第3話
ヴァイスに無理やり黒いマントを被せられ、路地裏に連れ込まれる。ウーゴは黙ってヴァイスについていく。
暫く進んでいくと、なにやら競りをしている会場を見つけた。
「やい!この女!えぇ!?いいだろう!? それじゃあね!」
などといいながら値段を提案していく。俗に言うところの人身売買であるが、エマが政権を握らぬ今、そんな細かいところまで監視が行き届かないのが現実である。
ちなみに、現在はエマの姉が変わりに政治を行っている。エマほど評価は高くないが、それなりに高くはある。
ヴァイスに手を引かれ、ウーゴはまだ路地を進む。
「おう、お二人、ナイフぁ要らねぇかえ?」
酔っ払ったのか、どことなくフラフラしていて輪郭のつかめない男が話しかけてきた。
「見せていただこう。」
ヴァイスはそう言うとナイフを受け取った。
それはなかなかによいナイフであった。
「ただ、私は職が少し違う故、遠慮させていただこう。また機会があれば。」
そういってヴァイスは足早に立ち去っていった。ウーゴもそれに続く。
また歩けば、その辺に沢山の人が寝転がっていた。これは俗にいうホームレスである。エマの姉により税率が引き上げられたため、生活できなくなった人間たちはこうやってこの裏世界に住み着くのである。
「ったくよぉ、確かに闇市はできなかったけどよ、やっぱりエマ様じゃねぇと税率がなぁ。」
かつてエマを疎んでいた者たちも、税の取立てにより、エマのほうがよかった、などと思うようになっていた。
小屋に戻った二人は、どうやら原因は裏のものではない、ということにうすうす感づいていた。
そして、これから対峙する相手が、森の魔法使いだということにも。
そして、一息ついた瞬間気の緩んだ二人、ヴァイスは服を脱ぎすて、ウーゴはぽけーっと虚空を眺めている。
そんな平和になった小屋を横目に、森の魔法使いは研究を進めていた。
女王を人魚に変えた魔法は完全ではないのである。本来ならば、対抗する魔法でもかけねば魔法が解除されることは無いが、如何せん不完全な魔法である。あと数ヶ月で元に戻ってしまう。それまでに、完全な魔法を完成させねばならない。
裏を返せばあと数ヶ月は猶予がある。あと数ヶ月以内に森の魔法使いを倒すことができれば、簡単にことが運ぶのである。
「ところで、お前ら最近どうよ。」
市場でとある商人がそう仲間に聞いた。
「最近って?何の話だ?」
「いや、景気よ。税率も上がったしよ。」
「まいっちゃうねぇ、まったく。こんだけ景気が悪いとやってらんねぇや。」
とまあ、この通り、エマの姉に実質的な政権が移ってからは見事なまでの不景気である。がしかし、居ないものは仕方が無い。
ふと目を覚ますと、隣にはヴァイスが寝ていた。相変わらず下着なところがなんとも残念だな、などと思いながらウーゴは自分の近くにあった毛布をヴァイスにかけてやった。
重たい木のドアを押して外にでると、もう日が暮れる寸前であった。
今から帰るとなると、暗闇の中山を降りねばならない。あまり斜面が急ではないとはいえ、夜は危険である。ウーゴは小屋に泊まることを決心した。
外の空気を少し吸ってから小屋に戻ったが、ヴァイスはまだ寝ていた。ウーゴは適当にキッチンにあるもので食事を作った。
ヴァイスが起きたのはその数分後である。キッチンのほうから何やら音がするので覗いてみると、ウーゴがなにやら皿に盛り付けていた。
気付いていないようだったので、そのまま無視してもう一度毛布を被って寝てみることにした。
暫く眠ったふりをしていると、ウーゴが肩を揺すって起こしてきた。薄めをあけて様子を確認しつつ、そのままウーゴのほうへ倒れこんでみる。ウーゴは少しうろたえながらも尚、ヴァイスの肩を揺すり、諦めたヴァイスはふっと起き上がった。
どうしたの、などと何も知らない
それは、ヴァイスが久々に食べるおいしい食事であった。
夜、布団は一つしかないので、小さなころのように体を密着させて寝る。山ということもあって気温が低くなる。ヴァイスは普段よりも快適な夜を過ごした。
尚、ウーゴのほうと言えば、ヴァイスの寝息がとても気になって一向に寝ることができなかった。ようやく寝につくことができたのは、ヴァイスが目を覚ます少し前であった。
起きたヴァイスは思い切って少し抱きしめてみた。恥ずかしくなってすぐにやめたが、なんともいえない高揚感を覚えてしまったヴァイスはもう一度すっと抱きしめてみた。
ふっ、とウーゴが目を覚ますと、目の前にヴァイスの顔があった。手は腰に回され、どうやら抱きつかれているらしいと推測できた。
「下着で抱きしめるのは本当にアブナイからやめてくれ…。」
ヴァイスは起き上がり顔に掛かった白い髪をわきによけるとうっすらと赤く染まった頬があらわになった。そのままヴァイスはシャワーを浴びると言って奥へ行ってしまった。
なんだかんだありつつも朝食を食べて、ヴァイスは服を着てから小屋を出た。
山を降り、森のほうへ歩く。とうとう森の魔法使いに正面から喧嘩をふっかけにいくのだ。
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