短歌 裏ブタの上に腰かけて

口井戸大介

裏ブタの上に腰かけて

銀の箱 裏ブタの上に腰かけて射る矢を空に空に矢を射る



朝起きてすぐ作る塩ラーメンに卵割り入れて夏の終わり



サイレンが遠く聞こえる踏切で呼ばれたような声がした けど



寄り道をしようとしたら工事中ビニール傘に無数の気泡



骨と皮 肉と血管 ソファに手 鼻で空気を切り裂いている



締め切った部屋の空気を分け合って本という名のボンベを開く



電源を切ってから寝る温度差でずっと揺れてるカーテンを見る



三人で走る夜道は聞き取れない声掛け合ってここからは「寒」



すり抜けて着地ものおとひとつなし(すたっ)と掛け声(起きてないよね?)



飼っていた道路がとうとう食べたらしい早起きでもないのに人がいない



灰の婦人レディグレイ紅茶の霜を吹き払いこたつ布団の下のスイッチ



フロ上がり戻ってくるとあんまんが豚まんになっているそんな日



千円札呑んだ自販機ご満悦ジュース小脇に三度食まれる



マイナスを混ぜろ戦う位置につけ さんざめく穂が火を呼んでいる



車道脇ヒザ先むいた友のため薬を持って僕は走れた



カンニングを暴こうとする他人の眼に:書架、椅子、机、蛍光灯、ぼく。



手を振った小鳥羽ばたき猫が跳ぶ慌てた車はハンドルを切り



色鉛筆五本でぎりぎり足りるかな丸めた指の先の薄焼け



アスファルトべたつく街を人が往く四肢の先から飴溶かしをり



歯車がピタリとはまる快感に全能感を禁じ得ません。



曖昧でグレーなはさみを入れていく伸ばす手のそば嗤う幽霊



リコーダーが吹けないぼくに先生が「吹いたふりだけしてればいいよ」



痛がっている頭をさする埼京線 車窓の先に澄みゆくすべて



スマブラに誘われ箸を落っことす子供たちから友達たちへ



バイパスはおそろしい場所 闇光 変わらぬ景色 闇光闇



これはそうラフ・メイカーを喚ぶ儀式ドアのガラスを水筒投げて割る



甲は厭う半眼の乙は嗾す丙よ眠れる儘の制服



( がいない)ビル、川、空と濡れた路 夕陽の緋(あか)を気にしないもの



図工室凍った針のその理由わけは怪獣が着るふたりの着ぐるみ



洋風の朝食を前に目を逸らす昨日のことを思い出すから



遊戯にて干戈交えぬものはなし行き交う人の手は血に塗る



見知らぬ、セーブデータを読み込んで 燐光の舞う濃霧の樹海



呼吸する車内の風が凪ぐせつな言祝いでいるランドセルの子



空を切る――人を斬るたび/罪を着る ; ナイフは尚も床頭台に



充電を忘れても問題はない 電池で動く動け動いた



「こんばんは。あなたが未来のぼくですか。一人称は変わっていますか」



領収証 三月六日の朝九時前 桜散る日に切符を買った



飼育する際は周囲を電線で囲んで空を切り取ってから、



手のひらにシャワーを当てると即☆爆誕 イソギンドンは去る者追わず



降り注ぐ隕石を眺める夜半 当たりはしない何があっても



いつかどこか誰かが離した衛星が今でも僕の周りを回る



眩しさを憶えて微睡む目をひらく陽を差し返す本の断面



ただ熱いと思う客間の盆に載るコップの水はふるふる揺れる



抜け出すと不思議に響くリノリウム小さく開いた窓に「ごめんね」



砂、瓦礫、朽ちた標識踏み抜いて泣いてはいない消させはしない



炭酸が抜け切る前に飲みかけのコーラが甘くなくなる前に



君に会おうとして落とした紙切れに退路を断たれたふたりが笑う

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短歌 裏ブタの上に腰かけて 口井戸大介 @solis_quale

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