二代目手記

七月五日 晴天


・不死蝶について何の文献にも確実な事柄なし。


 しかし、客より興味深い話を聞く。海底奥深くに沈んでいるという方舟の中に不死のモノについての記載があるという。その記載によると、「神の愛によって、人は終焉を手にし、人の愛によって、蝶は永遠を手にす」と書かれているとのこと。確かなものではないが、私の大いに勝手な解釈により、ここに結論づける。

 彼の永遠は愛である。弱い生き物である人間が愛を謳い生まれた存在が彼である。愛しい者との終わり、愛しい世界との終わり、愛ゆえにそれらを恐れた人間たちが、彼に命を与え、彼から美しく剥がれる鱗粉(すなわち「希望」である)を自分たちの命に組み込んだのだ。

 彼に課された運命を思うと胸が痛い。しかし、それはけして呪いではない。弱いものたちの、愚かな、けれど愛しい願いである。そんな愚かで愛しいものたちを包む彼が、同じ純度の、優しい美しい愛で包まれることを切に願う。


 初夏のなかに、春の残り香がしている。彼は私の最期もずっと忘れないだろう。残していくのは本当に惜しい。けれど鱗粉を飲むことはしない。生きてる間ずっと彼の愛情に包まれていた。いつかまた生まれ変わり、彼に会いにいく。あんがい此方と彼方は近いそうだ。今度はもっと大きな愛情を返せるよう。彼を慕うたくさんのものがまた彼に会いにいく。


再会を楽しみに。生の女神、不死蝶のサイキ。











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不死蝶の鱗粉 ザネリ @lamer

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