛いものではあるが楽しい。そしてどこまでが本心だったのかは分からないが、彼らは伍堂が出した結果に対し素直に賞賛の言葉を向けていた。


 四畳半の中では出来なかった経験だ。


 それを思い出すと、怒りは静まることはなくとも殴る気にはなれなかった。一度は振り上げた拳を下ろし、掴んだ胸倉から手を離し座席に座りなおす。謝らなければならないのは分かっているし、理由が何であれ暴力を振るおうとしたのは伍堂だ。


 それでも謝罪の言葉は喉元まで来るものの、そこでつかえて出てくることはない。


「謝らなくていい。私たちはそれだけのことを君にしてしまっているんだ、そしてこれからも。許して欲しいがそういうものではないのだろう。ただ私に、バド・パウエルに出来る事は君の要望を聞いて可能なだけそれを叶えることしかない」


「だったら今までどおりにしてください。僕にこの世界の言葉だけでなく色んなことを教えてください、戦い方も教えてください、これまでと同じく。旗印になってやりますよ、英雄が欲しいんでしょ。なってやりますよ、この僕が。これ以上の要望はありません、何か思いついたらパウエルさんに伝えます」


 パウエルの反対側、窓の外を向きながら伍堂は言った。


 少し冷静になってみれば結局こうするしかないのだ。元の世界に帰ろうとしたところで彼らの助力が必要になるはずだし、屋敷を飛び出したところで生きる術なんてもっていない。真実を伝えられたところで、伍堂が取れる選択なんていうものは存在していなかったのだ。


「そうか、わかった……」


 伍堂の言葉を聞いたパウエルは少し間を置いて、呟く様に言った。

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