第20話 初陣(3)

 村の外れまでやってくると、そこではライドンが数名の村人の指揮を取って作業を進めていた。土嚢が幾つも積み上げられ、村と森の間には落とし穴が掘られている。トラバサミを設置している村人の姿もあって、伍堂は目の前の光景に息を呑んだ。


「作業の進捗はどうだ?」


 ハンゲイトが声をかけるとライドンは手に広げていた紙から顔を上げて振り返る。


「上々といっても過言じゃありませんね。けどゴブリン相手にここまでやる必要ってあるんですか?」


「相手がなんであれ準備するに越したことは無い」


「そういうもんですか、忌まわしいゴブリン共を根絶やしに出来るならなんだってしますけどね」


 ライドンが手にしていた紙がハンゲイトの手に渡る。ハンゲイトは早速その紙に目を通し始め、伍堂も内容が気になったので後ろからこっそりと覗き見る。


 その紙は村の外れと森の間に仕掛けた罠の設置図だった。この図によると落とし穴とトラバサミのどちらも二桁を越える数が仕掛けられているらしい。地図から目を離し、罠が設置されているらしい場所に視線を向けたが、いくつかは既に隠されているため見ることはかなわなかった。


「ところでライドン……伝えるのを忘れてしまっていたのだが、落とし穴の底に先端を尖らせた杭ないし棒は設置したか?」


「え……? そんなえげつない事する必要あったんですか? それ、戦争でやったら問題になるやつじゃ……」


 信じられないとでも言いたげに眉を顰めたライドンを見たハンゲイトは肩を落とす。


「人間相手ならそうだがな、相手は汚らわしいゴブリンだ。そんな連中と戦うのに規範等あるものか、そうだろうゴドー?」


 突然に話を振られたものだから肩を跳ね上がらせながらも、伍堂はハンゲイトの言葉には同意しかねるところがあった。


 彼の言うことは最もだが、だからこそそういったものが必要なのではないかと思うのだ。しかしハンゲイトは伍堂からすれば目上の人間であり、意見をするにはかなりの抵抗がある。それでもすぐに賛同を示すことは出来ず、しばしの逡巡をはさんでから頷いた。


 そんな伍堂の反応をハンゲイトはいぶかしむ様に見ていたが、息を吐き出すと罠が仕掛けられた周辺の地面へと目を配り始める。


「幾つかは既に隠してしまったか、仕方が無い。今からやりなおしては時間が掛かりすぎる、このままで行くしかないな」


 ハンゲイトが落胆の溜息を吐くと、彼とライドンの間に流れる空気が少しばかり重くなった気がした。


「あぁハンゲイトさん。僭越ですが戦闘時の配置については案があるんですか? ハンゲイトさんとライドンが前衛で私が後衛だとは思うんですが、ゴドーさんは?」


 重苦しくなった空気を払拭するためだったのか、それともたまたまこのタイミングだけだったのかは分からないがボネットが問うた。


 ハンゲイトはすぐ返事をせず、伍堂をちらりと見た後で悩む様子を見せる。


「ゴドーは後衛にするつもりでいたが……しまったな、まだ剣しか教えられていない。槍と弓も教えていれば良かったか……」


「いや大丈夫でしょう。ゴドーも前衛にすればいいじゃないですか、昨日の晩に真剣を握ったの初めてだったのに二体もぶった斬ってるんですよ。前に出しても問題ないですよ」


 眉間に皺を寄せているハンゲイトとは裏腹にライドンは気楽なもの、あんまりにも軽い調子で言ったせいだろうか、温厚そうなボネットはライドンを睨み付けた。


 睨み付けられたライドンはその剣幕に圧され、ハンゲイトは呆れ顔を浮かべる。


「あの……僕は剣さえあれば、多分大丈夫ですよ」


 この発言は本音ではなかった。剣があろうがなかろうが、どんな武器があっても大丈夫だなんて言えるはずが無い。それでも、この場に漂う空気を何とかしたくてした発言だった。


 誰も返事をしない、三人は皆一様に困り顔を浮かべていた。誰か何かを言ってくれ、そんなことを思っているとハンゲイトは息を吐き出し、胸の下あたりの高さにまで積まれた土嚢を指差した。


「そこに立って土嚢の反対側に向けて剣を突き出してみろ、何となくだろうが理由は分かってくれるだろう」


 言われたとおりのことをしてみたが理由はわからない、首を傾げているとハンゲイトはさらに続ける。


「積み重ねた土嚢は防壁、盾としての役割を持っていることが理解しているな?」


 それは言われなくても分かるので迷うことなく、即座に頷いた。その後で、ハンゲイトの言わんとすることを理解した伍堂はハッと目を開く。


「わかったようだな。その壁で身を守りながら戦おうとすると剣では具合が悪い。槍を使わせたいところだが、心得は無いだろうからなそこが不安だ」


「だったらこの村に銃がありますよね。それを使わせてもらえませんか?」


「正気か?」


 即応である。


 伍堂の問いに対し考えもせずに返事が返ってきた。否定されるならまだしも、ここまで言われてしまうと気分が悪い。ライドンなら擁護してくれるだろうと視線を向けたが目を逸らされた。


 ではボネットならと目を向ける。否定するような様子は無かったが苦虫を噛み潰した顔を浮かべつつ首を傾げながらも口を開いた。


「ハンゲイトさん、ゴドーさんの提案は一考する価値があるんじゃないでしょうか」


「ボネットも何を言うんだ。銃だぞ、あんなものすぐに使えなくされてしまうのがオチだ。そんなものを使わせるわけにはいかん」


 腕を組み声を荒げはじめたハンゲイトだったが、ボネットは怯みもしなかった。


「ゴドーさんに使わせたくない理由は分かりますよ、魔法を使ってくる相手だったら銃は使えません。ですが敵はゴブリンですし、魔法を使うシャーマンがいると決まっているわけではないですし」


「あぁそうだ。魔法使いがいないのなら銃は有効な武器だろう、あれは操作方法さえ覚えてしまえば強力だからな。そうでなければ猟師が使うはずも無い。しかしだ、近づかれたときにどうする。練度を高めても数十秒に一発しか撃てんのだぞ、間違いなく接近を許す。その時にどうするんだ?」


「じゃあ銃剣付けさせてもらえませんか、そうすれば槍みたいに使えるはずなんです……けど、あの……どうしたんですか?」


 至極当たり前のことを言ったつもりなのだが、この場にいる全員が呆気に取られた顔をして微動だにせずに伍堂を見るものだから不安が襲ってくる。


 言葉を続けようとしても適当なものが思い浮かばない、僅かにとはいえ動揺してしまい何度か口を開きかけながら三人の顔を順繰りに見ていくばかり。


「銃剣っていうのはなんです……? 私、始めて聞く言葉なのですけれど」


 ボネットが尋ねるのだが伍堂には信じられないことだった。彼とは知り合いになって数日も経っていないが博識なイメージを抱いている、そのボネットが銃剣を知らない等ということは有り得ないはずだ。


「銃剣は銃剣ですよ。あの、ハンゲイトさんとライドンだったら知ってますよね?」


 ボネットは魔術師だ、博識であっても武器に関しては知らないことが多いのかもしれない。けれど専門家の二人なら知っているに違いない。


 そう思って尋ねたのだが、ハンゲイトもライドンも揃って首を横に振る。


「あの、本当に知らないんですか?」


 そんなまさかと思いながらも念を押してもう一度確認を取ったが、彼らの返事は変わらない。


「名前からすると銃に手を加えたものだと想像します、恐らくですが銃身に剣を取り付けたものではないかと思うのですね。そうすれば槍のようにも使えるようにしたものではないかと、合ってますか?」


 自信が無いのかボネットの声はやや小さかったが、彼が言葉を発するたびに伍堂は何度も首を縦に振った。


「そうですよ、それですよ。ボネットさん知ってたんじゃないですか、こっちでは別の呼び方があったりするんですか?」


「いいや、そんなものはない」


 ハンゲイトはそう言い切ったのだが俄かに信じがたい。きっと知らないのはハンゲイトだけで、ボネットはどこかで実物を見たに違いないのだ。


「ハンゲイトさんの言うとおりです、私は銃剣という名称からそうではないかと推察したものを口にしただけです。そういったものを見たことは無いですし、銃剣という単語は今ここで初めて耳にしました」


「え、でも……そんな――」


 そこまで言ったところで伍堂は口をつぐんだ。


 考えてもみればこの世界は日本よりも科学技術は進んでいない。銃だって火縄を使うタイプだし、それも普及していないようだ。それなら銃剣という発明がされていないことだっておかしくないだろう。


 ただそれでも、あんな単純なものがという気持ちが伍堂の中にあって、銃剣が発明されていない事実は納得できないところがあった。


「これも推測なんですがゴドーさんのいた世界では銃がかなり普及していて、主力となる武器なのではないかと思います。銃を主な武器として使っていたのなら、なるほど銃に剣を取り付けて近距離に対応できるようにするという発想も産まれやすいでしょう」


「はい、そうです。僕のところでは剣なんか使って戦うことなんてほとんど無くって、兵士が持つ武器っていうと銃でした。それも火縄銃なんかよりも遥かに進んだ銃で、引き金を引いている間ずっと弾を撃ち続けられる、アサルトライフルっていうんですけどそういう銃を使っています」


 言い終えた後で慌てて口を押さえた。これは間違いなく失言だ。


 日本の、もとい伍堂の世界の方がこの世界よりも優れているとアピールするに等しい発言だ。住んでいる地域どころか世界を馬鹿にされたと受け取られてもおかしくない。


 しかしそれは伍堂の杞憂だったようで、ライドンは何のことかわからずに首を傾げ続けているし、ハンゲイトとパウエルの二人は興味津々といった様子で時折何かを考えているような仕草を見せていた。


「ハンゲイトさん、この場に師父パウエルが居たのならばきっとこう言ったはずです。ゴドーに銃を使わせるのはどうだろう? いや、銃を中心にした部隊を編成しその指揮を彼に取らせてみないか、と」


「そうだなボネット、よく理解しているじゃないか。パウエルならきっとそう言っただろう、そしてこう続けるだろうな。ハンゲイト、君もそう思うだろう? とな、そして私はこう返す。同感だ、ぜひやってみよう、と。そうなれば決まりだ」


 口元では笑っていてもハンゲイトの目は笑っておらず、その視線が伍堂へと向いた。


 とんでもないことが決まってしまったという確信があり、言わなければ良かったんじゃないかという後悔が湧き上がる。


「銃が扱える村人を集めた即席部隊を編成する、ゴドーはその指揮を執れ。初めての実戦で指揮を執るというのは不安だろうが心配は要らない、一人でやれ等と私は言わない。補佐としてボネットを付ける、良いと思ったことをやれ。失敗は恐れるな、一人ではないんだボネットは傍にいるし私とライドンだってサポートしてやれる。だから重ねて言うぞ、後衛の指揮官はゴドーだ良いと思ったことをやれ迷うんじゃないぞ。わかったな!?」


「は、はいっ! わかりました!」


「よし! ライドンは私に付いて来い、人をまた集めねばならん。ボネットはゴドーを良く補佐してやれ、いいな?」


 ボネットそしてライドンの二人がハンゲイトに返事をすると彼らは動き出した。ハンゲイトとライドンは揚々としながら村の中心へと戻り、後には伍堂とボネットが残される。


 つい威勢の良い返事をしてしまったが、指揮官をやれと言われて出来るはずがない。これが突然でなく、事前に通達されていたとしても指揮官など出来るわけがなかった、伍堂自身は人の指示を出す立場になれるほどの度量がないと思っているし、今までそんな経験をしたことも無かった。


 緊張で胃が締め付けられるだけでなく呼吸も荒くなりそうだったが、それはなんとかして落ち着けることができた。今ここで騒いだところでどうにかなるわけではないのだ、やれと言われてしまったのだからやるしかない。覚悟を決めるしかないのだが、それをどうやれば良いのか分からなかった。


「落ち着いてやればいいんですよ。まだ人は集まっていませんから指揮官として立ち回らなければならないのはもう少し後になります、今はその時に備えましょう」


 ボネットの声音は優しく労わるようなものだったので、伍堂の緊張も少しだけほぐすことが出来た。


「備えろと言われても、僕にはどうすればいいのかわかりません……」


「備えというのはどう戦うのかを考えること。そう難しいことではないはずですよ、戦場になるのはこの一帯なのです。まずは辺りを良くみて見ましょう。ゴブリンはどこから来るのだろうか想像しましょう、それを銃で迎え撃つならどこに射手を配置するのが良いのか考えてみませんか?」


「観察して……考える……」


「えぇそうですとも、私も銃を使った戦いというのは良く分かりません。あれは強力な兵器に成りえるだろう能力があるのは理解しているのですが、私達の戦いでは使うことがありません。ですのでそれを効果的に使う戦術というのは、銃の知識があるゴドーさんに考えてもらうしかないのです」


 そんなことを言われたところでそんな能力も経験も自信もない。ボネットが助力してはくれないだろうか、そんな期待を抱きながらそれとなく視線を向けるが彼はリラックスしたように肩の力を抜いて周囲の景色を楽しんでいるように見える。


 伍堂の方を見ようともしない。この様子では助けを望めるはずも無い、弱音を吐いて逃げ出したい。それは紛れも無く本音ではあるが、ここで立ち向かいたい頑張りたいというのも本心としてある。


 どうしてそのような気持ちが出てくるのか分からないし、二つが相反しているものだからどちらかは偽りではないのだろうかという気もしてきた。


 そんなことを考える時間など無いというのは理解していても、そこばかりに意識が向いてしまう。考えないようにしようとすればするほどに逆効果になってしまい、徒に時間を費やしていると辺りが騒がしくなり始めていることに気づいた。


 いつの間にか下を向いてしまっていた顔を上げると村民たちが集まっていた。ざっと見た限りでは一〇人ほど、みすぼらしくはあるが動きやすそうな服を着ており手には一様に銃を手にしており、ハンゲイトが指示したらしく銃身の先にはナイフが革紐で括りつけられていた。


「俺たちの指揮官はこっちに居るからって、隊長さんに言われて来たんですけれど……その、指揮官さんはどちらです?」


 集まった村人の中で年長に見える男が一人、集団から一歩前に出て尋ねながらもその視線はボネットへと向いていた。伍堂とボネット、どちらが指揮官に見えるかとなったら誰だってボネットを指すだろう。


 そうして視線を向けられたボネットはにっこりと彼らに向けて微笑を浮かべてから伍堂を指差した。


「指揮官は私ではなくこちらのゴドーさんです」


 年長の男だけでなく集められた射手達の視線がゆっくりと伍堂へと集まる。

「随分若いというか、言ったら悪いけれどまだ子供のように見えるのですが……本当にあなたが私達の指揮官なのですか?」


 投げかけられた問いに頷くと場がざわついた。


 無理も無い、伍堂はまだ一九だし自信の無さが仕草に現れている。集まった彼らが不安に思うのは仕方の無いことだろう。


「まだ若いですけれど実力は確かなものですよ。昨夜に村を襲ったゴブリンを両断したのはゴドーさんですし、こと銃に関してましては隊長のハンゲイトよりも彼の方が精通しています」


 ボネットの発言に伍堂は慌てた。この言葉を聴けば彼らは伍堂に対して期待するに違いなく、実際に伍堂を見る村人の眼差しには感嘆が混ざり始めている。


 しかし伍堂はそのような視線を向けられることに耐えられない。ボネットの発言を否定しようと口を開こうとしたが、ボネットは機先を制してそっと伍堂に歩み寄ると村人たちに聞こえないよう囁いた。


「こう言わないと彼らは言うことを聞いてくれませんよ。大丈夫です、自信をお持ちなさい」


「そんなこと言われたって困りますよ……僕、銃なんて撃ったことないんですよ」


 ボネットの目が大きく開かれて肩が動いたがそれは一瞬のことで、動揺を見せまいとすぐに平静を取り戻していた。


「本当ですか? 当然のように銃を使いたいなんて言うもんですから経験があるのかと思っていましたよ。けれど今更どうにもなりません、補佐は致しますから何とかお願いします」


 自業自得の四文字が頭の中に浮かび上がってくる。


 ボネットから視線を逸らし盗み見るように村人たちを見てみれば、何が始まるのか楽しみにしているらしく目を輝かせていた。


 またボネットへと目を戻すと、彼の瞳を真っ直ぐに見据え下唇を噛みながらではあったが伍堂は力強く頷いてみせた。大きく息を吸い込んでから村人たちに正面を向ける。


「僕がみなさんの指揮を執るゴドーです。何をするか伝える前に幾つか確認したいことがあります、まず皆さんが使っている銃を見せていただけませんか」


「それなら俺のをどうぞ、皆同じのを使ってます。ちょいとばかし古いもんですが、ヘフナー工房が作ったやつで作りはしっかりしてて頑丈なやつです」


 年長の男が自信満々に銃を渡してくれたのだが、銃の品質といったものに関してはさっぱりな伍堂であるがそういった様子を見せてはならないし気取られてはいけない。


 内心怯えながら受け取った銃はずしりと重く鉄の塊を持っているようだった。訳知り顔で頷きながら銃の構造を観て行く、本物を見るのも触るのもこれが初めてなのだがインターネットで見たマスケット銃と同じようである。


 弾の込め方さえ分かればきっと自分にも使えるはず。いいや、使えるに違いないのだと己を鼓舞させながら銃を返した伍堂が周囲を見渡すとピラミッド状に積み上げられた土嚢があることに気づいた。距離はざっと見たところ一〇〇メートルあるかどうかといったところ。


 これはちょうど良い者があったと、伍堂はそのピラミッド状の土嚢を指差す。


「ありがとうございました。では次にあそこに積まれている土嚢がありますよね、あれの一番上にあるものを撃ってください。皆さんの射撃の腕が知りたいのです、一人三発ずつ撃ってみてください。撃つときは一人ずつ、僕の合図を待って撃つようにしてくださいね」


 従ってくれるかひやひやしていたところはあったが、伍堂の不安は的外れなものだった。村の男たちは嫌な顔をひとつもせずに口々にわかったと言うと、それぞれの銃に弾を込め始める。


 その一連の動作を頭に叩き込むため注視しながら、装填が終わるのを待った。


「装填が終わったようですね、では始めましょう」


 そうして一人ずつ撃たせていく。生で耳にする発砲音は耳をつんざく雷鳴のような心地がしたのだが、不思議なもので数度と聞くうちに慣れてしまっていた。


 伍堂は口にこそ出しはしなかったが、命中精度を気にしていた。しかしそれは心配がなさそうで、一〇〇メートル離れた的を外すものはいなかった。だが中心に当たった弾はない。


 頭や腕、そういった部位をピンポイントに狙うのは難しそうだが、もっと精度は低いだろうと考えていた伍堂にとってこれは意外な結果であり気を楽にしてくれた。


 もっとも再装填に必要な時間は想像していたとおりで、人によって違いはあるが大体一分間の間に一発か二発撃つのが精一杯なようである。


「どうですか?」


 村人たちに聞こえないようにボネットが小声で尋ねてきた。うーんと小さく唸りながら伍堂はゴブリンがやってくるだろう森を見た。


「そうですね、後一〇人欲しいかな……銃の数よりも、撃つ人と弾を込める人を分けたいです。僕の世界ではオーソドックスなやり方、だったはずなんですよ」 


「ふむ、そこを分けて次弾発射までの間隔を短くしようということですか。ではその辺りの交渉は私がやってきましょう」


 ありがたい申し出に胸を撫で下ろし、年長の男のところに向かうボネットの背中を眺めながら伍堂はその場に腰を下ろす。


 視線の先はまた森へと向いていた。


 これでよかったのだろうか、上手くいくのだろうか。幾らなんでもハンゲイトの決定はいい加減過ぎやしないだろうか。


 危惧したところで今更どうしようもない、逃げられるわけでもない。覚悟を決めなければならない、腹を括らなければならない。力強く生えた雑草に焦点を合わせて大きな溜息を吐いた。


 夢を見ているような気がする。


 何となしに目の前の雑草を掴んだ。表面は乾いていたがそのまま握りつぶすよう力を込めると、手のひらにべったりと緑の汁が付着する。手を嗅げば濃厚な緑の臭いが鼻についた。


 その臭いの強さにこれがやはり夢ではないのだという実感を得た伍堂は立ち上がる。ちょうどボネットがこちらに戻ってくるところだったのだが、顔色は浮かない。上手くいかなかったことは明白で、伍堂も肩を落とした。

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