第4話 チュートリアル(1)
出された食事を残すのは気が引けたが、胃は緊張で縮んでしまったようで何も入れられる気がしない。残念さと申し訳なさを感じながら手にした食器を置くとパウエルが壁際に控えていた女中たちへと目配せする。
途端、あっという間もなく綺麗にテーブルの上の食器が下げられ二人の前に紅茶の入ったティーカップが置かれた。パウエルは湯気の立っているそれに早速口を付けると満足げに腹を撫でる。
彼がそのまま飲んだことに目をしばたたかせた。ティーカップに注がれているのは赤褐色の紅茶で、テーブルの上にはミルクも砂糖も置かれていない。まだ運ばれていないだけなのだろうかと、女中たちを見たが彼女たちは壁際で微動だにせず待機していた。
「紅茶は嫌いかな?」
「いえ、そういうわけではないのですけれど……あの、ミルクとか砂糖とかは……」
「君の住んでいたところでは紅茶にそういったものを入れて飲むのが普通だったのかな?」
好奇の表情を浮かべながら紅茶を啜るパウエルをじっと見ながら小さく頷く。
「そうか。君のいたところは私たちよりも裕福らしいね、私たちも紅茶に牛乳や砂糖を入れて飲むさ。そっちの方が美味しいからね、ただ新鮮な牛乳や砂糖といったものは値が張るのさ。客人をもてなしたり、午後のティータイムならば話は別だが食後の一杯の紅茶はそのままで飲むのが普通なんだよ」
「わかりました……」
実際に出た声は出そうとしていたものよりも音が小さかったことに驚く。当たり前だと思っていたものが当たり前ではなかった、そのことが相当な衝撃だったらしい。
砂糖すらも入っていない紅茶を飲むのは初めてだな、そんなことを思いながら一口啜る。今まで飲んできたコンビニや自動販売機のものとは違う。一言でいえば香り高い。
口に含んだとたんに茶の香りが柔らかく広がり鼻を抜け、味も濃くこれは美味しいと思ったのもつかの間のこと。喉を過ぎると舌の上には渋みがやってくる、紅茶にこんな渋みがあるものとは知らなかった伍堂はつい口をすぼめてしまい、それを見たパウエルは声を出して笑った。
「砂糖を入れないと渋いからなぁ。なぁにそれもすぐに慣れて、そのうちに渋みも含めて茶を楽しめるようになるさ」
伍堂の見せた反応が彼にとっては楽しいものだったのか、うんうんと頷き笑顔のまま紅茶を啜る。笑われた伍堂の方はといえば肩を縮こまらせていた。
その後は会話もなく、自然の音を聞きながら時間が過ぎていく。数人の女中たちが立っている壁際から何の音もしないことがどこか不気味に思えるほどだ。
二人して紅茶を飲み終えて一息ついた時、唐突にパウエルが手を叩いて音を鳴らした。静寂の中に突如として響いた音に伍堂の肩が跳ね上がる。
「そろそろ行こうか」
「どこにですか?」
「食後の運動だよ」
片目を瞑って茶目っ気を出そうとしたパウエルだが、彼は熊のような大男だ。そんな彼がウインクなんてするものだから、つい怖気にも似たものが走り背筋が震える。
冗談でやったウインクがうけなかったものだからパウエルは不服な表情を浮かべながら立ち上が 、付いて来いと言うように手招きをするので後を付いていく。
先に出て行ったハンゲイトと何か関係があるのだろうかと、一度屋敷の外に出て渡り廊下で繋がった四角い石造りの建物へと入る。ただ何となくではあるが、伍堂にはその建物の外観から体育館のような印象を受けた。
その印象は概ね正しかったようで、内部には柱が無く広い空間が広がっている。床は板張りではなく石畳で、目を凝らしてみると血が流れたようなどす黒い跡がそこかしこに存在していた。
採光用の大きな窓があるとはいえ、全体的に薄暗く感じるこの屋内で血痕を目にすると物々しい雰囲気を感じずにはおれずつい尻込みしてしまう。
そしてこの広い空間の真ん中にハンゲイトは立っていた。食事の後に着替えたらしく服が違う、薄汚れ綿がいっぱいに詰まっている妙に膨らんだ服を着ており手には木剣が握られていた。
「早く入って来い!」
大気が震え圧力すら感じるほどのハンゲイトの声が響く。気圧され、つい後退った伍堂の動きを彼は見逃さなかった。眼光を鋭く輝かせながら木剣を石床に叩きつけると同時にまた同じ声量で入ってくるように促す。
だが動けるわけがない。蛇に睨まれた蛙のように伍堂はハンゲイトから視線を逸らすことすらできず、まったく身動きが取れなかった。後ろを向いてすぐにでも逃げ出したいが、背中にはパウエルがいるし目を逸らそうものならその瞬間にハンゲイトが木剣を投げつけてきそうな雰囲気すらある。
「逃げずにいるは良し! しかし臆するな! 臆したというなら声を出せ! さぁ!」
言われたからといって出来るものではない。無理だと思いながらも恐怖からハンゲイトに逆らえず、声をひりだすとどう形容したら良いかわからない気の抜けた悲鳴のような声とも音とも取れないものが口から出た。
「よぅし! とりあえず声は出たな、ならば少しは楽になったろう。次は腹に力を入れてもっと大きな声を出せ、私のように低く太い声を出すんだ! さぁ!」
情けなく恥ずかしい声ではあったがハンゲイトの言う通り、そんな声でも出してみれば強張っていた全身の筋肉が少しリラックスしたような気がする。ならハンゲイトの言う通り、腹に力を入れてみればできるのではないか。
出なかったらどうしようという気持ちは頭に浮かんでいたが、それでも息を大きく吸い、臍の下あたりに力を込めて声を出した。なんという音が出たのか自分でもわからない、ただとにかく大きな声をだそうとしたら自分でも驚くほどの声が出たのは確かだ。
自分でも驚いていると、前後から小さな拍手の音がする。
「よし、声を出せたな。さっきよりも体が楽になっているはずだ」
情けない声を出した時よりも体が楽になっている。逃げ出そうとして浮いていた踵もいつのまにかしっかりと床に付いていた。緊張しながらも身体を動かそうとすると、思っていたよりもスムーズに足は一歩を踏み出してくれる。
「声を出すのは大事だ。今、実感しただろうが恐怖を吹き飛ばしてくれるし敵を威圧することもできる。大きな声や音というのはそれだけで武器にもなる、わかったならこっちにきてこれを受け取れ」
ハンゲイトが木剣の柄を向ける。彼の言葉を理解したことを伝えるために頷き、ハンゲイトへと近づいて木剣を受け取った。
「ゴドー、君がこの世界で生きるにあたり大事な技術を教える。戦う術だ、君の住んでいた世界ではどうだったか知らない。だが我々のこの世界には危険が溢れている、街の外にいけば盗賊や危険な怪物どもがうろついているし、街の中にだって悪漢はいる。そういった連中から身を守るには武力が必要だからな、悪いが有無は言わせない。私の教えに従い、君には強くなってもらう」
いきなりそのようなことを言われても困る伍堂だったが、ハンゲイトの瞳にはイエスという返事以外は認めない力強さがあった。その目力に圧倒されたのもあるが、彼の言うとおりにすれば強くなれるそうだという期待が伍堂の首を縦に動かしていた。
ずっと引きこもっていたとはいえ伍堂も男である以上は、強さに憧れているところが少なからず存在している。思い返してみればFPSゲームを好んでプレイしていたのも、強さへの憧れがそうさせていたのかもしれない。
「では最初の訓練といこう、さっきのように声を出せ。何度も、あの壁に向かってな」
ハンゲイトが指さしたのは何もない壁だった。木剣を手渡されたのだから素振りや型稽古を行うものだとばかり思い込んでいたため、何だかショックで肩が下がるとハンゲイトが腹を殴ってきた。
彼からすればじゃれる程度に小突いただけだったのだが、ハンゲイトが想像していた以上に伍堂の肉は薄くえづきそうになる。
「剣の練習をしないことが不服そうだったが、声出しから始めるのは軽く小突いただけで苦しそうにしていてはいかんからだ。腹の筋肉というのは重要な肉だ、打撃から臓腑を守ってくれるだけでなく、いざ攻撃だという時に力を生み出す要因となるからだ。わかったかな?」
殴られたばかりの腹を押さえながらなんとか頷いた。これは思ったよりスパルタな訓練になりそうで、さっそく後悔しそうになったがハンゲイトの言う事は理に適っているように思う。
胃の辺りに不快感を感じながらも背筋を伸ばし、声を出しやすいように足を肩幅に広げる。そして息を吸い、吐くと同時に壁に向けて声を出した。
これで良いのだろうかとハンゲイトの顔色を窺うと、険しい表情で次を催促される。また壁を向き声を出す、そうするとまた次を求められたので何度も何度も腹の底から声を出した。
一歩も動かずに声を出していただけなのに身体は熱くなってくるし、喉も当然痛くなる。そうなると声は小さくなってしまうが、ハンゲイトは続けるようにとしか言ってくれない。だんだんと肩で呼吸をするようになり、背中を曲げると腰を叩かれ背筋を伸ばすように指摘される。
息をするだけでも辛くなってきた頃、ようやく声出しが終わった。休憩の許可が出ると同時に伍堂の身体は崩れ落ちるようにしてその場にへたり込んだ。
額に汗を浮かべながら口を大きく開けて喘ぐように息をする、ただ呼吸をするだけで苦しい。これ以上は声を出せそうにないし、動きたくもない。そんなことを考えているとハンゲイトに腕を掴まれ、無理やり立たされる。もう少しだけ休ませて欲しいと主張してみたが通ることはなかった。
木剣を握らされ、構えるように言われたのでそれらしく構えてみる。それらしい構えはそれらしい以上のものではなく、そしてハンゲイトの要求を満たすものではなかった。姿勢の悪い箇所を叩かれ矯正されていき、それが終わると素振りが始まる。
何も考えずに漠然と木剣を振っていくと背中を強く叩かれた。
「キレが悪い。何のイメージも抱かずにただただ剣を振っているのが丸わかりだ、それでは意味がない。いいか、敵をイメージしろ。目の前に敵が立っていると思え、そいつの頭をかち割ることを念頭に置きながら剣を振るんだ。いいな?」
頷き構えなおして剣を振りかぶるが、敵のイメージが湧いてこない。ここ一〇年以上、喧嘩もしていないのに目の前に相対している人間を想像しようとしても無理があった。
それでも何とかハンゲイトが言うように眼前の敵を想像してみようとしたのだが、やはり出来ない。木剣を構えたままの姿で立ち尽くしていると、目の前にハンゲイトが立ちはだかる。
「こうすれば想像する必要はないだろう。さぁ、私の頭をかち割ってみろ!」
喉を鳴らして唾を飲み込み木剣を振りかぶる。ただそこから動くことが出来ない、このまま振り下ろせば間違いなくハンゲイトの頭に当たる。
「そのまま振り下ろせ! さぁ! 私を敵だと思え!」
激励されても振り下ろすことは出来ない。彼は避ける自信があるのだと思う、けれどもし何かの間違いがあればどうなってしまうのか。
手に持っている剣は木製といえどそれなりの重さがあった。これが頭に直撃すれば、頭蓋骨を割ってしまうことまでは無いだろうが致命的な一撃に成り得ることは素人の伍堂にだって分かる。
ハンゲイトの激励は続く。けれど振り下ろすことは出来ない、流石にこれ以上は無理だと彼は悟ったらしく溜息を吐いた。ゆっくりと木剣を下ろすと、その先端が石畳へと触れた。
「すみません……」
伍堂の口からは謝罪の言葉がこぼれ出る。溜息を吐いたということは失望させてしまったということ、それが何とも言いがたいほどに申し訳なく肩が震えそうだった。
罵倒されるかもしれない、説教をされるかもしれない。だが悪いのは自分だ、甘んじてそれを受け入れるしかない。立ったまま頭を垂れてハンゲイトの叱りを待っていた。
しかし彼は伍堂の想像とは裏腹に怒りを微塵も伏せることは無く、伍堂の頭に大きな手の平を乗せると優しく撫でるだけだった。俯いたまま上目でハンゲイトの表情を伺うと、苦虫を噛み潰したようなそれではあったが笑顔と呼んでいい表情を浮かべている。
「君は優しいんだな。もし私の頭に当たれば、とかそんな想像をしたんじゃないか?」
その通りですと無言で頷いた。
「そうやって想像できるということは素晴らしい事だ。しかし、ほんの少しで良いから私を信じてもらえないだろうか。言い方が悪いのは承知の上だが、剣の修練を始めたばかりの人間に一太刀入れられてしまうような私ではない。それでも無理か?」
「はい……やっぱりどうしても、当たってしまったらと思うと怖いです」
「よぉし、それなら私の平手打ちをしてみせろ。ほら、私のを頬を手の平で叩くんだ。それなら怪我もさせないだろう?」
「そうですね、ビンタだったら大丈夫だと思います」
「ならば早速やってみせてくれ」
ほらほらと挑発するように笑いながらハンゲイトは伍堂と視線の高さを合わせ、指で自らの頬を指し示す。
この平手打ちにどのような意味があるのか伍堂には推測することが出来なかったが、彼には考えがあるのだろうと信じて思いっきり腕をしならせた。
「あ、あれ……?」
ハンゲイトの頬を狙ったはずなのだが、伍堂の手は空を切っていた。彼が特に動いた様子は見えなかったにも関わらずだ。
何をしたのだろうかと考えていると、もう一度やるように催促されたので再度の平手打ちを試みたが結果は同じだった。ちゃんと狙ったはずなのに、伍堂の指先はハンゲイトの頬を掠めるだけで当たりはしなかった。
「不思議だろう? だがそういうことだ、君の腕ではまだ私には一撃を入れることはできない。というわけでさぁ剣を握りなおせ、もう一度私めがけて剣を振り下ろせ」
言われるがままに木剣を握り振り下ろす。勢いの乗ったその先端が彼の頭に落ちるかと思いきや、切っ先は彼の鼻先を掠めるかどうかといった所を通り過ぎた。
どうしてそのような避け方が出来るのかと驚いてしまったがために、剣を止めるのを忘れてしまい激しい音が響くと同時に手が衝撃で痺れ木剣を取り落とす。剣を拾うのも忘れ痺れる右手を押さえた。
「これで分かったか? まだゴドー君の腕では私に当てることは出来ない」
右手の痺れは取れそうに無かったが屈みこんで剣を拾い握りなおすと、ハンゲイトは腕を組み胸を張って自慢げに伍堂を見下ろしてくる。
見下されたこともそうだが、余裕を持って避けられたのが悔しく歯を食いしばった。しかしそれも一瞬のことで、すぐにそれは当然のことだと囁いてくる内なる自分がいた。
伍堂は今まで剣の稽古なんてしたことがなかった、体を鍛えていたといっても筋肉を付けてちょっと家の近所を走っていただけ。
そんな伍堂が剣を振ったところで、その道のプロであるハンゲイトに当たるはずがないことは自然なことで悔しさを感じる等というのはお門違いというものだ。何かを感じる必要なんて無い、溜息と共に感じていた悔しさも出て行った。
「なぁ今の溜息はなんだ?」
「いえ、何でもないですよ。続き、良いですか?」
木剣を構え稽古を再開しようとしたが、ハンゲイトは首を横に振った。よく見れば、彼の目は据わり萎縮してしまいそうな威圧感を感じる。このまま稽古を続けるのは良くない気がするが、かといってどうしていいか分からず剣を構えたまま立ち続けた。
「何でもいいわけが無い。溜息と共に君の中にあった覇気が消えたように見えた、どうしてなのか私は知りたい。教えてくれないか」
言葉こそ丁寧ではあったがハンゲイトの声は低く、有無を言わせない雰囲気があった。それが怖く、伍堂は構えを解き身を縮こまらせる。
知らずのうちに顔を俯けると、ハンゲイトの手は伍堂の頭をつかみ無理やり目を合わせる。見開かれた目は内側を覗いてくるようで、視線を合わせるだけだというのに酷く恐ろしく視線を逸らしたかった。しかしそれをするのも恐ろしく、目を合わせるしかない。
ハンゲイトは何も言わない。伍堂が話すのをじっと待っていた。話さずには終われない、黙っていれば何時間でも彼はこうしているような気さえする。
今感じたこと考えたことを口にすれば良いだけなのは分かっていた。ただそれを話すのが怖かった。話すだけなら良いのだが、彼に何か言われるかもと思うと否定されそうな気がしてしまう。
とはいえ沈黙し続けていればきっと何時間もこのままだろう、それも辛い。二つを天秤にかけ、ついに観念した伍堂が喋ろうとして口を動かすとハンゲイトの手が離れた。
「ハンゲイトさんに避けられたのが悔しかったんです。いえ、避けられるのは分かっていました。けれど余裕を持って紙一重で避けられたのは、平手打ちでそうなるだろうというのは分かっていてもやっぱり悔しかったんです」
ハンゲイトは何も言わない。相槌を打つことはあっても、じっと伍堂の言葉に耳を傾けていた。
「けどハンゲイトさんは強い剣士だと伺っていますし、触り程度でしたけど武勇伝も聞きました。そんな人に僕が当てられるはずはないのだし、悔しいと思うのはなんと言うかおこがましいと思ったんです」
「だから悔しさが消えた、そう言いたいのかな?」
「はい、そうです」
話している間、ハンゲイトは決して目を逸らそうとはしなかった。瞬きしたのかすら怪しいほど、じっと目を見ながら伍堂の話を聞いていた。
感じたことを全て口にした後、ハンゲイトはすぐに口を開こうとはしなかった。険しい顔のまま、伍堂を見つめ続けていた。
「そうだな。君の言うことはもっともだ、私は国を挙げての剣術大会で優勝したこともある。この国で一番の剣士だと自負しているし、それを疑うものもほとんどいないだろう。そんな私に一太刀浴びせようというのはおこがましいだろう」
「ですよね……」
「しかしだ、大事なのはそこではない。おこがましくはあれど、君は悔しさを感じたのだろう? その悔しさは大事にすべきものだ、そんな簡単に捨ててはいけない」
「けど――」
伍堂の言葉を遮るようにハンゲイトは首を横に振った。
「悔しさはバネになる。為そうとしたことが出来なかったとき、人は悔しさを感じる。そしてその悔しさを糧に、人は修練を積み次へと進むんだ。ゴドー君にだってそんな経験がありはしないだろうか?」
尋ねられたところですぐには出てこなかったが、伍堂にもその経験は確かにあった。
初めてFPSゲームをオンラインでプレイしたときの事だ、オフラインでのソロプレイで実力を付けて挑んだつもりだったが手も足も出ずに負けてしまった。その時に悔しさを感じ、次は負けない、自分を撃った相手を負かしてやる。そんな気概を抱いたのではなかったか。
「その様子だと経験があるようだな」
頷くと伍堂の肩にハンゲイトが手を乗せた。重く、力強い手だった。その重さと力強さは、自分を認めてもらえたかのようで嬉しかったし暖かく感じる。
「では続きを行おう。悔しさを忘れず、私に一太刀浴びせてみろ! さぁ、声を出せ!」
「はいっ!」
伍堂の返事は力強い。ハンゲイトは笑いながら頷き、稽古が再会された。
当然伍堂の剣が当たることはなかったし、ハンゲイトは笑顔を浮かべ余裕綽々でそれを避け続け掠る気配すらなかった。
それが悔しく、必ずその笑顔を崩してやるのだという気概が伍堂の中に生まれた。
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